世界有数のテレビ生産基地、中国・深センのTCLで日本戦略を聞く【道越一郎のカットエッジ】

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2025年06月18日 17:31  BCN+R

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中国 広東省深セン市に位置するTCL
 日本のテレビ市場で、じわじわとシェアを伸ばしているメーカーがある。中国のTCLだ。販売台数では昨年12月、ソニーやパナソニックを抑えて4位に浮上。以降このポジションを堅持している。テレビの世界シェアでは第2位を走る一大メーカー、TCL。いよいよ今年から日本市場に本格攻勢をかけるという。中国・深センにある本社と工場を訪れ、その日本戦略を取材した。

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 TCLのアジア・太平洋地域の販売を統括する、TCL Industrial Holdings Asia-Pacific Business Group マーケティング本部の張国栄 総経理は、「日本のテレビ市場でTOP3には入りたい。そのためには、20%以上のシェアが必要。当面のターゲットはシャープだ」と語る。5月現在、BCNランキングによる日本の液晶テレビの販売台数シェアは、TCLが4位で10.9%。一方1位TVS-REGZAは25.1%、2位シャープは19.9%、3位のHisenseでも17.9%。上位3社には、かなり水をあけられている。これをどうやって乗り越えていくのか。張 総経理は「まず製品力。日本の消費者が買いたいと思う製品をつくることだ。次に、宣伝・広告。消費者に製品の良さをどう伝えるかも非常に重要。他にも、チャネル政策、物流、アフターサービスも充実させる必要がある」と語る。なかでも特に強調するのは、日本向けの製品づくり。いわゆる「ローカライズ」だ。

 「ハードウェアの品質そのものには自信を持っているが、ローカライズがまだ足りない。日本にはすでに企画・研究のメンバーも配置している。調査力を高め、日本市場に、よりふさわしい製品を投入していきたい。また、日本ではリフレッシュレートの高さ、ミニLEDによる画質の良さが評価される傾向が強い。これらに応えるモデルを積極的に投入していく。チャネルでは、ヨドバシカメラ、ビックカメラ、エディオン、ケーズデンキなど、それぞれに合った製品展開を進め、連携を密にしていきたい」(張 総経理)。製品のローカライズといえば他にも、日本の消費者が受け入れやすい絵づくりや音づくり、さらにはメニュー体系も含めた、違和感のない操作系の実現、放送波以外の動画コンテンツ視聴の使い勝手改善なども、日本での売り上げには影響しそうだ。

 また張 総経理は「ブランド力をいかに高めるかも重要」と続ける。「今年の4月までは、サッカー日本代表の堂安律選手とアンバサダー契約を結んでいたが、これからはオリンピック」と話す。この2月、IOCと「ワールドワイド・オリンピック/パラリンピック・パートナー契約」を締結。これを契機に、オリンピック推しを進める。本拠地深センでは、社屋のみならず、いたるところに五輪マークを使い、企業名をアピール。TCLのロゴ周辺にはすべて五輪マークがセットで掲げられている。特に日本では、絶大な知名度を有するオリンピックの五輪マークをひっさげ、知名度向上からシェアの拡大を狙う。

 TCL最大の特徴は、表示パネル製造会社TCL CSOT(TCL華星)を有していることだ。テレビの表示パネル供給で、同じ中国のBOEに次ぐ世界2位のシェアを誇る。TCL Technologiesの子会社で、表示パネル製造を一手に担うのがTCL CSOTだ。TCL CSOT 深セン工場 技術企画センターの周明忠 センター長は「わが社では、液晶パネルだけでなく、有機ELパネルもカバーする。液晶では、VAパネルを進化させたHVAパネルはもちろん、IPSパネルも含めたすべての生産ラインがある。需要に応じて自在に生産可能なのが強みだ。また、ミニLEDやマイクロLEDの技術を応用し、LEDで直接映像映し出すLEDビジョンの生産体制も整えた」と語る。

 現在一番注力しているのは、量子ドットミニLEDのHVAパネルだという。2025年モデルのCシリーズに採用されている。周センター長は「7000対1の高コントラストを実現。液晶パネルのバックライトを分割し制御する技術である「ローカルディミング」にも力を入れている。5000分割ながら1万分割と同等の効果を得られる技術も投入した」という。また、液晶パネル自体の周囲に生じる黒い帯を極限まで細くした、いわゆる「ゼロボーダー技術」もユニークだ。「従来、液晶パネルの周囲に必要だった黒い部分。ここには回路も仕込まれているが、その面積を最小化。このため設計段階から製造工程までも見直した。黒い部分の面積が小さくなると、湿度によるパネルの劣化が問題になるが、材料の変更で対応した」(周センター長)。実際、新製品C8Kのベゼル部分を凝視すると、わずかに黒い帯があるのみであとはテレビの枠しかなく、まさに全面パネルという感じだ。

 今回訪れた工場は、中国の深セン近郊と恵州にある2つの表示パネル製造工場だ。工程は基本的にすべて自動化されている。工場内で時折見かける防塵服を着た人たちは、メンテナンスや不具合チェックの要員のみ。そして工場内は薄暗い。中国の施設はおしなべて薄暗いところが多いのだが、ここが暗い理由は他にもある。自動工場であるために明るくする必要がないのだ。また一部に光を使って焼き付ける工程があるため、あえて暗くしている、という。見学通路も一部はオレンジ色の光で薄暗く照らされている。内部では粛々と液晶パネルの製造が進む。見学コースがある廊下には騒音は全く聞こえてこない。パネルがコンベヤーを静々と流れていく。無機質な空間に広がる大きな製造装置の群れ。まさに未来の工場そのものだ。

 液晶パネル製造工程は、ガラス原料からガラスをつくるところからスタートする。パートナー企業のAGC(旧 旭硝子)の工場が隣接しているからできる芸当だ。テレビの製造工程をガラス原料からパネル製造、そして完成品へと一気通貫で行えるのは、世界でTCLだけではないだろうか。液晶パネルの製造は、ガラスパネルが自動的にTCL CSOTの工場に搬入されるところから始まる。2枚のガラスを張り合わせ、パネルの大きさに切り出し、もう1つの工場を経て表示パネルとして完成させる。完成したパネルは、別の組み立て工場に自動搬入され、組み立て工程を経て、テレビが完成する。

 TCL CSOTは、日本メーカーにも多数の表示パネルを供給している。TV・業務用ディスプレイKA部Tonny Kim 副部長は「日本のある有名テレビメーカーが販売する、120Hzのプレミアム液晶テレビの表示パネルは、大部分がTCL CSOT製だ」と明かす。もちろん、他にも多くの企業にパネルを供給している。さらに、供給にあたっては供給先が求める基準をクリアすべく、細かなカスタマイズを施す。もちろん生産ラインも、こうした多岐にわたる要求を柔軟にこなせるよう設計されている。

 さて、日本のシェアに話を戻す。日本のテレビ市場におけるTCLの販売台数シェアは、ジリジリと上がってきた。2022年あたりまでは1桁台、7%前後で推移してきた。毎年、新生活需要が高まる3月には、小型の低価格テレビ販売でシェアを稼ぎ、一時的に13%台まで上昇、というパターンを繰り返していた。しかし今年の3月は、11.3%とさほど大きなピークはなかった。一方で、昨年12月以降安定的に2桁シェアを維持できるようになっている。

 実はこれ、戦略的なものだ。23年3月、TCLの液晶テレビのうち、30型台の構成比は40.9%、24年の3月は36.6%と他社に比べ突出して高かった。つまりここで台数を稼ぎ、シェアを獲得してきたわけだ。ただ今年は、30型台の構成比は29.2%と3割を切り、より大型、ハイエンドの製品に販売をシフトさせ始めた。張 総経理も「今年から、大型モデルやミニLEDモデルを中心にハイエンドのラインアップを厚くしている」という。こうした戦略で、日本市場でどこまでシェアを伸ばせるか。

 日本市場でTOP3入りを目指すTCL。しかし、上位3社の壁はまだ厚い。いずれも日本企業と関係の深いブランドばかり。TCLもローカライズに力を入れるとはいえ、独力では難しい部分もありそうだ。手っ取り早いのは、日本企業の買収だろう。TCLは販売台数シェア4位。足元でソニーもパナソニックも抜いた。しかし、販売金額ベースでは、実はまだ6位に甘んじている。今年からスタートしたプレミアムモデルの本格投入をきっかけに、この状況を抜け出すことはできるだろうか。戦いはこれからだ。(BCN・道越一郎)

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  • 今日の生産ラインで生まれる良質な仕事の多くは、技術者やエンジニア向けのものであり、いわゆるブルーカラー労働者向けではない。
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