
6月18日、クラブワールドカップ。スペインのレアル・マドリードは、サウジアラビアのアル・ヒラルと1−1で引き分けている。シャビ・アロンソ監督体制になって、注目のデビュー戦だった。
〈カルロ・アンチェロッティ時代と比べて、アロンソ新監督は何を変えたのか?〉
それが最大のポイントだったわけだが......結論から先に言えば、新しいチームの姿はほとんど見えていない。
スペイン大手スポーツ紙の見出しは、どこも手厳しかった。
「もの寂しげなデビュー」(『アス』)
「シャビ、課題は山積み」(『マルカ』)
「そこそこのドローでスタート」(『エル・ムンド・デポルティーボ』)
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さすがにこの一戦で是非を問うようなことはないが、物足りなさが滲み出ている。まるで、アンチェロッティ時代のデジャヴだったからだ。
特に前半のレアル・マドリードは自分たちでリズムを生み出せず、むしろ押し込まれながら、失点を回避するしぶとさがあった。そしてカウンターから、高熱で欠場したキリアン・エムバペの代わりに先発した若きFWゴンサロ・ガルシアが一発を仕留めた。効率はよかったし、勝負強さも示したが、それはアンチェロッティの"遺構"だった。
〈ボールを完全に支配し、パスを回しながら、何度もチャンスを作り出す〉
アロンソがレバークーゼン監督時代に見せたスペクタクルなプレーの"回路"は見えなかった。結局、PKから失点し、その後、PKを奪ったものの外して引き分けた。
もっとも、チームとして合流まもなくで、スタメンやフォーメーションもアンチェロッティ時代を継承せざるを得なかった。エムバペの欠場だけでなく、故障者も少なくなかった。
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「4年間やってきたものを、(チーム練習をして)たった4日間では変えられない」
守護神ティボー・クルトワの言葉は真理だろう。
ポジティブな面もあった。
たとえばハーフタイムを経て、アロンソ監督は後半からギアを入れさせている。そのマネジメントは瞠目に値した。選手ひとりひとりを発奮させる。それができる手腕をあらためて証明した。結局、勝ちきれなかったが、人心掌握力は過去のジネディーヌ・ジダンやアンチェロッティに通じるもので、レアル・マドリードのような常勝軍団を率いるのに不可欠な要素だ。
【目を引いた20歳のスペイン代表CB】
アロンソ監督は会見の言葉ひとつをとっても、単なる説明でも称賛でもなく、思考を刺激する示唆が含まれる。
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「ジュード(・ベリンガム)はピッチのあらゆる場所を"制御できる"オールマイティなセンターMFと言える。とにかくプレーに参加するのが好きだが、ゴールに絡んだプレーをするセンスを持っていて、彼にとって正しい場所を見つけることが、チームにとっても助けになるだろう」
読解すると、ベリンガムはオールラウンドな能力と意欲があるが、最大の活躍場所はゴールに近い位置で、負担を減らし、正しいポジションでプレーさせるべき、といったところか。論理的なアプローチだ。
そしてアル・ヒラル戦では、アロンソのロジックを体現するセンターバックがいた。
新たに獲得したスペイン代表センターバック、ディーン・ハイセンは、20歳とは思えないプレーを見せた。長身で相手の高さに負けず、ポジショニングがよく、クレバーでラインをコントロールできる。何よりビルドアップのうまさは尋常ではない。縦につけるパス1本で違いを見せ、この日、ライン間に入ったジュード・ベリンガムに入れたパスはことごとく得点の香りがしていた。
アロンソ監督は、レバークーゼン時代のように能動的で「攻め続ける」展開を望んでいる。それには、それぞれが正しいポジション、正しいタイミングでプレーし、協調してお互いが高め合うことが条件になる。その点、ハイセンはひとつの基準だ。
それ以外は、これから最善の組み合わせを探ることになる。
たとえば、バックラインだけでもまだまだ不確実。リバプールから新たに獲得した右サイドバック、トレント・アレクサンダー=アーノルドはアル・ヒラル戦でほとんど目立たなかった。左サイドバック、フラン・ガルシアはタフさを見せたが、ベンフィカとの獲得交渉が大詰めのアルバロ・カレーラス次第だろう。ラウール・アセンシオは体調不良をおしての出場で、避けられたはずのPKに絡んでしまった。
ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、エムバペをどう共存させるのか。新たなストライカーを獲得するべきか、昨シーズンは3部ながら25得点で、アル・ヒラル戦もゴールセンスを見せたゴンサロ・ガルシアにかけるか。アルダ・ギュレル、フランコ・マスタントゥオーノというレフティをどう用いるか。まだまだ組み合わせが見えない。
ひとつの懸案は、「中盤にプレーメイカーが必要」という点だろう。現在のメンバーには、テンポを作れる選手がいない。フェデリコ・バルベルデ、オーレリアン・チュアメニはタイプが違うし、ルカ・モドリッチは退団する。
アロンソ監督自身は現役時代、「将軍」と言われる司令塔だっただけに、プレーメイカー不在はわかっていることだろう(レバークーゼン時代にはスイス代表MFグラニト・ジャカがいた)。レアル・ソシエダB時代の教え子であるスペイン代表MFマルティン・スビメンディの獲得交渉は難しそうだ(アーセナル移籍が濃厚)。どんな手を打つか。その選択こそ、アロンソ・マドリードの分かれ道になる。
「後半は、ボールを持つことでプレーがよくなった」
アロンソ監督は言う。今は試合を重ねるたび、改善を試みる段階だ。次戦は22日、メキシコのパチューカとの一戦だ。