
「事故の相手が100%悪いなら、すべて保険会社が対応してくれるはず…」
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――そう思い込んではいませんか?
実は、交通事故の被害者になったとき、あなたを待ち受けるのは想像以上の厳しい現実かもしれません。信号待ちで停車中に追突され、明らかに無過失だったにもかかわらず、自分で示談交渉を強いられたという事例もあります。
交通事故後の"知られざる苦悩"と、今すぐできる対策について、ファイナンシャルプランナーの金子賢司さんに聞きました。
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ある平日の早朝、通勤途中だった30代女性Aさんは、片側2車線の県道で信号待ちのため停車していました。
その時、後方から来た2トンの配送トラックが前方不注意により、Aさんの車に追突。Aさんはむち打ち(頚椎捻挫)と腰椎捻挫によって全治約3カ月のケガを負うことになりました。また、Aさんの車は全損。
このとき、Aさんの車に搭載されていたドライブレコーダーには、相手の明らかな過失が記録されていました。
事故の状況から見て、Aさんには全く過失がないと思われる状況でした。
過失ゼロでも自分で交渉しなければならない!?
警察の実況見分調書をもとに調査したところ、追突事故で被害車両が完全停止していたことが決めてとなり、加害者側の保険会社も10:0を受諾しました。
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ところがAさんが自身の加入している保険会社に連絡をしたところ、思わぬ言葉を耳にします。
「10:0案件は示談交渉の代行ができません」
交通事故が発生したら、まずは保険会社に連絡するのが基本です。加入しているものが代理店型保険であれば、担当者から「当事者だけで示談しないでください」と指示されるのが一般的です。その後、保険会社同士で過失割合を調査・決定しますが、この割合によって示談交渉の進め方が変わります。
しかし、保険会社同士で過失割合が10:0となると、被害者側の保険会社の損害調査係から「今回の案件は、こちらの示談サービスを利用できません」と言い渡されてしまうのです。
実は保険会社の示談交渉サービスは、あくまでも保険金の支払いに必要な過失割合を算定するために必要な行為の延長という位置づけであり、被害者側に過失がない案件に保険会社が示談交渉をすると「非弁行為(資格のない人が、報酬を得る目的で弁護士にのみ認められた行為をすること)」に該当するのです。つまり、Aさんは自分で示談交渉をしなくてはなりません。
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被害者は、交渉のプロフェッショナルである加害者側の保険会社と交渉しなければならないため、妥当性を追求されて支払い金額が減らされるなど、不利な結果になりがちです。
「保険会社のほうが交渉力は圧倒的に上なので、過失ゼロのケースは納得感の少ない結果になることも。悪い言い方をすれば、ほぼ相手保険会社の言いなりで終わるケースがほとんどなのです」(金子さん)
そのため、Aさんのように事故の被害者となった人々は、「泣き寝入りするか」「困難な交渉を続けるか」という苦悩に直面します。多くの人は、トラブルを大きくしたくないという葛藤も抱えます。さらに、どこまで請求できるのか、適正な賠償額がわからないという不安も大きな負担となるでしょう。
意外と知らない…被害者側にかかる予想外の費用
交通事故の被害者が直面する経済的・精神的負担は、一般的に想像されているよりもはるかに大きいものです。事故直後から始まる長期にわたる手続きと交渉は、被害者に膨大な時間と労力を強いることになります。
まず、通院しながら同時に仕事を続けなければならない身体的・精神的ストレスに加え、煩雑な書類作成や通院証明の収集には想像以上の労力が必要です。
また特に見落とされがちなのが、レンタカー利用に関する費用です。事故で自分の車が使用できなくなった場合、代替交通手段としてレンタカーを利用するのが一般的ですが、保険会社との交渉の中で利用期間や妥当性が厳しく精査され、最終的には約3割も減額されることがあります。
「領収書の提出を求められるなど、細かな手続きも被害者の負担になるでしょう」(金子さん)
慰謝料の算定においても、被害者は思いのほか厳しい現実に直面します。
慰謝料には3つの算定基準があり、金額に大きな差があります。最も低いのが自賠責基準、次に任意保険基準、最も高いのが弁護士基準です。しかし、多くの被害者はこの仕組みを知らないため、保険会社から最初に提示された金額(通常は最も低い基準)で合意してしまいがちです。仮に仕組みを知っていても、「どこに相談すればよいかわからない」という理由で、本来受け取れる金額より少ない慰謝料で示談してしまうケースが少なくありません。
「加えて、精神的ストレスや家族の看病に要した費用は『評価困難』として切り捨てられ、実質的な損失は被害者が全面的に負担することになります」(金子さん)
万一に備えてできることはある?
10:0事故で被害者に過失がない場合、被害者は基本的に示談交渉を自身で行わなければならないという現実。過失がなくても、適切な補償を受けるためには知識と準備が必要です。
「毎月数百円を支払って自動車保険の弁護士費用特約を付帯していれば、10:0事故でも弁護士に依頼して一定額まで費用が賄われ、慰謝料増額が期待できます。
そのほか、ドライブレコーダーを設置する、現場写真を極力多く残しておく、なるべく多くの目撃者の連絡先を確認しておくなど、なるべく立証不足を防ぐことが大切です」(金子さん)
「弁護士費用特約」への加入とドライブレコーダーの設置は、もしもの時の強い味方となるでしょう。
◆金子賢司(かねこ・けんじ)/ファイナンシャルプランナー 東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。