浦和GK西川周作 [写真]=Getty Images FIFAクラブワールドカップで生き残るため、浦和レッズは第2節のインテル戦で確実に勝ち点を手にする必要があった。マチェイ・スコルジャ監督は前日会見で「我々の前には山がそびえ立っている。非常に高い山だ。しかし、試合は90分あるし、驚かすことはできる」と強調。「インテル戦はJリーグではやったことのない戦略を考えている」と特別な策を講じる構えを見せていた。
その秘策とは『4-4-2』に近い形で強固な守備ブロックを形成することだった。『3-5-2』をベースに可変スタイルを取ってくるインテルに対し、両サイドハーフの金子拓郎と渡邉凌磨が最終ラインに引いて6バックになることも覚悟しながら、しぶとくポイントを取りにいったのだ。
開始11分に金子の突破から渡邉が値千金の先制弾をゲット。浦和が早い時間帯に先手を取ることに成功する。こうなると逆に試合運びが難しくなるところもあるが、大ベテランのGK西川周作を中心に集中して敵と対峙し続けた。前半を1-0で折り返したのはシナリオ通り。指揮官も「前半は素晴らしいプレーをした」と称賛していた。
しかしながら、インテルがヘンリク・ムヒタリアンやバレンティン・カルボーニといった持ち駒を次々と投入し、圧をかけてきたことで、浦和は消耗していく。関根貴大、松本泰志など交代要員を送り出し、強度を維持しようと試みるが、相手のボール回しがボディブローのように効いて、守備一辺倒になってしまう。そして、78分に左CKからエースFWラタロ・マルティネスがアクロバティックな右足ゴールを決めると、浦和は土俵際に追い込まれる。西川も何とか流れをせき止め、勝ち点1を死守した状態で、25日のモンテレイ戦に可能性をつなごうとしていたが、後半アディショナルタイムに悪夢が起きたのだ。
「難しいシチュエーションだったんですけど、最後までみんなで守り切りたかったし、交代選手も含めてしっかり守るという意識はあった中で、本当に最後の最後にやられた。非常に残酷な結果になってしまったと思います」
守護神は苦渋の表情を浮かべていた。インテルのスローインからの左クロスを松本が頭で競り、ペタル・スチッチがシュートを放った跳ね返りをカルボーニが押し込むという悪循環を止める術を見出せなかったのは紛れもない事実と言うしかない。
「あの時の自分はディフェンスラインに入るんじゃなくて、咄嗟に視野確保ができれば良かった。みんなの気持ちが強かっただけに、チーム全体として少し冷静になったり、ずる賢くやることが必要だった。今大会を見ていても、他チームのずる賢さ、時間の使い方も目につきますし、そういうところは見習わなければいけないなと思います」
西川はこんな発言もしていたが、インテルの2点目が生まれた瞬間、確かに彼は関根、ダニーロ・ボザ、マリウス・ホイブラーテンとともにゴール前にベタ引き状態になっていた。カルボーニにボールが入った瞬間、エアポケットが生まれたのは不運だったが、その前にクロスを入れられたところを含め、できることはもっとあったはず。それを考えれば考えるほど、本人も悔しさが募って仕方がないのだろう。
「本当に自分としても感情が出たというか、こんなに悔しいこともなかった。もっともっと上に行きたかったなと改めて感じる。この悔しさは絶対に自分を強くすると思うので、そうするようにやっていきたいです」
西川は試合後、号泣しながらロッカールームに引き上げていった。日頃、あまり感情を出さない男がこれほどまでに涙を流すというのはかなり珍しい。インテルという強敵に勝利寸前まで辿り着きながら、大金星を逃した現実の厳しさを重く受け止めたに違いない。
日本代表として2014年のブラジルW杯惨敗を経験し、自身も過去3度のクラブW杯のピッチに立っている。それほど経験豊富な守護神でもインテルという最高峰レベルの相手を封じられなかった。その現実を日本サッカー界、そしてJリーグ全体が今一度、認識すべきだろう。近年の日本代表は欧州5大リーグでプレーする選手中心の編成になり、世界トップとの差がなくなりつつある。だが、Jクラブ単体という意味ではまだまだ格差がある。特に勝ち切れるかどうかという“際の部分”が足りない印象が強い。それを突き詰めていかなければ、こういった大舞台で勝ち星を挙げ、上のステージに勝ち進んでいくのは難しい。今回、西川や浦和の面々が実体験したことを日本でフィードバックし、リーグ全体のレベルアップにつなげていくことも重要ではないか。
浦和が今大会で先に進む道は断たれたが、まだモンテレイとのゲームが残されている。1つ勝つことができれば、今後の自信につながるし、巨額の賞金を手にすることもできる。ベテラン守護神はそのけん引役にならなければいけない。これまで積み上げてきたキャリアの全てを注ぎ込むつもりで、25日のラストマッチで堂々たる雄姿を見せつけてほしいものである。
取材・文=元川悦子