
【写真】低音イケボ! “ケロッペ”の声優は?
■アニメ好きほど騙される! “あるある”裏切る展開にハマる
メインビジュアルやホームページでは、5人のかわいらしい女の子が揃いの衣装を着て歌い踊る姿が描かれている本作。いわゆる“美少女アニメ”? よくある“魔法少女もの”? という印象を受ける人も多いだろう。実際筆者もそうで、放送後しばらく視聴を溜め置いていた。なぜなら、「だいたい展開が読める」から。女児向けではない魔法少女ものアニメといえば、かわいい作画と裏腹に闇落ちや鬱展開などが用意されているのがお約束。ついでに、主人公を魔法少女の世界に導くマスコット的キャラはだいたい本性がエグいというところまでお決まりだ。
『前橋ウィッチーズ』は、そんなアニメを多数見てきた人ほど裏切られる展開が続く。主人公・赤城ユイナは元気でちょっと天然な、カメラとオシャレが大好きな普通の女子高生。蛙を模した「ケロッペ」に導かれ、4人の魔女見習いとともに、魔女としても人間としても徐々に成長していく。魔法少女たちのもとを訪れる客たちの悩みも、5人が抱える悩みも、非常にリアリティがある。逆に言えば大げさではない。そして5人はそんな悩みを受け入れるも、魔法を使って解決“しない”ことも多々ある。
しかし、それでいいのだろう。解決せずともなにか小さな光を見つける、気持ちを切り替える、それだけで物事はいい方向に向かっていったりする。この物語は、魔法少女たちが魔女を目指しながらも、いつしか無意識に魔法から脱却しようともがいているように見える。もっと言うと、主人公たちの中で魔法という存在がどんどん“どうでもよくなっていく”ように感じるのだ。こんな魔法少女はアニメ界にいただろうか。
■解像度高っ! “そこにいる”女子たちを描く脚本
先ほど、登場する悩みにリアリティがあると述べたが、それは悩みが小さいという意味ではない。当人にとっては心身の健康に影響するほど重くのしかかっている。例えば、ツンデレで口の悪いアズは、主人公たちの前では魔法でスリムな姿をしているが、実はぽっちゃりしていて、見た目からいじめられ不登校。自身もルッキズムに囚われている。元気いっぱいで天真らんまんなチョコは、自宅では忙しい母に代わり祖母の介護や幼い弟妹たちの世話を請け負っていて常に寝不足。他にも憧れの人に振り向いてもらうために自分を見失ったり、ネット上での出会いで性犯罪に巻き込まれそうになったり、あまりにも現代を生きる少女たちに寄り添った問題が次々に出てくる。
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このリアルを突き詰めた脚本を担当したのは、朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)やアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』で知られる吉田恵里香。山元準一監督のインタビューによれば、アズをぽっちゃりさせたりヤングケアラーをテーマにしたりというのは吉田の提案だという。悩みをきれいに解決させない展開や、アニメを現実逃避の道具にしない構成が、現代という時代に見事にマッチした。
■舞台“前橋”への愛がヒシヒシ ファンタジーなのにご当地感
本作はタイトルに『前橋』と入っているように、基本的に前橋でストーリーが展開していく。オープニングですでに中央通り商店街、弁天通り商店街が登場。劇中でも前橋のスポットが多数登場している。主人公らが営む店は、「叶えたい願いがある人の前に“光るシャッター”が現れ、開けると魔法の店につながっている」という形で出現するのだが、“シャッター”を介するというのも前橋らしい。実際、前橋の商店街にはシャッターが下りたままの場所も少なくない。本作では前橋の“魅力”ばかりを押し出さず、現在のリアルな前橋をまるごと愛して描いている。
そんな前橋で暮らす主人公たちはイマドキ女子高生ではあれど、東京に憧れを抱く“キラキラしきれてない”女の子たち。そこがまた愛おしい。都心からは在来線で2時間半ほど。近くはないが、小旅行感覚で日帰り聖地巡礼も可能な距離感なので、最終回を見た後は彼女たちの足跡をたどってみるのもいいだろう。
魔法少女ものという王道ファンタジーの皮をかぶった、超等身大でリアルなアニメ、『前橋ウィッチーズ』。主人公のユイナはおバカキャラ風だが、その一言一言はよく聞くととても合理的でもある。この作品は、ファンタジーアニメでありながらとにかく隅々まで“納得がいく”のが大きな魅力。きっとこの作品は、5年、10年後にも色褪せずに残っていく、そんな確信を得ずにはいられない。いよいよ迎える最終話、少女たちはどんな結末を迎えるのだろうか。
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