管理職はなぜ「罰ゲーム」になるのか “仕事量”だけでは説明できない理由

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2026年05月08日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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管理職はやっぱり罰ゲームなのか

 管理職の「罰ゲーム化」が叫ばれて久しい。業務量は増える一方、部下の育成も求められ、後任も見当たらない。やりがいを感じる余裕すらないという声も聞こえてくる。


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 こうした課題に対して、管理職自身の負担軽減や能力開発に目が向きがちだ。だが、リクルートマネジメントソリューションズは別の可能性を示唆する。管理職のやりがいや成果実感は「メンバーをどう認識しているか」にも左右されるというのだ。罰ゲーム化を解消するカギは、管理職自身ではなくチーム側にあるのかもしれない。


 管理職の負担増が止まらない状況に対し、研修や1on1といった支援策が講じられてきたが、それ自体が多忙な管理職をさらに忙しくするという矛盾も指摘される。


 実際、業務量の増加を感じている管理職は52.5%、後任者の不在を課題に挙げる管理職も56.2%に達し(パーソル総合研究所、2019年)、「管理職になりたくない」と答えた一般社員は77%を超えた(日本能率協会マネジメントセンター、2023年)。「罰ゲーム化」という表現が広がるのも無理はない。


 こうした中、リクルートマネジメントソリューションズは2025年9月、従業員300人以上の企業に勤務する、部下を持つ課長相当の管理職を対象に調査を実施した。分析対象は430人。その結果からは、管理職の複雑な内面が浮かび上がっている。


 約60%が仕事の意義を感じているが、「こんな仕事、もうやめたい」「心身ともに疲れはてた」と答えた管理職も40〜50%に上った。やりがいと疲弊感が同居している状態だ。


 マネジメント業務の中でも、やりがいの感じ方には差がある。メンバー育成や業績評価には7割以上がやりがいを感じている一方で、経営トップ層との連携や社外の人脈づくりといった新しい取り組みには、やりがいを感じにくい。日々のチーム運営に追われ、視野を広げる余裕がない現状がうかがえる。


●「助けてくれる部下が多い」と感じる管理職ほど、やりがいが高い


 では、管理職のやりがいや疲弊感は何が左右しているのか。リクルートマネジメントソリューションズは「フォロワーシップ」に着目した。フォロワーシップとは、部下が主体的に上司や組織を支える行動を指す。


 同社は、この行動を「積極的支援」「建設的批判」「配慮的行動」の3つに分類し、管理職がそれぞれをどの程度認識しているかを分析した。


 調査結果からは「積極的支援」の影響が見えた。上司の要求や目的を理解した行動、例えば、忙しいときに「これやっておきました」と先回りして対応する言動が「積極的支援」に当たる。


 それを実践するメンバーが多いと認識している管理職ほど、育成支援や関係構築といったマネジメント行動へのやりがいが高く、成果実感やワークエンゲージメントも高い傾向があった。


 ただし、管理職がメンバーに抱くイメージにはギャップがある。管理職はメンバーを「信頼できる」「チーム・プレイヤー」と肯定的に見ているものの、フォロワーシップ行動が「多い」とは認識していない。「人間性は高いが、積極的に助けてくれるわけではない」と認識している様子が浮かぶ。


 調査を担当した同社・研究主幹の入江崇介氏は、このギャップの背景に「複合的な要因がある」と説明する。


 「静かな退職」と表現されるように、必要以上のことをしないメンバーが増えている可能性、管理職側の期待値が上がった結果「まだ足りない」と感じている側面、そしてプロジェクト型業務の増加で上司がメンバーの行動を直接観察する機会が減っていることを挙げた。


●建設的批判は「支援の土台」がなければ逆効果になる


 フォロワーシップ行動のもう1つの要素が「建設的批判」だ。評価が下がるリスクがあっても正しいと思う意見を主張したり、上司の判断に対して異なる見解を伝えたりする。こうした行動を指すが、管理職の認識では、それを実践するメンバーは約30%にとどまり、積極的支援に比べて少ないと捉えられている。


 今回の調査では、建設的批判と積極的支援の組み合わせによる効果の違いが見えた。積極的支援が多い環境では、建設的批判を行うメンバーが多いと認識するほど、管理職の成果実感が高まる。


 ところが、積極的支援が少ない環境では、建設的批判が多いと認識するほど、やりがいや成果実感がむしろ下がる。同じ「批判」でも、環境によって正反対の効果を生んだ。


 入江氏は「助けてくれているという感覚がなければ、建設的であっても『ただの批判』と受け取られてしまう。逆に、助けてもらったうえで耳の痛いことも言ってもらえると、『自分は信頼されている』と感じられる」と分析する。


 この結果は、近年注目されている心理的安全性の議論とも通じる。意見を言い合えることは大切な第一歩だが、入江氏はそれだけでは不十分だと指摘する。助け合いの土台があってこそ、率直な意見が機能する。


 建設的批判が少ない現状は変わり得るのか。「人ではなく、職場で起きていることに対して批判する。この切り替えができれば、状況は変わり得る」(入江氏)


●管理職を「チームで支える」という発想転換


 企業側にできることはあるのか。入江氏は、管理職とメンバーの間に壁がある限り、支援行動は生まれにくいと指摘する。「管理職には権限や責任が付与されるため、『偉い人のために、なぜがんばるのか』という感覚になりやすい。管理職も一つの役割にすぎず、ともに働く仲間だと思えるようにすることが大切だ」と語る。


 具体策として挙げたのは、パーパスやビジョンを浸透させ、「一緒に成し遂げたい仕事」を共有すること。そして、360度フィードバックを通じて、互いの期待を言語化して伝え合うことだ。管理職がメンバーに何を求め、メンバーが管理職に何を期待しているか。そのすり合わせがなければ、フォロワーシップは発揮されにくい。


 フォロワーシップが自然に生まれた事例もある。リコーは、コロナ禍で主力の印刷関連事業が打撃を受けたことを機に「デジタルサービスの会社」への変革を宣言。2022年にはジョブ型人事制度を導入し、管理職をマネージャーとエキスパートの2つのルートに分けた。


 部下を持たない管理職層にも、3年間の猶予を設けて成果を求めるなど、役割と成果の関係を明確にした。その結果、30代の管理職比率は制度導入前の2.5%から11.4%へと上昇。全社員が危機感を共有する中で、メンバーが管理職を支える行動も自然に生まれたという。


●「管理職を鍛える」だけでは足りない


 管理職の状態は本人の能力だけでなく、メンバーの行動をどう認識しているかによっても左右される。積極的支援の土台があれば建設的批判も成果に結びつき、土台がなければ同じ批判が逆効果になる。管理職を個別に鍛える従来のアプローチだけでは、この構造は変えにくい。


 入江氏は「管理職個人の能力開発だけでなく、管理職とメンバーの相互作用に着目した組織づくりが求められている」と語る。


 リーダーとメンバーの信頼関係を「らせん構造」として捉える研究も、九州大学の池田浩准教授のもとで進められている。リーダーがメンバーを信じることが起点となり、メンバーの被信頼感(信頼されているという感覚)が高まり、それがリーダーへの信頼を生む。


 ただし、リーダーはメンバーが思うほどにはその信頼を感じ取れず、孤独に陥りやすいという。信頼は「持つ」だけでは足りず、「伝え合う」仕組みが必要だということだ。


 罰ゲーム化の議論は、これまで制度設計や業務量の削減に集中してきた。それ自体は重要だが、管理職の負担を「仕事の量」の問題としてだけ捉えている限り、本質的な解決には至らないのではないか。


 メンバーが管理職をどう支え、管理職がその支えをどう認識するか。この相互作用にまで踏み込んだ組織設計が、罰ゲーム化を解消するカギになりそうだ。


(カワブチカズキ)



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