自民党の高市早苗新総裁は「責任ある積極財政」を掲げ、財政出動や減税を通じた成長力の底上げで「税収が自然増に向かう強い経済」の実現を目指す。その経済財政運営の手腕は今秋の臨時国会で早速問われる。首相に就任すれば、連立枠組みの拡大も見据えて、野党との政策協議を進め、物価高対策と裏付けとなる2025年度補正予算を成立させる責務を負う。政策協議の焦点となるのは減税策だ。
高市氏は新総裁選出後の4日の記者会見で、与野党が合意したガソリン税の暫定税率廃止について「臨時国会でやらなければならない」と明言、関連法案の成立を急ぐ考えを表明した。軽油引取税の暫定税率の廃止も実現させる方針だ。
所得税の課税最低ライン「年収の壁」の引き上げにも前向きで、総裁選中には178万円に引き上げる国民民主党の主張に賛意を示した。すでに立憲民主党との間で協議が始まっている減税と給付を組み合わせた「給付付き税額控除」についても、制度設計を進める構えだ。
ただ、いずれの減税策も巨額の税収減を伴う。暫定税率廃止はガソリンと軽油を合わせて年約1.5兆円、年収の壁引き上げでは数兆円規模で税収に穴があく。高市氏を含め与野党には税収増を財源として当て込む姿勢は強く、恒久財源確保のめどが立たないままの見切り発車で、財政規律の弛緩(しかん)が進む可能性がある。
一方で、減税など財政拡張策を進めれば、「物価高をむしろ助長する恐れがある」(明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミスト)との指摘もある。
6日の東京市場では株価が大幅上昇する一方、輸入物価を押し上げる急激な円安も進んだ。英国では22年秋、当時のトラス首相が財源の裏付けを欠く大規模減税で市場の混乱を招いた。金融市場は、積極財政を掲げる高市氏の下、「円売り」「債券売り」が止まらなくなるリスクも意識する。