吉田ななみさん(仮名・58歳)2年前、モラハラ気質の事実婚パートナーのもとから逃げるように家を出た吉田ななみさん(仮名・58歳)。同居中に発症したパニック障害を抱えながらも、「もう一度誰かと生活を共にしたい」と結婚相談所に登録した。
だが、そこで突きつけられたのは衝撃的な現実だった――。借金を抱えた夫との離婚、モラハラからの脱出、そして熟年婚活。数々の試練を経て、彼女がたどり着いた境地とは。
◆夫の借金返済を迫られ、限界を感じる
――最初に結婚されたのはいつ頃で、当時は何歳でしたか。
吉田ななみ(以下、吉田):23歳のとき、以前の職場の先輩と結婚しました。25歳で息子を出産しましたが、息子が3歳のときに調停離婚しています。
結婚後しばらくして、夫が大きな借金を抱えていたということを知らされたからです。当初は肩代わりしてくれると話していた夫の両親が、息子が生まれて間もなく、「自分たちの生活も苦しいから、返済してくれないか」と言い出して。
「借金を作った本人ではなく、どうして私に言うんだろう」と思いました。借金を押し付けているにもかかわらず、何食わぬ様子で会いに来る始末。次第に顔を合わせること自体が苦痛になっていきました。
それでも夫は、他人事のように知らん顔をしているんです。「もう無理だな」と思って、別れることにしました。
――その後、しばらくシングルで息子さんを育ててこられたんですか。
吉田:はい。息子が自立するまでは、一人で育てようと決めていました。
お付き合いした方はいましたし、結婚を望んでくださる方もいました。でも、その都度お断りしていました。当時は学費を稼ぐために必死で、誰かと新たな家庭を築く余裕がなかったんです。
◆優しかった彼が豹変…同居後にモラハラ被害に
――その後、再婚した相手がモラハラ気質だったとのことですが、その経緯を教えてください。
吉田:2022年に、共通の趣味を通じて知り合った2歳年上の男性と、3年間の交際を経て同居を始めました。彼も離婚歴があり、入籍はせず、名字も変えないまま、世帯を一緒にする事実婚の形でした。
交際中は、本当に優しい人で。でも、一緒に暮らし始めてから、少しずつ様子が変わっていきました。折りに触れて急に怒鳴りちらし、ときには無視されるようになったんです。
ある日、パートナーの加齢臭でシーツの臭いがきついなと思って、洗濯しようと取り替えたことがありました。そうしたら、「俺がいない時に勝手に寝室に入るな」と怒られてしまって。
同居は、お互いの家具や家電を持ち寄る形でした。私が気に入っていた掃除機について、「俺が持ってきたものがすべてだ」と言われたこともあります。もちろん理由ははっきりしない。理不尽ですよね。
自分の気に入らないことがあると、ため息をつくんです。その姿を見て、「あれ、お付き合いしていた頃とは違うな」と感じました。
不可解なのは、翌朝には何事もなかったかのように、にこやかに「行ってきます」と会社へ向かう。何がきっかけで突然怒り出すのか、まったくわからなくて。常に顔色をうかがうような毎日になっていきました。
◆夜中に突然、パニック障害。原因は…
――その状況から抜け出そうと思われたきっかけは?
吉田:同居を始めて数ヶ月経った頃、夜中に突然、パッと目が覚めたんです。息がうまくできなくなって、過呼吸のような状態。そこからパニック障害の発作が起きるようになりました。
最初は、更年期障害の症状かなと思って婦人科を受診しました。いろいろ検査をしたんですけど、先生からは「更年期障害の症状ではないですね。精神科にかかった方がいいですよ」と言われて。
そのとき、「生活の中で緊張することはありますか? 何か辛いことは?」と聞かれたんですが、私は「母が亡くなったことや、仕事の負担が増えたことかもしれません」と答えていました。パートナーが原因だとは、その時点ではまったく思っていなかったんです。
数ヶ月経っても症状は続いて、別の心療内科に通うようになりました。毎月通院していましたが、最初の頃は先生も私も原因がわからなかった。
でも、診察で話す内容が、仕事のことよりもパートナーのことのほうが多くなっていったんです。すると先生から「もしかしたら、それはモラハラなんじゃないかな」と言われて。「え、そうなのかな?」という感じでした。
気がつけば、急に怒鳴られるたびに、体がビクッと反応するようになり、「これまずいな」と思うように。ネットで検索しているうちに、モラハラで苦しんでいる女性たちの声を見つけて、「こういう場合は弁護士さんに相談するんだ」と知りました。すぐに予約を取って相談に行きました。
状況を説明すると、「それは間違いなくモラハラです。状況が良くなることはまずないから、早く別れて、絶対気づかれない場所に逃げなさい」と言われました。
それまでモラハラを受けた経験がなかったので、「自分が被害を受けている」ということに気づけなかったんです。でも弁護士さんの言葉で、「これはもう逃げなきゃいけない」と思いました。
◆逃走計画を決行。発覚後、パートナーは激怒
――どのようにして逃げられたのですか。
吉田:パートナーの息子さんが大学院を卒業して就職が決まり、実家から通うことになったんです。その話を聞いたときに、「あ、今だ。私はこれで逃げるんだ」と思いました。
そこでパートナーに、「私の部屋を息子さんに使わせてあげて」と提案したんです。すると、「なんで君が出ていくの?」と驚かれました。
でも、「社会人になりたての時期は、父親から学ぶことも多いだろうし、親子で暮らしたほうがいいじゃないか」とか、それらしい理由を重ねていって。息子さんと同居する流れにして、私が家を出ることに同意せざるを得ない方向に話を持っていきました。最終的には、彼も納得しました。
そのとき、彼がボソッと「君が引っ越ししているのを近所の人たちが見たら、離婚するって思われるのかな」と言ったんです。ああ、この人はやっぱり世間体を気にしているだけの人なんだな、って思いましたね。
――ご本人には別れる意向を告げずに家を出られたんですね。
吉田:はい。あくまで「いったん同居生活から離れる」という形で話を進めました。真意を悟られないようにしながらのやり取りだったので、かなり緊張感はありました。
家を出たあとも、弁護士さんとの正式な契約が整うまでは、パートナーと穏便に連絡を取り合っていました。弁護士さんが「これで代理人契約が成立しました」とおっしゃったその日を境に、私はパートナーとの連絡を絶ちました。
それ以降は、事実婚を解消したいという私の意思を、すべて弁護士さんを通じて伝えていただきました。やり取りは完全に弁護士経由です。
弁護士さん曰く、パートナーは激怒していたそうです。
◆50代でも「子ども希望」多数。その現実に愕然
――事実婚を解消後、いつ頃から、どのような動機で婚活を始められたのですか。
吉田:半年経った頃です。父と話し合う機会があって、そのときに言われたんです。「リタイア後の生活を考えると、誰か一緒に生活したほうがいい。元夫との生活がダメだったからって諦めるんじゃなくて、ダメだったからこそ、次はいい人と出会いなさいね」って。
母に先立たれている人なので、実感のこもった言葉でした。その言葉が、私の中にすっと入ってきたんです。
私自身も、父が定年退職してからの両親の姿を見てきました。特別なことをしなくても、二人で出かけたり、ただ隣り合って穏やかに過ごしていたり。そういう老後を私も目指したいなと思って、結婚相談所に登録しました。
――結婚相談所に登録した当初、どのような感触を得ましたか?
吉田:登録すると、「新しい会員さんが入りました」みたいな紹介コーナーがあるらしくて、最初の1ヶ月は、びっくりするぐらいたくさんのお申し込みをいただきました。
でも、60代の方からのお申し込みが多かったです。最年長では78歳の方からお申し込みが来たことも。私は、できれば3歳以上離れていない年齢の近い方と出会いたいと思っていたんですけど。
私がお会いしたいと思った男性からお断りが来て、その理由が「年齢がいっているから」と知らされたときは、ショックでしたね。「その人より私は若いのに、どうして?」って。
結婚相談所のコンサルタントの方に聞くと、私と同年代の男性は、若い女性と出会って子どもを望んでいるケースが多い、と言われました。
50歳を過ぎても、子どもをほしいと望んでいる方がこんなに多いんだ、と。本当に、私は世の中のことを知らなかったんだなって、衝撃を受けましたね。
◆お見合いで出会った“クセ強”男性たち
――印象に残っている出会いを教えてください。
吉田:自動調理機を買ったと嬉しそうに話す男性がいて。YouTubeでその調理器を紹介している動画を観て購入したそうなんです。「その調理器で何を作ったんですか?」と聞いたら、数ヶ月経ってもまだ一度も使っていないと言うんです。
理由を聞くと、「置く場所をまだ決められなくて」と。しかも、材料を買って、自分で切って、鍋に入れなきゃいけないのが面倒だ、と。それを聞いたとき、「この人には念じたら全部やってくれる超能力家電が必要なのかも」って思いました……(笑)。
68歳の男性で、大学に入り直して勉強されているという方もいました。でも、先生方は自分より年下らしく、「奴らが……」みたいな言い方をされるんです。先生に対するリスペクトがまったく感じられなくて。
もしかして私のことも小娘くらいに思っているのかな、と感じてしまいました。ただ「相手が欲しい」という印象が強くて、尊重し合える関係を築くのは難しいだろうな、と。帰り際に「タクシーで帰りますか」と言われましたが、「私は買い物して帰ります」と、そのまま失礼しました。
同じく60代の方とのお見合いで、まるで茶道の個人講義のような時間を過ごしたこともあります。30代からずっとお茶を習っているそうで、表千家、裏千家、武者小路千家……と主要流派の違いを延々と解説されて。
お店で注文したお茶が出てきても、なかなか「どうぞ」と言ってくださらない。結局、「お茶、飲んでもいいですか?」とこちらから尋ねる流れに。正直、つらい時間でしたね。
◆婚活は「心のリハビリ」だった
――婚活を続ける中で、心境に変化はありましたか。
吉田:元パートナーからモラハラを受けていたので、事実婚が解消された直後は、外に出るのも怖いし、家にいるのも怖い、という状態でした。だから、婚活を始めた当初は、男性に対する恐怖心があったんです。でも、いろんな方とお会いしていくうちに、その恐怖心が少しずつ和らいでいきました。
それぞれに価値観があって、正直に話してくださる方や、自己開示してくださる方もいる。男性って、ひとくくりにはできないんだ、とわかったんです。
歩んできた人生も違えば、奥さまとの別れ方も本当にさまざま。話してみると、価値観の違いが見えてくる。その違いを知ることが面白いと感じられるようになって、そういう時間を持つことが、だんだん楽しくなっていきました。
ある程度仲良くなった方には、以前モラハラに遭ってつらかったこともお伝えしました。すると、気持ちに寄り添ってくださる方もいて。そうした出会いを重ねるうちに、「男性は怖いものだ」という感覚はなくなりましたね。
――現在、モラハラに苦しんでいる女性に伝えたいことはありますか。
吉田:私自身、ネット上でモラハラに苦しむ女性たちの投稿を読んだことがきっかけで、弁護士さんに相談することができました。同じように苦しんでいる人がいると知って、背中を押されたんです。
ただ、「お金がないから動けない」と書いている方も多くて。事情は本当にそれぞれだと思います。でも、ネットで気持ちを吐き出すだけでは、現実はなかなか変わらない。だから、専門家や助けてくれる人のところへつながってほしいなと思います。
苦しい状態が続くと、心だけでなく体にも影響が出てしまうことがあります。私も原因がわからない不調に悩まされました。
無理はしなくていいけれど、少しでも外に目を向けてみること。誰かに相談してみること。一歩踏み出すことで、未来を変えることができると思います。
<取材・文/秋山志緒>
【秋山志緒】
大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle