原爆養護ホーム「矢野おりづる園」=5月30日、広島市安芸区 天皇、皇后両陛下は19日から、戦後80年に当たり広島県を訪問される。20日には、広島市安芸区の原爆養護ホーム「矢野おりづる園」で入所者らと面会する。2014年には在位中の上皇ご夫妻が訪れたが、両陛下は「次世代に戦争の惨禍を引き継ぎたい」との思いで臨む。施設長の村上俊章さん(60)は「2代にわたりお越しになるのは、この上ない名誉なこと。入所者の希望や勇気になり、大変ありがたい」と語る。
同園は07年に開設。現在約100人が暮らし、平均年齢は90歳を超える。自宅での生活が困難な被爆者の生活支援のほか、被爆体験を継承する取り組みも行っている。
村上さんは亡き祖父母がいずれも被爆者で、22年4月に施設長に就任。平和学習の一環で各地の中学生が施設を訪問した時などに、入所者の被爆体験を数多く聞いてきた。「きのう起きたかのように体験を語られるので、改めて原爆の悲惨さと平和の尊さを感じる」と話し、苦難の道を歩んできた入所者に施設で楽しく過ごしてもらいたいと願う。祖父母からも体験を聞いたが、施設に来て、後世に継承したいとの思いは一層強くなった。
上皇ご夫妻は14年12月、同園を訪れ入所者と懇談。上皇さまは別れ際に「本当にご苦労の多い日々を過ごされたと深くお察ししております」と語り掛けた。村上さんは、当時の施設長の柿木田勇さん(80)から「入所者一人一人へのお声掛けが本当に優しく、少し大きな声でゆっくり話されるなど、気遣いを感じた」と聞いた。今回、両陛下が訪問することになり、99歳の入所者は「お目にかかれるのは光栄なこと。それまで元気でいないといけない」と話しているという。
天皇陛下は同園訪問で、市内4カ所すべての原爆養護ホームを訪れることになる。村上さんは「天皇が代替わりしても、戦争や被爆を決して忘れてはいけないということを、国民に伝えようとしている」と受け止める。
被爆者の高齢化が進み、「あと10年もすれば、被爆者がいなくなり、施設の存在意義も問われる」と村上さん。戦争の記憶継承が年々難しくなることに加え、若い人たちの原爆や平和への関心が薄いと感じており、「歴史をきちんと学び、平和を願う心を育むことが大事。その先に平和が続いていく」と力を込めた。

原爆養護ホーム「矢野おりづる園」施設長の村上俊章さん=5月30日、広島市安芸区