写真あなたには、落ち込んだ時にふと立ち寄りたくなる大切な場所がありますか?
今回は、そんな場所で「最も会いたくなかった人」に遭遇してしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆サンリオ好き女性、“ひとりピューロ”のはじまりは
羽山祥子さん(仮名・31歳/派遣社員)は、子どもの頃からサンリオが大好きです。
「今はシナモンというキャラを推しているんですが、ストレスがたまるとついぬいぐるみなどのグッズをたくさん買ってしまうんですよね。家に帰ってシナモンにまみれていると、スッと心が軽くなって力が湧いてくる。私にとって癒しの存在なんですよ」
そんな祥子さんでしたが、東京都多摩市にあるテーマパーク「サンリオピューロランド」には、ひとりで行く勇気がずっとなかったそう。
「たまに友人に付き合ってもらって行けたらラッキーという感じで、ひとりではちょっと……と、ずっと躊躇(ちゅうちょ)していたんです。でも、昨年からタガが外れたように頻繁にひとりピューロをするようになってしまって」
実はその頃祥子さんは、マッチングアプリで知り合った男性(33歳/不動産業)とお付き合いをすることになったものの、ホテルで体を許した途端に全く連絡がつかなくなってしまうという悲惨な目に遭ってしまい、とても弱っていました。
「俗に言うヤリモク男ってやつに引っかかってしまったみたいで。久しぶりに身も心も許した男性に騙されていたショックは、かなり大きかったですね。男性を見る目のない自分自身にもウンザリしてしまい、駆け込んだのが私の“ひとりピューロ”のはじまりなんですよ」
◆神聖なピューロランドに、見覚えのある人影が
祥子さんはピューロランドの空間にいるだけで傷口が癒えていくのを感じ、サンリオキャラクターたちがダンスで魅せる、前向きなテーマを打ち出したショーに元気をもらい、とても助けられたのだそう。
「それ以来、かえってひとりの方が気を遣わないでピューロを満喫できるなと思うようになり、気楽に訪れてはパワーチャージをするようになったんですよ」
そんなある日、いつものようにひとりピューロを楽しんでいると、見覚えのある人影が視界に入ってきました。
「それが、例のヤリモク男だったんですよ!」
しかも女性と手を繋いでいて、怒りが湧き上がった祥子さんは男を追いかけて、捕まえようとしました。
「もちろん自分を騙したことへの怒りもありましたが、さらに新規の女性を引っ掛けるために『女なんてどうせここに連れてきたら漏れなくメロメロだろ』という舐めた考えで……神聖なピューロランドを、汚らわしい行為をするための足がかりにしているように感じて許せない気持ちになったんです」
怒りの形相で迫り来る祥子さんを認識したその男は、一緒に居た女性を置き去りにして猛ダッシュ。そのまま人混みに紛れて、見失ってしまいました。
◆再び男を発見、背後から静かに近づいて……
祥子さんは、余計なお世話かもと思いながらも男と一緒にいた女性のところへ戻り「もしかしてマッチングアプリであの男と知り合いましたか? 私あの男に騙されて酷い目に遭ったので、気をつけた方がいいですよ」と伝えました。しかし女性はポカンとして、まるで状況が理解できていない様子。
「そりゃピューロで楽しくデートしていたら男が突然走って逃げて、なおかつ全く知らない女性から忠告めいたことを言われたら、そうなってしまうのは無理もないと思いました。ですが私はどうしてもあの男をここから追い出したかったので、その女性とは軽く頭を下げて別れ、男の捜索を始めたんです」
サンリオピューロランドはディズニーランドのような広さはないので、すぐにその男の後ろ姿を発見した祥子さん。今度は静かに近づいて、背後からその男の腕をキメて動きを封じることに成功したそう。
◆「全員がお前を呪っているからな!」
「以前習ったうろ覚えの護身術がたまたま上手くいったんですよね。身動きが取れなくてジタバタしている男に『ここはお前みたいなクズが足を踏み入れていい場所じゃない! まだこんな最低なこと続けてるの? お前は絶対にろくな死に方しないし、騙した女全員が、お前を呪っているからな』と言い終わるぐらいのところで、男に手を振り解かれて結局逃げられてしまいました」
男に「うるせーんだよ」と捨て台詞を吐かれ、軽く突き飛ばされてしまいましたが、祥子さんは本人に直接文句を言うことができてとてもスッキリしたんだとか。
◆気持ちが切り替えられ、やっと前を向けた
「その男には、いきなり音信不通にされて消えられてしまったので、ずっとモヤモヤが溜まったままだったんですよね。文句を言ったところで私が傷つけられた事実は変わらないし、あの男に費やした時間が戻ってくるわけじゃないけど、何だか一区切りつけられたような気持ちになれたんです」
そして大好きなピューロランドから不審者を排除できたような爽快感もあり、それからますますひとりでピューロランドに訪れる機会が増えたそう。
「そんな風に通っていたら、ひとりピューロしている顔見知りがどんどん増えていって……実は今、サンリオ好きの男性とお付き合いしているんですよ。気持ちが切り替えられたせいか、やっと前を向くことができた感じです」と微笑む祥子さんなのでした。
<イラスト・文/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop