神野美伽、ブギのリズム浴びに来て“女王”笠置シヅ子さん音楽劇を5年8カ月ぶり再演

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2025年07月14日 08:16  日刊スポーツ

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歌に舞台にと、枠にとらわれずアグレッシブに活躍する神野美伽(撮影・野上伸悟)

<情報最前線:エンタメ 舞台>



演歌歌手神野美伽(59)が“ブギの女王”笠置シヅ子さんの生涯を歌と芝居で描いた音楽劇「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE」(東京・IMM THEATER、8月1〜11日)に主演する。19年末に大阪で演じて以来、5年8カ月ぶり2度目の再演。「私ができるのはこれで最後。そんな思いでやる」と強い決意を明かした。【取材・構成=松本久】


★「あきらめず本当によかった」


「もう1度、どうしてもやっておきたいと思っていたから再演は『念願』というよりも『悲願』に近い思いです。大変なコロナ禍を挟みましたが、あきらめなくて本当に良かった。約6年の間に私の中で『笠置シヅ子』を大きく膨らませることができました。歌が持っているエネルギーと生命力、そして私が持っているエネルギーを浴びに来てほしい」。再演にかける熱い思いが言葉の端々からほとばしる。


終戦直後の日本をパワフルな歌声で明るく照らした笠置さん。神野が大阪で演じてから約4年後、23年度後期のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」のモデルになったことで「笠置シヅ子」の名前がお茶の間に広く知れ渡り、認知度が一気に上がった。


19年の大阪公演では19曲を披露したが、今回も同程度を予定している。


「もともと『東京ブギウギ』『買物ブギー』『ジャングル・ブギー』くらいは知っていたけど、正直言うと知らない曲ばかりだったんです。でも、1曲1曲がすごく刺激的で面白い。敗戦で多くの人が打ちひしがれて食べ物もない時代だったけど、そこには笠置さんがいた。私も歌手を生業に40年以上生きてきました。今の混沌(こんとん)とした時代に舞台に立つ者として、自分の『人生の仕上げ』としてもやっておかないと」。そう言って笠置さんと自身の生きざまを重ね合わせた。


笠置さんは4歳から日本舞踊を習い、13歳の時に大阪の松竹楽劇部(OSK日本歌劇団の前身)で歌と踊りを学んだ。それまでの日本の歌謡界にはなかった躍動感とリズム、パフォーマンスで多くの人を魅了し、その活躍は“革命的”とさえ呼ばれた。神野も日本舞踊の名取「花柳糸美之」で、「男船」など数多くのヒット曲を持つ。NHK紅白歌合戦に2回出場し、海外でも演歌の枠を超えた活躍をしている。そして何よりもエネルギッシュ。自身のことを「向上心と好奇心の塊」と呼ぶほどだ。


★「共通点ストイックで潔癖性」


2人には多くの共通点がある。


「確かに私もむちゃくちゃあると思うんです。1人娘のヱイ子さんに聞くと、笠置さんは自分に厳しくすごくストイックで完璧主義者。芸事へのプロ意識がすごく高い人でした。舞台上では怖いもの知らずで大胆に動いて歌い表現をする。綿密に全てを計算していた。消毒液を脱脂綿に浸してあちこちを拭いたりして、すごく神経質できれい好きなところもあった。実は私もストイックで潔癖性。同じなんです」。


笠置さんがステージに上がる際のマストアイテムは、劇のサブタイトルにもなっている「ハイヒールと3センチ(1寸)の付けまつげ」。神野のスイッチが入るマストアイテムは何か? しばらく考えた後で「マイク」と答えた。「右手にマイクを持った瞬間に人が変わりますね。歌手として『責任』のスイッチが入ります」。


逆に2人が正反対のことは何なのかとの質問には「私が2回も結婚していること」とちゃめっ気たっぷりに笑わせた。


笠置さんは9歳下の恋人との間に長女を妊娠し、彼が病死した12日後に未婚のまま出産した。当時33歳だった笠置さんはその後も生涯独身を貫いた。一方の神野は99年に作詞家荒木とよひささん(81)と結婚して15年に離婚。20年に再婚をしている。「今、幸せですか」と聞くと「もちろんそうですよ」と笑顔を見せた。


★Wキャスト!?11日間で15公演


神野は骨が生来弱く、何回か足などの手術をしてきた。現在は週2回のジム通いで体幹を鍛えて筋肉を増強。理学療法士のもとで入念なリハビリも行い、体の柔軟性を増している。


「肩甲骨や肋骨(ろっこつ)って加齢とともにだんだん固まってくるから本来の動くべき形にならない。多くの先輩がある程度の年齢になると、歌うキーを下げたり、リズムにきちっと乗れなくなったりして、自分もその自覚が実はあったんですね。でも『災い転じて』ではないけれど、体を鍛えていることが歌にすごくプラスになっている。今は歌っていてすごく楽なんです」。11日間で15回公演をこなすハードワーク。「知り合いから『ダブルキャストですか?』と言われたくらい。でもやりますよ」と腹をくくっている。


1984年(昭59)3月に「カモメお前なら」でデビューして以来、全力で走り続けてきた。99年には日本人で初の韓国デビュー。14年には米ニューヨークに単身乗り込んでライブハウスで歌った。18年には演歌歌手として初めて120カ国で音楽配信を実施し、米国最大級の音楽コンベンションに出演。ロックやジャズ、シャンソンなど幅広いジャンルから一目置かれ、米国では「ENKA DIVA(演歌歌姫)」と呼ばれている。これまでの活動を振り返って「演歌を歌えるということは私の個性であり武器でもある。演歌をきちっと歌えればロックもやれる。海外でもやっていける」と自信満々に言い切った。


★8月に還暦という人生の節目


8月には還暦という人生の節目を迎える。「歌手としてやりたいことって、今回の音楽劇以外にもたくさんあるんです。英国やフランスなどのヨーロッパにもトライしてみたいし、いろんなことに挑戦する『面白い違和感』みたいなものをもっと広げていきたい。行けるところまでは行きたいなと思います」。キャリアを重ねても“現在地”で満足せず、やりたいことがどんどんあふれ出てくるようだ。


今年は戦後80年の節目。「その年に上演できることが意義深い。何かのご縁を感じる」としみじみ語る挑戦がいよいよ来月に幕を開ける。「『店じまいですよ』っていうお店の商法ではないけれど、この音楽劇を私ができるのはこれで最後だと思っています」。歌って踊って演じてに全精力を注ぎ込む約2時間半。神野にとっては暑いだけでなく、熱い8月になりそうだ。


◆神野美伽(しんの・みか)1965年(昭40)8月30日、大阪府貝塚市生まれ。84年に「カモメお前なら」でデビュー。85年に「男船」が70万枚のヒットで日本レコード大賞金賞受賞。87年にNHK紅白歌合戦に初出場し03年と計2回出場。舞台などでも幅広く活躍。10月15日にはヒューリックホール東京で、演歌だけを歌唱するコンサートを開催する。少林寺拳法2段、書道2段、1級船舶操縦免許を持つ。


◆笠置(かさぎ)シヅ子 1914年(大3)8月25日、香川県生まれ。大阪府育ち。4歳から日本舞踊を習い、27年に大阪の松竹楽劇部に入った。作曲家服部良一氏に才能を見いだされてジャズ歌手に。「東京ブギウギ」「ジャングル・ブギー」などがヒット。57年に歌手を引退し女優業に専念した。NHK紅白歌合戦には4回出場。85年に70歳で死去。


◆音楽劇「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE〜ハイヒールとつけまつげ〜」 戦前戦後の激動の時代を駆け抜け、「ブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子さんの人生を服部良一氏が手掛けた名曲とともにつづる。主演が神野で共演に加藤虎ノ介、福本雄樹、九条ジョー、鈴木杏樹。東京・IMM THEATERで8月1〜11日に開催。脚本マキノノゾミ氏、演出白井晃氏。詳しくはhttps://imm.theater/schedule/sizukoboogie_imm.html


◆アルバム「SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE」(24年4月17日発売) 「東京ブギウギ」「ラッパと娘」や「大空の弟」など、笠置さんの11曲を神野がカバーした。ジャケットのイラストは野性爆弾くっきー!が手掛けた。


◆新曲「まっぴら御免」 荒木とよひささん作詞、岡千秋さん作曲。神野は「真っ向演歌です。タイトルにある『まっぴら』は『嫌だ』ではなくて『みなさんよろしくね』というあいさつの意味。私が歌うことを大前提にした詞と曲なのですっごく気持ち良く歌っています」とアピールした。

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