画像提供:マイナビニュース大阪府池田市、ローソン、KDDIは12月5日、地域のさらなる活性化と安心して暮らせるマチづくりを目指し、包括連携協定を締結した。当日は、三者が池田市伏尾台で進める「ハッピー・ローソンタウン」構想についてのプレゼンテーションも行われた。本稿では、その協定締結式の様子をレポートする。
官民連携で目指す池田市の持続可能なまちづくり
今回の包括連携協定締結式には、池田市長・瀧澤智子氏、ローソン 代表取締役 社長・竹増貞信氏、KDDI 代表取締役社長 CEO・松田浩路氏の三者が登壇。協定の締結後、「ハッピー・ローソンタウン」に向けた構想をそれぞれが発表した。
本協定は、三者が持つリソースを生かし、密接に連携することで、池田市のさらなる活性化や市民が安心して暮らせるマチづくりを進めることを目的としている。連携事項には、福祉、子育て、防災・防犯、地域活性化など、13の項目が掲げられている。
締結式ではまず、瀧澤市長が池田市を紹介し、協定締結に至った経緯や今後の展望を語った。
人口約10万人の池田市は、大阪府北西部の兵庫県境に位置し、大阪都心にも近い交通の要衝だ。「小さな町ですが、自然や歴史、文化、観光資源、住宅都市機能がコンパクトに揃う暮らしやすい街です」と瀧澤氏は述べた。
現在は「第7次池田市総合計画」に基づくまちづくりを推進している。“「だったらいいな」を叶えるいけだ”をキャッチフレーズに、各施策分野において持続可能な未来を目指して取り組んでいる。
持続可能なまちづくりにおいてカギとなるのが“人口”である。現在は約10万人を維持しているものの、将来は減少が見込まれ、2050年には65歳以上の老年人口が3割超になると推計されている。こうした課題に対応するには、企業をはじめとした多様な主体との連携が不可欠だと瀧澤氏は強調した。
官民連携の事例として、阪急池田駅南広場「KUREPA」で実施した社会実験“お散歩マルシェ”が紹介された。官民の境界を越えた一体的な空間づくりが進んでいる。
今回取り組む伏尾台地域は、1970年代に開発されたニュータウンで、静かな住環境を生かしながら官民連携で子育て・教育施策を展開しているが、少子高齢化が特に深刻なエリアでもある。こうした背景のもと、企業版ふるさと納税制度による寄付土地の活用事業者としてローソンが選定され、KDDIも地域課題の解決を目指して参画し、三者協定の締結に至った。
瀧澤氏は、「三者が密接にコミュニケーションをとり、伏尾台の創生をはじめ、13分野で連携しながら地域課題の解決と価値創出に取り組んでいきます」と述べ、締めくくった。
老若男女がゆるくつながる「ハッピー・ローソンタウン」
続いて、ローソンの竹増氏が「ハッピー・ローソンタウン」構想について説明した。
人口減少や高齢化の進行により、全国で「買い物困難地域」が増える中、地方創生は大きな社会課題となっている。1960年代〜1970年代に全国で約2,000作られたニュータウンも、現在では過疎化が進み、「オールドニュータウン」と呼ばれるケースが増えている。
こうした状況に対し、「ローソンがグループを挙げて向き合うことで、ニュータウンの活性化に貢献できるのではないか」と竹増氏は語る。そこへ“つなぐプロ”であるKDDIがテクノロジー面で参画し、共同で描いた構想が「ハッピー・ローソンタウン」だ。
竹増氏は、この構想に多くの可能性を見ている。たとえば、ローソンのパートナー企業である無印良品によるニュータウンのリノベーションは、若い世代の回帰につながる事例が生まれているという。
さらに、「テクノロジーを活用したリアル店舗“リアルテックローソン”によろず相談所を設置し、リモートで専門家につなぐ」「スマホで注文した商品をドローンや自動配送ロボットで配達する」といったアイデアも挙げられた。そのほか、“ローソンファーム”によるスマート農業、集会所での“ローソン・ユナイテッドシネマ”ミニシアター上映、保育園やケアセンター、クリニックモールの設置など、多様な地域サービスの構想も語られた。
街全体がKDDIのテクノロジーでゆるやかにつながることで、世代間の助け合いも広がるという。たとえば、若者が高齢者の買い物を配達し、その代わりに高齢者が子どもの送迎を手伝うといった“共助の仕組み”だ。
「オールドニュータウンを“ネオ・オールドニュータウン”へ。若い方が戻り、子どもの声が響く街に生まれ変わらせたい」と竹増氏は思いを語る。
テクノロジーの活用によって、薬の配送、OTC医薬品の提供、リモート診療や服薬指導などが可能になり、医療課題の解決にも寄与する。また、自動運転バスの運行や廃校の活用も、地域のピンチをチャンスに変える取り組みとなる。
さらに「ハッピー・ローソンタウン」には災害時を見据えた仕組みも備える。蓄電池により停電時でもスマートフォンを充電でき、KDDIのスターリンクを活用すればWi-Fiにも接続可能。ローソンの店内厨房も利用できる。平時には、コミュニティスペースやカフェスペースが、血縁に関わらず人々が集まる“ゆるやかなつながり”の場として機能する。
竹増氏は最後に、「この取り組みを全国100カ所ほどへ広げ、ゆくゆくは約2,000あるニュータウンへ影響を波及させたい。再活性化が進めば、地域創生の大きな力になるはずだ」と展望を語った。
テクノロジーで地域課題に挑むKDDI
最後に、KDDIの松田氏が「ハッピー・ローソンタウン構想を支えるテクノロジー活用」について説明した。松田氏は、「私たちは心や暮らし、命を”つなぐ力”に強いこだわりを持っています」と語り、KDDIが果たす役割を示した。
KDDIはau、UQmobile、povo を通じて3,300万人に通信サービスを提供しており、日本で唯一、衛星通信「スターリンク」と携帯電話を直接つなぐ仕組みを実現。圏外でもつながる環境づくりを進めている。
さらに、「サステナビリティ経営」を掲げ、防災・減災、産業・DX、未来人財の3領域で社会課題の解決に取り組んでいる。「課題解決が事業成長につながり、また新たな課題を解決する循環をつくりたい」と松田氏は述べた。
KDDIが重視するのは「地域にリアルで向き合うこと」だという。温かみのある接客や対話こそ心が動く瞬間であり、そこにテクノロジーをどう融合させるかを追求している。その要となるのが「人流データ」「ドローン」「リモート接客」の3つだ。
まず、人流データでは、池田駅を訪れる人の出発地や年代、曜日ごとの利用傾向を可視化。市民のほか、兵庫県川西市・宝塚市からの来訪も多いことがわかっている。「静的な属性データ」と「動的な移動データ」を組み合わせることで、「この時間帯はここにタクシー(mobi)を配置すると便利」「この場所に出店すると人流を取り込める」といった仮説立案にも活用できるという。
次にドローンだ。防災や災害対応での活用が期待され、KDDIは平時から使える社会基盤の整備を進めている。試算では全国1,000カ所に配置すれば“日本中どこでも10分で駆け付ける”体制が整う。実際に石川県では常設化が進み、行方不明者捜索にも活用されている。
そして「リモート接客」。KDDIは高輪のローソンで“AIコンシェルジュ”の実証実験を行っており、池田市でも処方箋対応や金融サービスなど、新たな店舗機能として展開できる可能性があるという。
これらの取り組みを支えるため、堺市にはAIデータセンターを建設しており、2026年1月の稼働を予定している。
松田氏は最後に、「社会価値の向上と事業成長の循環をつくり、ローソンさんを起点に地域社会の発展に貢献していきたい」とまとめた。
採算性のカギは「地域に合った店舗運営」
協定締結式の終盤には、「ハッピー・ローソンタウン」に関する質疑応答も行われた。中でも多かったのが、「こうした取り組みで採算が取れるのか」というビジネス面の質問だ。これに対し、ローソンの竹増氏は「10年前と比べ、コンビニの使われ方は大きく変化しています」と答えた。
かつては、通勤途中や外出時に軽食や飲み物を購入する利用が中心だったが、現在は日常のさまざまなシーンで利用されるようになっている。また、地域密着型の店舗づくりも進んでおり、店内に小上がりのイートインスペースを設け、居酒屋のように地域住民が集える店も出てきている。
さらに竹増氏は、「コンビニは人口2,000人につき1店舗が成り立つとされています。伏尾台の人口は約5,000人で、全国の小さな街でも持続可能なお店づくりができている」と述べた。
そのうえで、「成功のカギは、地域の方々のニーズに合った店づくりができるかどうかです。すでに住民の皆さまと対話を重ねていますが、今後もご意見をいただきながら、私たち自身も変化し、サステナブルな店舗運営を実現していきたい」と語った。
武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら(武藤貴子)