『国宝』旋風吹き荒れる! 今更聞けない「人間国宝」って何? 映画から文化を覗く

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2025年07月17日 08:10  クランクイン!

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『国宝』旋風吹き荒れる! 今更聞けない「人間国宝」って何? 映画から文化を覗く (C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
 公開6週目を迎えた映画『国宝』が、全国映画動員ランキングで見事V4達成。週末3日間で動員40万5000人、興収6億200万円を記録し、累計動員は398万人、興収は56億円を突破した。敷居が高いとも捉えられる「伝統芸能」を扱いながらも老若男女の熱を呼び込むその勢いは、留まるところを知らない。そんな本作に登場する「人間国宝」とはいったい何者なのか、誰が選ばれるのか。『国宝』をもっと楽しめる豆知識をご紹介。

【写真】都内で開催された映画『国宝』初日舞台あいさつの様子

吉田修一×李相日が描く人間ドラマ
 
 原作は吉田修一の同名小説。映画『フラガール』や『悪人』で知られる李相日監督が手がけた本作では、抗争で父を失った任侠一門の息子・立花喜久雄(吉沢亮)が主人公だ。女形としての素質が認められた彼は、上方歌舞伎の名門・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、名門の御曹司・俊介(横浜流星)と共に厳しい修練の日々を歩むことになる。二人は互いに刺激を与え合いながら成長していくが、とある出来事から大きくすれ違う…。

 「華のある人生」と「葛藤」、「血筋の呪縛」というテーマを丹念に織り交ぜながら、ひとりの青年が伝統を背負っていく姿を丁寧に描く本作は、歌舞伎を背景にした、まさに“大河的”な人間ドラマだ。

 そんな本作には、田中泯演じる小野川万菊という人間国宝の歌舞伎役者が登場する。喜久雄と俊介は、万菊による魂が震えるような演技を見て、人生が大きく変化する。

 ところで、「人間国宝」とはいったい何者なのか。名前はよく耳にするものの、その実態を知っている人は多くはないだろう。

「人間国宝」とは?――生きた文化財の称号

 「人間国宝」は通称であり、正式には「重要無形文化財保持者」という。1955年の文化財保護法によって制度化され、国家が「伝統技術や芸能を背負って生きる人物」と認定する日本独自の制度だ。

 対象となるのは、陶芸や染織、漆芸などの工芸技術、そして能・狂言・雅楽・文楽・歌舞伎といった伝統芸能。自薦は不可で、文部科学省の文化審議会によって専門的な審査が行われ、最終的に文部科学大臣が指定する。

 文化審議会とは、歴史学者、芸術家、文化財の研究者などから構成される専門家集団で、無形文化財に関する審査は「無形文化財部会」が担当している。

 2024年時点での認定上限は116名。助成金(年間200万円以上)により活動と後進育成が支援されており、まさに「生きる伝統」が国家単位で守られている制度である。

歌舞伎界を象徴する人間国宝3選

 映画『国宝』が描いたように、歌舞伎の世界には今なお“本物の伝統”を体現する人間国宝たちがいる。その中から、特に注目すべき3名を紹介したい。

■坂東玉三郎(女形/2012年認定)

 女形の絶対的王者。所作、視線、声の一音まで女性美に研ぎ澄まされた、まさに芸術家。「女形という枠を超える女形」として、国内外で観客を魅了し続けている。

■片岡仁左衛門(立役/2015年認定)

 上方歌舞伎の看板格。静謐(ひつ)さに色気をまとう“和事”の演技が圧巻で、柔らかな余韻を残す立役として幅広い世代に支持されている。若手との共演でも“架け橋”的役割を担う。

■中村吉右衛門(立役/2011年認定・2021年逝去)
 “鬼平”で知られた演技の重鎮。荒事・和事両方で高い表現力を誇り、亡くなった今も「理想の歌舞伎役者」の象徴として語り継がれる存在。その存在感こそが、人間国宝という称号の意味を雄弁に示している。

映画だけじゃ終わらせない、“本物”との出会いを

 映画『国宝』をきっかけに、人間国宝という称号に興味を持った人は少なくないだろう。スクリーンで感じた感動を、リアルで味わってほしい。音、光、空気、身体……次の扉は、すぐそばにある。

(文:新山楓子)

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