2025スーパー耐久第7戦富士 エンライトンブランドのタイヤを履くTGRR GR86 Future FR conceptt 11月15〜16日に静岡県の富士スピードウェイで行われるENEOSスーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONE第7戦『S耐FINAL大感謝祭』は、今季最終戦でさまざまな見どころがあるが、今回ST-Qクラスに参戦するTGRR GR86 Future FR concept、MAZDA SPIRIT RACING RS Future conceptの2台に、ブリヂストンの商品設計基盤技術『エンライトン』ブランドのサステナブルタイヤが装着されることになった。
スーパー耐久シリーズのST-Qクラスは他のクラスに該当しない、スーパー耐久未来機構(STMO)が認めた開発車両が参加できるクラスで、各自動車メーカーがカーボンニュートラル実現に向けた新技術の開発や、クルマづくりの場として活用している。
シリーズはオフィシャルタイヤサプライヤーであるブリヂストンが全車に『ポテンザ』ブランドのレーシングタイヤを供給しているが、この第7戦富士から新たにブリヂストンが従来のタイヤ性能を向上させた上で、求められる多様な性能をユーザー、モビリティごとにカスタマイズする商品設計基盤技術『エンライトン』のブランドをもつサステナブルタイヤが、ST-Qクラスに参戦するTGRR GR86 Future FR concept、MAZDA SPIRIT RACING RS Future conceptの2台に装着されることになった。
この『エンライトン』ブランドのサステナブルタイヤ投入について、ブリヂストンのグローバルモータースポーツ管掌の今井弘常務役員は「ブリヂストンにとって、モータースポーツは原点であるということをよくお話させていただいていますが、タイヤは命を乗せている非常に重要な安全部品です。サーキットという極限の場で徹底的にテストをしてレースをして、技術を磨いて極めていく場としてモータースポーツを使い、文化としてモータースポーツが発展していくように貢献していきたいと思っています。その中で、我々自身が“極限へ挑戦”していきたいという思いがあります」と説明した。
「スーパー耐久の理念、そして我々が掲げるブリヂストン『E8コミットメント』の中で、モビリティ体験を皆さんに感じていただき、カーボンニュートラルモビリティの実現に貢献するという点で、我々はバリューチェーン全体でサステナブルな未来に貢献できないかと活動していますが、今回スーパー耐久にサステナブルタイヤを提供させていただき、ソリューションの普及を通じてより良い地球を将来世代へ引き継ぐことにコミットするという考えをもっています」
●“ドライバーが予測可能な領域”を広げるエンライトンの基盤技術
では、このサステナブルタイヤにおける基盤技術『エンライトン』はどんな技術なのだろうか。今井常務役員はまずモータースポーツにおける“極限への挑戦”とは何かということを説明した。
ドライバーが予測できる動き=リニアな動きは安心してドライブすることができるが、予測できない動き=ノンリニアな動きは不安を感じ、安心感を損なうものになってしまう。スーパー耐久はさまざまなドライバーが参戦しているが、リニアな領域を広げることで、多くのドライバーが限界に近い領域で走ることが安心してできる、そして長い距離を走ることができる予測可能なタイヤが重要になるという。
「我々はタイヤの開発を通じて、こうした予測可能な領域を広げていくことを求めています。この『エンライトン』という設計基盤技術は、この基本的な性能を大きくし、リニアな反応をする領域をどんどん大きくしていこうという活動です」と今井常務役員。ゴムを極め、接地を極め、モノづくりを極め、そしてサステナブル性能を追求するのが『エンライトン』という技術となる。
この挑戦のなかで、これまでブリヂストンが世界中のモータースポーツ活動で培ってきた接地性の向上、ゴムを『見る』、『解く』、『操る』という基盤技術が追求されていった。特に接地についてはシミュレーション技術の進化であらゆる路面でもグリップするタイヤ構造、ゴムを開発。ゴムの変形や摩擦、破壊が“見える化”され、ナノレベルの技術開発が続けられているという。
「ゴムというのは非常に面白いです。真っ黒で無愛想ですが、ゴムのなかにはポリマーがあればカーボンブラックがあれば、樹脂があればオイルもあり、いろいろなものが入っていて混ざり合っています。それをミクロレベル、ナノレベルまで見ていくと、それぞれの材料がどう動いているのか、力が加わったとき、温度が上がったとき、曲がったときにどう動いているのか見ることができるようになりました」
「そのいろいろなものが動いているものをどうコントロールすれば最適なものが作れるのかを、今いろいろと検討しています。シミュレーションをして、どういう動きをするのか、実際のものと突き合わせてどうなるのかを取り組んでいます」
●スーパー耐久で得られた知見を2026年からのフォーミュラE参戦の知見に
一方、サステナブルという面では、代替材料を見つけたり、使用済みのタイヤをどうリサイクルしていくかの活動も行っているという。タイヤを精密熱分解し、再処理して材料を使う取り組みを続けているが、今回ST-Qクラスに投入されることになった『エンライトン』ブランドのサステナブルタイヤは、これらの取り組みから得られた新しい再生素材を「かなり」多く使ったタイヤになっているという。
すでにブリヂストンは、8月にオーストラリアで行われたワールドソーラーチャレンジでサステナブルタイヤを投入しているが、ソーラーチャレンジで得られた知見をST-Qクラスの2台に盛り込み、さらにスーパー耐久で得られた知見を、2026年から供給する予定のフォーミュラE用のタイヤに盛り込むと今井常務役員は説明した。
今回はスリックタイヤのみだが、第7戦富士で2台が装着するのは、235/620 R17というタイヤサイズで、商品設計基盤技術『エンライトン』を搭載。このサステナブルタイヤの開発は非常に高度な技術が必要となるものだというが、再生由来の原料を使っていることもあり、これまでのタイヤとは「見た目は同じですが、違うもの」ができあがるという。
「では、我々がタイヤとして求める性能を出すためにどうしたら良いのかを、我々のパートナーの皆さんと一緒に考えさせていただき、協業させていただき作りだしてきたものが詰まっています。私としても、かなり思いが詰まったタイヤです」と今井常務役員は語った。
今回の投入にあたり、現在使われている『ポテンザ』ブランドと同じ性能を目指し作ってきた『エンライトン』ブランドのサステナブルタイヤだが、実際にTGRR GR86 Future FR conceptのドライバーたちにフィーリングを聞くと、やはり違った感触になっているというから興味深い。こういったカーボンニュートラルに向けた新技術への挑戦は、順位がつくわけではないST-Qクラスという舞台を活かした、ならではの取り組みと言える。スーパー耐久で磨かれた技術が、2026年以降フォーミュラEの場にも活かされていくことになる。
[オートスポーツweb 2025年11月14日]