期待を超えるトリッキーな続編 グロさや世界観や物語が“深化”した「JUNK WORLD」レビュー

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2025年06月21日 20:00  ねとらぼ

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「JUNK WORLD」 (C)YAMIKEN

 「JUNK WORLD」が現在、絶賛公開中だ。本作は2021年に劇場公開された「JUNK HEAD」の続編で、「JUNKシリーズ」3部作の「エピソード1」と銘打たれている。


【動画】「JUNK WORLD」予告編


 前作「JUNK HEAD」は当初はミニシアター系での限定的な上映だったものの、圧倒的な口コミ効果で拡大公開され、興行収入は1.4億円を突破した。そのカルト的な人気に応えるように、今回は「期待を超えるトリッキーな続編」になっていた。ネタバレにならない範囲で、今作の特徴と面白さを記していこう。


PG12指定納得のグロさと、2パターンの上映があることに注意

 内容に触れる前に、本作の注意点に触れておきたい。


 まずは、レーティングがPG12指定(小学生には助言・指導が必要)となっており、刃物での殺傷や流血シーンがふんだんにある上に、「SMプレイ」をどうしたって想起させる敵キャラがいたり、「あれ?『サブスタンス』を見に来たんだっけ?」と錯覚する場面まであったりと、てらいなく悪趣味さを押し出していることだ。キャラクターが人形なため、ある程度のエグさは軽減されているとはいえ、小さなお子さんとの鑑賞には注意が必要だろう。


 前作「JUNK HEAD」もG(全年齢)指定にしてはなかなかグロく、特に「恐ろしく気持ち悪い食事システム」に戦慄したが、今回の食事シーンのヤバさ(下ネタ的な意味で)はそちらを遙かに凌駕していた。ここはいい意味でドン引きしながら笑ってほしい(※笑えるかどうかは個人差があります)。


 また、本作の上映形式には2つのパターンがあり、日本語でのセリフが話される吹き替え(?)版と、前作と同様に謎の言語に字幕が付けられる「ゴニョゴニョ版(日本語字幕)」が存在している。日本語の親しみやすさを求める方は前者を、前作と同じく謎の言語や字幕の味わいを期待する方は後者を選べばいいだろう。


 なお、物語そのものはほぼ独立しているので、前作を見ていなくても楽しめるだろう。また、エンドロールにも目がくぎ付けになるはずなので、途中で帰る人はほぼいないだろうが、その後におまけまで最後まで席に座っておいてほしい。


スタッフは平均3人から6人くらいに増えていた

 この「JUNKシリーズ」の何よりの特徴は、やはり「ストップモーションアニメ」であること。小物や人形を製作し、それを少しだけ動かし撮影し、それをまた動かして撮影し……という恐ろしく手間がかかる手法でありながらも、監督の堀貴秀は絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、セット、映像効果などなど、ほぼすべての分野に関わり作り上げているというのが、何よりすさまじい。


 MANTAN WEBのインタビューによると、製作スタッフは「前作は平均3人くらいで作っていましたが、新作は6人くらい」と倍にはなっていたそうだ。いや、それでも少ないよ。製作期間も前作の7年に対して今作は3年と短縮されている。いやいや、それでも長いよ。


 今回はCGや3Dプリンターも導入して効率化も図っているようではあるが、それでも堀監督は「基本的に全部に関わってやっているので、自分はフル稼働」「週末にスーパーで食材を買って、洗濯するくらいで、それ以外はほぼスタジオにいます」とも語っている。「人生をこの作品に捧げる」クリエイターの執念は、今回も出来上がった作品から感じられるのは間違いない。


前作よりも複雑なプロット、そして衝撃の展開

 今回の「JUNK WORLD」は前作「JUNK HEAD」からなんと「1042年前」という遠い過去を描く「前日譚」となっている。また、前作は「超ヤバイ地下世界でのサバイバルアドベンチャー」という分かりやすいエンタメであったが、続編となる今回は物語の全体像を説明するのがなかなか困難な、複雑怪奇ともいえるプロットになっている。


 それでも、今回の物語の発端そのものはシンプル。かいつまんで言えば、「2つのチームが共に地下都市への調査に向かおうとするが、カルト教団の強襲を受ける」ことから始まる。しかし、その後「あの時のアレってそういうことだったの?」「まさか、こんなことになるとは!」な驚きの展開が待ち受けている。


 4つのパートに分かれた構成にもしっかりとした意味もあり、特に「第一幕」のラストには「えっ!?」と声を上げるほどの衝撃があった。そのため、なるべくネタバレなしで見た方がよいだろう。


草薙素子のような隊長がカッコいい

 そして、今回の2つのチームのキャラクターそれぞれが魅力的だ。人間チームの女性隊長である「トリス」は、例えるならば「攻殻機動隊」の草薙素子大佐のようなクールビューティー。対して人造人間「マリガン」のチームの隊長「ダンテ」は、冷静かつ思慮深い性格の持ち主だ。


 初めはギクシャクしていた2人が次第に打ち解けていき、アクションで「連携」をする様も面白い。そのトリスの配下となる従順なロボットの「ロビン」に意外な活躍が用意されていたり、その他にも見るからにイヤな性格をしたキャラにしっかり「しっぺ返し」が用意されているところも見どころとなる。異なる価値観を持つ者たちが旅を通じて心を通わせていく「バディもの」「チームもの」「ロードムービーもの」としての魅力が根底にあるのだ。


 さらに、後に登場する「バステト」というお姫様のキャラクターがとてもかわいらしく、彼女に待ち受ける運命と、そのけなげさに涙腺を刺激されるところもある。アクションもさらにバラエティー豊かになり、独特のとぼけたユーモアセンスに相変わらずクスッとする。


 そして、このシリーズの壮大な世界観が、これまでごく一部しか明かされていなかったことにあらためて気付かされる。カオスに見える展開が続く一方で、実は綿密に計算された物語であることが、次第に明らかになってくるのだ。


 また、本作は“前日譚”でもあるため、前作「JUNK HEAD」へとつながる要素も随所に盛り込まれている。こうした描写の積み重ねにより、世界観を着実に“深化”させていくのが、この映画の真骨頂だといえる。前作から「1042年」という長い年月の隔たりがある理由も、きっと本作を通じて理解できるはずだ。本作を見終えるころには、すぐに前作も見返したくなるだろう。


あらゆる意味で理想的な続編かつ、オリジナリティーも極まった内容に

 例えるのであれば、本作はアクションの見せ場の楽しさも、グロテスクさも増した続編という意味では「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」のようでもある。直線的なわかりやすさがあった前作に対し、複雑に錯綜した物語へと変貌したことは「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」も連想した。世界観やキャラクターの魅力を引き継ぎつつも「同じことの繰り返しにはしない」理想的な続編といえるだろう。


 また、堀監督は新海誠監督がほぼ1人で作り上げたアニメ「ほしのこえ」を見て「自分も」と一念発起をして「JUNK HEAD」の制作に取り掛かっており、ソビエト連邦のSFコメディー映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」や、弐瓶勉によるマンガ「BLAME!」にも 大きな影響を受けている。


 つまりは既存の作品も大いに参照しているのだが、その上でなお際立つ圧倒的なオリジナリティーと、作り手の独りよがりにはならない大衆受けするエンタメ性を備えている。そんな「JUNKシリーズ」を作り上げた堀監督の才能、そして尋常ならざる努力に、あらためて感嘆せざるを得ない。


 今回の「JUNK WORLD」では下ネタやグロさや物語の複雑さがパワーアップしていて、少し見る人を選ぶようになった気もしなくもないが、それはそれでより「クセになる」魅力にもなっていた。


 3部作の完結編も、早く見られることを期待したい(でも堀監督にあまり無理はしないでほしい)。


(ヒナタカ)




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