福山雅治『ブラック・ショーマン』公開間近 東野圭吾の小説が「映画化」に向いている理由とは

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2025年09月11日 18:10  リアルサウンド

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『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(東野圭吾/光文社文庫)

 福山雅治主演の映画『ブラック・ショーマン』が9月12日に公開される。原作は福山の代表作である「ガリレオ」シリーズと同じ東野圭吾作品とあって話題性は抜群だ。


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 本作は、ラスベガスで名を馳せた元マジシャンの神尾武史が、家族を襲った不可解な殺人事件の真相をマジックと観察力で解き明かすというストーリーで、サスペンスと娯楽性を兼ね備えた新時代ミステリーとして期待されている。バディ役には有村架純を迎え、劇場は初日から大いに賑わうことが予想される。


 原作小説では、神尾の頭脳戦や心理描写が中心。読者は考えながら推理を楽しめる。一方で映画版は、マジックや映像トリックを使って“嘘と真実”を視覚的に体験させる作りに。さらに原作の神尾は飄々とした探偵役だが、映画ではダークヒーロー的に描かれ、福山の演技で重厚さも加わった。言うなれば、小説は「読む推理」、映画は「見る心理戦」と言える。


 こうした話題作を手がける東野は1958年大阪府生まれ、大阪府立大学工学部電気工学科出身という意外な経歴を持つ。卒業後は自動車部品メーカーでエンジニアとして勤務していたが、27歳で江戸川乱歩賞を受賞し、1986年に上京して作家活動に専念した。


 デビュー直後は苦労の連続であったそうだが、1995年『名探偵の掟』で注目を集め、1998年の『秘密』で一気にブレイク。以来、彼の小説は次々と映像化され、今や日本映画界に欠かせない原作作家となっている。


 東野作品がこれほど映像化されやすい理由は作風にある。情景描写や人物の仕草、心理まで緻密に描かれ、読者の頭の中で自然にイメージできる文体である。難解な表現も少なく、読みやすい文章は映像化のハードルを下げる。魅力的な主人公、共感しやすいテーマ、斬新な展開、そして予想を超える結末が人々の心を掴み、巨額の資金をかけた映像化も安心して行える作品群となっている。


 ジャンルの幅も広い。理系出身ならではのトリックを盛り込む「ガリレオ」シリーズや「加賀恭一郎」シリーズのような本格ミステリーからファンタジー的世界観まで実に多彩だ。共通するテーマは人の死であり、それが作品に深い感情移入をもたらす。手掛けた100作品超のうち約4分の1が映像化されているのだから驚くばかりだ。


 国内作品の興行収入トップ3は次の通りだ。第3位は『マスカレード・ナイト』の38.1億円。長編ミステリ小説で「マスカレード」シリーズ第3作にあたる。年越しのカウントダウンパーティーに未解決殺人事件の犯人が現れるとの通報が入り、刑事・新田浩介(木村拓哉)はホテルマン・山岸尚美(長澤まさみ)と共に捜査に挑む。豪華キャストが多数登場し、仮想パーティーという舞台設定が犯人特定を難しくし、観客を引き込む。


 第2位は同じシリーズの1作目となる『マスカレード・ホテル』の46.4億円。豪華ホテルを舞台に、エリート刑事と教育係のホテル従業員が互いに衝突しつつ事件の真相に迫る。木村と長澤の掛け合いも見どころだ。


 そして第1位は「ガリレオ」シリーズの『容疑者Xの献身』で49.2億円。堤真一演じる数学者・石神哲哉が合理的犯罪と数学的頭脳戦で事件に挑む姿は圧巻で、原作ファンも納得の完成度であった。


 東野作品は海外でも多数リメイクされている。1999年刊行の『白夜行』は殺人事件の被害者の息子と容疑者の娘が深い因縁で結ばれた数奇な運命を辿るミステリー。2006年には山田孝之と綾瀬はるかのW主演でドラマ化され、2011年には堀北真希主演で映画化され、日本国内で高い評価を得た。


 しかし、2009年の韓国版はR18+指定で、大胆なベッドシーンと残酷な殺人描写が交互に映し出される衝撃的な冒頭から始まった。過激な描写と抑えた世界観で日本版とも一線を画した。大胆なアレンジだったが、東野自身は原作の世界観を忠実に再現していると高く評価している。


 『容疑者Xの献身』の中国版リメイクも改変が話題となった。一番大きなポイントは、湯川が刑警学院の准教授であり、警察の犯罪捜査顧問であるという設定になっていること。日本版では湯川は刑事の草薙俊介(北村一輝)の友人として事件解決に協力するが、中国版では湯川は草薙の仕事仲間であり、警察内で権力を持つ人物として描かれる。


 他にも、『さまよう刃』も韓国版で暴力描写や感情表現が強化され、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の中国版ではジャッキー・チェンが出演し、現地でも大きな話題となった。


 アジア各国でも大人気の東野だが、とりわけ中国では『容疑者Xの献身』をきっかけに人気が定着※し、10年以上爆発的ブームが続いている。どの書店でも東野作品がずらりと並び、専用コーナーが設けられているそう。結果、中国でのミステリーと言えばアガサ・クリスティと東野圭吾が二大巨頭との評価を得ている。
※中国では、日本映画版の『容疑者Xの献身』を海賊版で視聴した層が多くいたと言われている。


 『ブラック・ショーマン』も「ガリレオ」シリーズのようにドラマや劇場版シリーズ展開も期待されるだけに、東野×福山タッグの新たな代表作となるのか注目したい。


(文=泉康一)



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