
今年2月、北海道苫小牧市にある「nepiaアイスアリーナ」で行なわれたオリンピック世界最終予選。アイスホッケー女子日本代表"スマイルジャパン"の新鋭、輪島夢叶(22歳・道路建設ペリグリン)は、ミラノ・コルティナ五輪出場への道を自身の手で切り開いてみせた。フランス、ポーランド、中国との3連戦、3試合連続となる5得点で大会得点王に輝き、特にフランスを相手に決めた2点は、チームを大舞台へ導く貴重な得点となった。
命運を決める一戦、流れを決められる選手は「星を持っている」と言われる。言わば、スターの素質である。それは誰にも備わっているものではない。
華やかな輝きを放った後、輪島は脚光を浴びた。
アイスホッケー女子日本代表・輪島夢叶インタビュー 後編
「今まではインターネットで自分のことを書かれることもなかったのですが、オリンピック出場決定後にはうれしい言葉もたくさん見かけました。Instagramのフォロワーも増加しましたね。試合を見てくれていた人がこんなにいたんだって。」
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輪島は照れたように言う。氷上で格闘していた彼女が、フェイスガードを外した瞬間の可憐さとのギャップも魅力だ。
現在、輪島は地元の運輸会社の経理担当として働きながら、オリンピック出場を目指している。日本女子アイスホッケーリーグは、北海道が主戦場。(選抜チームを除いた)10チーム中9チームが道内のチーム(残り一つが東京のSEIBUプリンセスラビッツ)で、輪島の所属するペリグリンは、DaishinやSEIBUとしのぎを削る強豪だ。
氷の上、陸の上、ジムと、ハードな練習を積み、シーズン中は休みもない。そんな輪島の息抜きはドライブ。何も考えずに車を走らせることもあるし、友だちと都合があったら近くの海へ、スターバックスに寄っておしゃべりをする。
ミラノへの道、彼女の今に迫った――。
(>>インタビュー前編を読む)
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【何か"持っている"かも、と感じた最終予選での活躍】
――ミラノ・コルティナ五輪予選では、チームが欲しかった得点を次々に決め「星」を感じさせました。
輪島(以下同)「(自分にとっても)ターニングポイントになった大会だと思います。最終予選の3試合で自信がつきましたし、オリンピック出場という目標を掲げていたので、それが果たせてよかったです」
――目覚ましい活躍でしたが、緊張はなかったですか?
「めちゃくちゃありました(笑)。前日は、ヤバいくらい緊張していました。"緊張しい"なので、平常心でいられるように、年上の選手たちとたくさん会話するようにしています。予選が始まって1、2回試合に出れば(落ち着く)と思っていたので、そこまではなんとかって」
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――集中しているように映りました。リンクに入ると人が変わる?
「どちらかというとそうですね(笑)。試合前の整列で、気持ちが切り替わるのかなって思っています」
――フランス戦の2点目、リバウンドからのハイショットは見事でした。
「2点目はいいところにリバウンドが出てきて......。ハイショットに関しては、今までの私なら、スライドで打ってキーパーに止められてしまうのが8、9割だったと思います。夏の代表合宿で、監督から『リバウンドをハイショットで打て』と言われていたので、"出てきたら上だけ"って意識していてよかったです。
リバウンドで出てきたパックをすぐに叩くハイショットは難しいのですが、力を抜くことだったり、打つタイミングだったり、練習を重ねてきました」
――実はフランス戦が輪島さんにとってスマイルジャパンでの初得点で、そのあと3試合連続得点です。
「1試合目(フランス戦)で2点決めたのですが、2試合目(ポーランド戦)も2点決められるとは思っていなかったので、"なにか持っているかも"という自覚もありました(笑)。今まではなかった感覚で......ただ、やってきたことには自信があったので、練習試合でも得点に絡めるようになっていました。オリンピック最終予選で少しでも活躍して、アイスホッケーが盛り上がったらって」
――(最終予選は全国放送もされ)華々しい活躍で、有名人になったのでは?
「お兄ちゃんには『どうしちゃったの?』って(笑)。身内からしたら、信じられないんでしょうね。今まで点数をガンガン取れるプレーヤーではなかったですし、"緊張しい"だし、びっくりしたんじゃないかな。でも、家族に活躍を見せられてよかったです!」
【北京オリンピックよりいい成績を】
――活躍の秘密はあったのですか?
「昨シーズン、私のホッケーはガラッと変わったと思います。シュートへの意識が180度変わりました。今まで私のホッケーを見ていた人には全く違って映るんじゃないかな。シュートを打たないといけないところでパスを選択する選手だったのが、積極的にゴールを狙うようになりました」
――サッカーでも「シュートを打て」と周りは簡単に言いますが、「足を振る」ということ自体、難しいです。厳しい態勢だと躊躇することもあり......。
「おっしゃるとおりで、自分も"打っても入らない、打っても何にもならない"と思ってしまっていたんです。昨シーズンは夏から代表合宿の機会が多く、そこで結果として点数を決められたことが自信につながりました。変わり目だったんだと思います」
――前回の北京オリンピックの時は18歳で、手首のケガもあり出場を逃していた。その反骨心も今回は大きかったように思えます。
「それはめちゃくちゃありましたね。当時は、無理したら(オリンピックに)行けたのかもって思いもあり、悔しかった。でも、(右手首の手術した痕がまだ痛々しく残った箇所を、腕時計を外して見せながら)我慢すればプレーはできるけど、本領発揮はできない、中途半端な状態でした。だから、"しっかりリハビリをして完全復帰したうえで、4年後を目指そう"と気持ちを切り替えました」
――ミラノは約束されたひのき舞台ですね。スマイルジャパンはオリンピック初出場となった長野大会(1998年)を皮切りに、ソルトレイク(2002年)、ソチ(2014年)、平昌(2018年)と着実に力をつけて引き分け、初勝利などずっと右肩上がり。前回の北京大会は準々決勝進出、現在は世界ランキング7位で、ミラノに向けてはメダルを待望する声も多いですよね。輪島選手もさらに注目を浴びることになるでしょう。
「スマイルジャパンの全員が"北京オリンピックよりいい成績を"と思っているはずです。予選突破は確実にしないと。でも、そのためには(今年4月の)世界選手権の試合内容じゃダメですね(王者カナダに準々決勝で敗退)。スウェーデンに勝てずに2位通過で、1位で上がらないと(決勝トーナメントの組み合わせが)厳しかった。オリンピックでは"全員で勝つ"戦いを見せたい思います!」
(インタビュー前編を読む)
【Profile】輪島夢叶(わじま・ゆめか)
2002年10月19日生まれ。道路建設ペリグリン所属。北海道・苫小牧市出身。ポジションはフォワード。スティックはライト。
家族の影響でアイスホッケーを始め、2017年にはU18世界選手権 (チェコ)にチーム最年少で代表に選出された。駒大付属苫小牧高では、女子ホッケー部の一期生としてプレー。道路建設ペリグリン入団後の2022年から代表のトップディビジョンに選出され、今年2月、地元・苫小牧で行なわれた、ミラノ・コルティナ五輪出場権を争う世界最終予選グループGでは大会得点王(3戦5得点)の活躍。五輪出場権の獲得に大きく貢献した。