近年、大都市圏のロードサイドを中心に「コンテナホテル」が増えている。通常のホテルと同様にベッドやデスク、浴室にトイレ、さらにWi-Fiを完備していながら、各部屋がコンテナとして独立しているホテルだ。
【画像】コンテナホテルの内部はどうなってる? 代表的なチェーンの部屋を見る(全9枚)
業界最大手とされるチェーンは、デベロップが展開する「HOTEL R9 The Yard」で、北関東を中心に勢力を伸ばしている。コンテナホテルに抵抗を持つ人もいるだろうが、レビューを見ると突出して低評価が多いわけではない。
ロードサイドはインバウンド需要が都市部と比較して見込めないエリアといえる。そんな環境で、近年なぜ勢力を伸ばしているのか? その理由を、コンテナホテルの特徴から探る。
●大人2人で1万円未満 主要客層は?
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ホテル事業やエネルギー事業を手がけるデベロップはR9ブランドのホテルチェーンを展開しており、コンテナホテルとしてHOTEL R9 The Yardを運営する。
同チェーンの1号店は栃木県真岡市のインターチェンジ近くにあり、2018年12月にオープンした。ロードサイドを中心に展開し、1店舗当たり40〜50個のコンテナが並ぶ。
駐車場を完備し、自動車利用の客が主な対象だ。6月14日時点で、全国に108店舗を展開。東北から九州・沖縄まで展開しているが、全体の3割が北関東3県に集中している。北関東での立地は東西を結ぶ主要道路である国道50号付近が多い。
同ホテルの客室は一般的なホテル施設と変わらない。コインランドリーや電子レンジは共用部にある。真岡インター店の場合、客室はダブルルームとツインルームの2種類で、7月の土日でも素泊まりの料金は1万円を割り込む。近隣のホテルチェーンを検索すると、同じ日で大人2人だと1万円超えが相場であり、HOTEL R9 The Yardの安さが目立つ。
昨今のホテル業界はインバウンド需要を狙って設備をリニューアルし、値上げも行っていることが多い。一方、同チェーンはビジネスパーソンを主要顧客層として狙っているという。工業地帯では、工場の大規模改修工事等で周辺のホテルが満室になることもある。中でも北関東工業地域では製造業者や建設業者の出張需要が高く、こうした層が利用していると考えられる。
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●競合も続々と店舗網を展開
ヒーローライフカンパニーも同様に、コンテナやトレーラーハウスを用いた「Trail inn」を展開する。自社工場でトレーラーを製造し、部屋内にはバス・トイレ・電子レンジなどを備える。コロナ禍真っ只中の2020年春にトレーラーホテル事業を始め、7月1日時点で北関東を中心に18店舗を展開する。
幹線道路沿いのインターチェンジ付近を最適な候補地とし、工業団地周辺での需要を見込んでいる。主要顧客層は工場や建設現場の出入り業者で、平日需要を見込んでいる。こちらも7月の土日で調べると、大人2人で藤岡高崎店が1万800円。大手ホテルチェーンより安く、1人利用の場合は6000〜7000円台である。
異業種からの参入事例もある。JR北海道グループの北海道ジェイ・アール都市開発は、2019年12月にトレーラーハウス型無人宿泊施設「JR Mobile Inn(JRモバイルイン)」をオープン。民泊や不動産事業を展開するMASSIVE SAPPOROに運営を委託している。
1号店の立地は札幌中心地から近く、高架下の空いたスペースを活用した。札幌に近いこともあって同ホテルの位置する琴似駅周辺はタワーマンションのある住宅街であり、立地の特徴でいえばR9やTrail innと異なる。
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琴似店は1部屋に最大で6つのベッドがあり、1泊2万〜3万円を想定している。観光客が主なターゲットだ。2号店は千歳駅から徒歩15分の場所にあり、この5月にオープンした3号店は富良野駅から徒歩15分の幹線道路沿いにある。比較的駅に近い点が特徴だが、本格的な展開には至っていない。通常のホテルがある以上、駅前で観光客を狙うのは難しいのかもしれない。
●「ウィンウィン」の施設だが、どこまで広がるか
コンテナホテルのレビューを見ると、冬の寒さや室外機の音に対するマイナスの意見が一部あるものの、通常のビジネスホテルと比べて悪評価が多すぎるわけではない。むしろ部屋がコンテナで分離されている分、夜も騒音を気にしなくて良いなどのポジティブな意見もみられ、いずれも比較的新しいため、清潔感に関する好意的な意見もあった。他のホテルチェーンより安いながらも、同等の設備を有するためコストパフォーマンスの高さを評価する声が多い。
都市部や駅前のホテルはインバウンドの増加で高騰し、大都市圏では1泊料金が1人で2万円を超える場所も出ている。出張族が悲鳴をあげるような状態だ。車による出張者の場合、ホテルの駐車場確保に難儀する場面もある。
供給側から見れば、コンテナホテルは設置コストを大幅に下げられる。利用者と事業者双方にとって低コストが魅力であり、コンテナハウスは今後も工業地帯のロードサイドを中心に増えていきそうだ。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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