
40人の武装強盗団が、ニューデリー行きの特急寝台列車を襲撃! 刀を手に乗客から金品を奪う強盗団のリーダー、ファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、大富豪タークルとその娘トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)を人質に取り、身代金奪取をもくろむ。だがその列車内には、トゥリカと永遠の愛を誓い合った対テロ特殊部隊員アムリト(ラクシャ)がいた。軍隊仕込みの格闘術で、数で勝る強盗団に挑むアムリト。果たして、壮絶な戦いの行方は…!?
世界中の映画祭を席巻し、『ジョン・ウィック』シリーズの監督、チャド・スタエルスキによるプロデュースでハリウッド・リメイクも決定した話題のインド発ノンストップ・アクション『KILL 超覚醒』が、11月14日から全国公開となる。これが日本初上陸となるニキル・ナゲシュ・バート監督が、作品に込めた思いを語ってくれた。
−全編で繰り広げられるすさまじいアクションに圧倒されました。ニキル監督は「インド映画の系譜とは異なるアクション映画を作ることが夢だった」と語り、それがこの映画を制作するきっかけになったようですが、その思いの原点はなんだったのでしょうか。
1980年代の初め、子どもの頃の私は従兄弟たちと集まり、一つしかないテレビで夜6時45分から始まる映画を見るのが習慣でした。ところがある日、いつものように映画を見ていると、そこへおじが入ってきたんです。そのときちょうどテレビに映っていたのが、なんとレイプシーン!すぐにおじがテレビを消し、家族会議が開かれ、「子どもたちに悪影響しかない」と映画禁止令が出てしまったんです。
−なんと!
でも、私はむしろそれをきっかけに映画熱が芽生え、学校に行くふりして、こっそり映画館通いをするようになってしまって(笑)。おかげで、他の子たちの10倍くらい映画を見ることができました。そうやって見たのが、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンのアクション映画です。そんなことから、自分でこの映画の脚本を書くことになったとき、今まで影響を受けてきた映画の要素をすべて入れようと思ったんです。
−その思いの結晶であるこの映画には、インド映画定番の「歌とダンス」が一切ありません。そういう型破りな映画を作る上で、難しさはありませんでしたか。
普通に考えれば、こういう映画を作るには、いくつものハードルがあってもおかしくありません。でも今回は、理解あるプロデューサーたちのおかげで、何の苦労もなく製作を開始できました。例えば、グニート・モンガ・カプールは、私がこの映画のアイデアを持っていると知ると「一緒にやろう」と言い、脚本の初稿を書き上げた後、一緒に製作会社ダルマ・プロダクションズのカラン・ジョーハルに会いに行ってくれました。カランも、序盤のストーリーを説明したところで話を止め、「わかった。やろう!」と、即決でした。そんなふうに、この映画の可能性を信じた先見の明のあるプロデューサーたちのおかげです。これ以上は望めない素晴らしいプロデューサーたちです。
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−その結果、完成したこの映画では、強盗団が使う刀やナイフのほか、列車備え付けのシャッターや消火器、乗客の荷物など、一見武器になりそうにない身近なものを使った多彩なアクションが見所です。そういうアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
私は若い頃、列車で千マイルも離れた大都市への旅を、年に4〜5回も繰り返していたんです。その中で、列車の旅の実態を目の当たりにしてきました。小さな盗みや強盗はしょっちゅう起きるので、乗客も自分の荷物を守るため、チェーンやロックをかけることは当たり前。火災が起きれば消火器も必要です。そういう状況を目にした経験が劇中、武器を持たない主人公たちが、チェーンや消火器、ライターといった身近なものを使って強盗団と戦うアイデアにつながっていきました。しかも、武器でないものを使うことで、サプライズ要素やアクションの強度も高まりますし。それは、『ジェイソン・ボーン』や『ジョン・ウィック』などのアクション映画がすでに証明している通りです。
−それと同時に、物語からは「暴力を肯定しない」というメッセージも伝わってきます。
その通りです。というのも、バイオレンスを見せるだけでなく、その先にあるものを描きたいと思ったからなんです。劇中では、主人公が激しいバイオレンスを繰り広げるにつれ、悲しみや苦しみも増していきます。「“目には目を”は、世界を盲目にする」とガンディーも言っていたように、結局、暴力ではなにも解決しないんです。
−本作は、世界中の映画祭で高い評価を受け、ハリウッドでのリメイクも決定しました。その結果を踏まえて、ニキル監督は今後、活躍を世界に広げていこうとお考えでしょうか。今後の目標を教えてください。
今回は初めてのアクション映画ということで、制作中の苦労も多く、文字通りたくさんの血を見ました(笑)。これまで、ロマンティックな映画やダークコメディー、スリラーなどさまざまなジャンルの映画を撮ってきましたが、そういった作品も作りつつ、今後いくつかはアクション映画を撮りたいと考えています。既に脚本を書き終えているのが、バイオレンスを交えたラブストーリーです。さらに、インドの田舎を舞台にしたアクション映画と、ディストピア的な世界観で繰り広げられるSFアクションも執筆中です。もちろん、機会があれば、アメリカやアジアの国々など、インターナショナルに映画を撮ってみたいです。
−今後のご活躍を期待しています。ところで、この映画はニキル監督にとって日本で劇場公開される初めての映画となります。最後に日本公開に対する思いをお聞かせ下さい。
言葉にならないくらいうれしいです。アメリカや南米の国々、韓国など、世界中で好評を得たこの映画を、日本でも受け入れていただけることを、心からうれしく思います。日本の皆さんにどう受け止められるのか、気になるところですが、他の国の方々と同じように楽しんでいただけるはずだと信じています。
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(取材・文/井上健一)


