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アリスのドラマー矢沢透(76)が中心となった3人組「SORISE(ソライズ)」が、初アルバム「SORISE 1」を発表する。フォークグループ、シグナルの住出勝則(69)、歌手滝ともはる(70)とで11年に結成した「HUKUROH(フクロウ)」が前身。23年にアリスの谷村新司さんが亡くなったことをきっかけに、矢沢の呼びかけでグループ名を変更。百戦錬磨の3人が、あらためて日本武道館を目標に本格的に動き出した。3人に思いを聞いた。【笹森文彦】
★前身HUKUROH
「SORISE」は、空とRISE(昇る)の造語。「空に昇る」から「もっと高みを目指そう」という意味が込められた。
前身は11年秋に結成された「HUKUROH」。名曲「20歳のめぐり逢い」を持つ元シグナルの住出と、堀内孝雄とのデュオ曲「南回帰線」で知られる滝が、同年夏に久々に再会し意気投合。2人の事務所の先輩だった矢沢をゲストに、3人でカバー曲中心のライブを行った。これが結成のきっかけだった。こちらは「不」と「苦労」の造語で、「苦労しない」の意味。
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矢沢 みんな百戦錬磨のミュージシャンで、アマチュアの時に楽しんだ音楽は、プロではなかなか再現できないと思っていた。でも、アマチュアのように純粋な気持ちで音楽を楽しめたらいいよね、という思いで始めたんです。
矢沢は人気グループ、アリスのメンバーだった。いわばそこが“本拠地”。
矢沢 アリスももちろん楽しいですよ。でも、アリスの音楽をやらなければいけない。アリスの矢沢透でいなければいけない。アリスのドラムをたたかなくてはいけない、という暗黙の縛りがあった。でも、フクロウは矢沢透個人で参加すれば良かった。
ところが23年10月8日に、アリスの屋台骨の谷村新司さんが74歳で急逝した。約2週間後の同21日、HUKUROHはライブを行った。重い空気が漂った。
矢沢 谷村の死去で、アリスはなくなったわけです。堀内と私にとって。自分の音楽家としての活動の場所がなくなった。でもドラムたたいてやりたい。アリスの代わりには絶対になれないけど、このバンドが同じように、世の中に感動を与えたり、貢献できないかと思ったんです。
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住出と滝に思いを伝えた。今までのような曖昧な活動ではなく、真剣なグループになろう。ライブハウスではなく、コンサート会場でやって、あわよくばヒット曲を出す。新人のつもりでやろうと。そして心機一転、24年6月にグループ名を「SORISE」に変えた。基本構成は矢沢のドラム、ギターの住出と滝のツインボーカル。
その意気込みの表れが、オリジナル曲を収録した初アルバム「SORISE 1」の発表である。
アルバムのテーマはシンプルに「愛」。リード曲は「僕らの世界は沢山のアイで出来ている」。信じ合い、助け合い、見つめ合い、譲り合いなど、歌詞にさまざまな「アイ」が登場する、ポップな曲である。
矢沢 我々にMrs.GREEN APPLEやYOASOBIのような、新しい音楽を期待している人はいない。自分たちが生きてきた時代の音楽を、もちろん古くさくてはだめだけど、自分たちの感性でできた音楽をやれば、同世代の方々が共感してくれると思います。65歳以上は日本の人口の29%以上(23年10月現在)いるんです。ビートルズを聴いて育った世代なんですよ。
アリスは78年に、日本人アーティストとして初めて日本武道館で3日間連続公演を行った。同所を経験している矢沢だけに、SORISEの夢を語る。
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矢沢 楽しいだけならライブハウスもいいけど、拍手の渦の大きさとか快感は、その何百倍です。あまり大風呂敷を広げ過ぎてもだめだけど(笑い)、あの時代の情熱がよみがえれば、本当に楽しいよね。
矢沢は住出を「音楽好き、ギター好き、かわいくて頑固」。滝を「優しいおじさん、繊細、いい意味での仲介役」と評する。人生経験豊富な3人だけに、ステージでのトークは爆笑ものだ。SORISEの名前の由来を「熱海と伊豆のどっちが好き?」「そら伊豆」と掛け合う。
矢沢 見て聴いて「音楽って楽しいよね」って思ってくれれば。アリスにアリスのカラーがあるように、ソライズらしいというものが出てくれば、いいグループになると思います。
◆矢沢透(やざわ・とおる)1949年(昭24)2月6日、神奈川・横須賀市生まれ。17歳でジャズドラマーとして活動。72年にアリスでデビュー。主に編曲を担当。都内で串焼き店などを経営。愛称は「キンちゃん」。柳家金語楼さんの顔まねが似ていたから。
★忘れていた憧れに火をつけた
滝ともはる HUKUROHは、同窓会ライブとして楽しくやろうというコンセプトでスタートしました。やる以上はみんな真剣ですけど、このバンドで何がなんでもという深い思いはなかったです。
かつて同じ事務所だった谷村さんが亡くなって、昨年10月に日本武道館で行われた矢沢さん、堀内さんの追悼コンサートを見に行きました。一緒にやっているキンちゃん(矢沢)が、深い悲しみがあったはずなのに、武道館で躍動していた。とても感動しました。
そのキンちゃんに「アリスは自分の中でピリオドを打った。これからは3人で本気でやりたい」と言われた時、私の心にスイッチが入りました。日本武道館を客席からしか見ていない私ですが、忘れていた武道館へのあこがれに火をつけてくれた。古希を迎えても、精いっぱいの力を投入していくぞという思いです。
◆滝(たき)ともはる 本名玉置智治。1955年(昭30)7月1日、大分・中津市生まれ。78年に歌手デビュー。80年に「南回帰線」がサントリービールのCMソングとなりヒット。横浜・尾上町で生演奏の滝ともはるの店「レジェンド」を経営している。
★「もう1発花を咲かそう」と
住出勝則 14年前ぐらいに滝さんのライブハウスに久しぶりに行って、同窓会的なライブをやろうとなった。2人じゃ寂しいので、事務所の先輩だったキンちゃんに声をかけて、HUKUROHが生まれた。「大人の音遊び」を売り文句に、不定期にやりたい時に集まればいい、という程度だった。
谷村さんが亡くなって、キンちゃんが「真剣に、もう1発、花を咲かそう」と言ってくれた。そのころ、僕も原点回帰というか、新人の気分に戻って、曲作りやライブを責任を持ってやりたいと思っていた。
シグナルでデビューして今年で50年です。本当に残りの音楽人生を、SORISEに新人気分で懸けられるのがうれしい。僕は本業はソロギタリストですが、3人でしかできないことがある。その逆ももちろんある。そのコントラストが心地いいですね。
◆住出勝則(すみで・まさのり)1956年(昭31)2月3日、京都府生まれ。3人組シグナルのボーカル兼リードギターで、75年に「20歳のめぐり逢い」でデビュー。解散後、アコースティックギターのソロギタリストとして国内外で活躍。CDも多数発表。
■CD発売記念コンサート
「SORISE CD発売記念コンサート」を発売日の12日、東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで行う。「SORISE 1」は3人の初アルバムで、HUKUROH時代からのオリジナル曲10曲が収録されている。3人で作曲し、矢沢がほぼ編曲した。シティポップス、ブルース、ロックンロール、フォーク、GS、バラードなど多彩な曲調と、それぞれのソロや重唱で聴かせる。青春の懐かしさ、恋の甘酸っぱさやワクワク感、ほろ苦さなど、今の音楽シーンでは新鮮である。コンサートは18日に、大阪・心斎橋パルコのSPACE14でも開催される。
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