世界初!分離回収したCO2を資源に〜「迷惑」を「歓迎」に変えた佐賀市の清掃工場〜<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

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2026年07月18日 08:39  TBS NEWS DIG

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佐賀市清掃工場には、世界初の施設がある。ごみ焼却の際に発生する排ガスからCO2を分離回収し、農業などに必要な資源に変える施設だ。「迷惑」施設を地域に「歓迎」される施設に変えた佐賀市の取り組みとは。「シリーズSDGsの実践者たち」の第55回。

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排ガスから高純度のCO2を取り出し農業に活用

佐賀市清掃工場は市の中心部に位置している。一見すると普通のごみ処理施設だが、ごみ焼却の際に発生するガスを排出する煙突のほかに、もう一つ高い塔を備えた設備が施設内にある。 

その塔には「CCU」という文字の書かれた看板が付けられている。「CCU」は「Carbon dioxide Capture and Utilization」の略で、「CO2の分離回収と利活用」を意味する。

この設備では焼却炉から排出されるガスのうち約5%を引き込み、排ガスからCO2だけを分離して、純度99.5%以上のCO2を回収することができる。清掃工場で発生するCO2は1日約200トンで、そのうち10トンを回収できる能力を持つ。回収したCO2は、ごみ処理施設の周辺に立地する園芸農業や藻類の養殖施設などにパイプを通じて送られる。

園芸農業などでは光合成を促進するためにCO2が必要で、通常は灯油を燃焼させるなどして確保している。佐賀市では、その燃料代よりも安い1kgあたり税込み37.1円の価格で高純度のCO2を供給するとともに、ごみ焼却による熱も供給している。

この取り組みによって企業進出が増加した。現在6社が集積して、その直接の投資額は70億円にのぼり、周辺に少なくとも50人を超える雇用を生み出している。排ガスと排熱を経済的な価値に変えているのだ。

「迷惑」施設から経済的価値を生む施設に

佐賀市清掃工場は2003年から稼働している。世界初となるCO2の分離回収設備を整備したのは2016年だった。整備の背景には、市町村合併と清掃工場の統合があったと佐賀市環境部GX推進課政策推進室の古賀亮一主査が説明する。

「平成の大合併によって2005年から2007年にかけて1市6町1村が合併し、新しい佐賀市に生まれ変わりました。清掃工場は旧佐賀市の周縁部に建てられていたのですが、合併によって新しい佐賀市の中心部に位置することになりました。さらに、旧町村のごみ処理場の維持費がかかることから、他の3か所の処理場をこの清掃工場に統合する計画が立ち上がりました。

ところが、合併した佐賀市のごみが全部ここに集まることで、ごみ収集車の往来も増えますし、排ガスも多くなります。地元住民の方には迷惑施設と捉えられ、計画に反対する声も多く上がりました。とはいえ、この清掃工場は市民生活には不可欠な施設です。そこで少し発想を転換して、清掃工場を迷惑施設から価値を生み出す施設に変えられないだろうかと考えて、取り組みが始まったんです」 

もともと佐賀市の下水処理施設である下水浄化センターでは、下水を生物処理する過程で発生する汚泥の肥料化やバイオマス発電を行なっており、また、有明海における海苔の不作の原因となる栄養源不足を補うため、窒素を多く含んだ処理水を、時期を区切って有明海に放流する取り組みも行なっている。下水を資源として活用するこの取り組みが形になったことが、現在の清掃工場の取り組みにつながっている。

清掃工場では、焼却炉の熱を利用した発電によって、公共施設や小・中学校に電力を供給している。この熱を産業にも利用してもらうとともに、これまで利用されていなかったCO2を資源に変えることで、地域に経済的な価値を生み出そうと考え、分離回収設備の開発が始まった。メーカーなどとともに約2年かけて開発し、世界で初めて実用化した。

純度99.5%以上のCO2をパイプラインで供給

CO2の分離回収は、アミン吸収法と呼ばれる仕組みで行われている。アミンは排ガスの中からCO2だけを選択的に化学吸収する特性があり、アミン溶液に排ガスを接触させることでCO2を吸収する。また、アミン溶液は温めるとCO2を離す性質があり、温めることでCO2だけを回収できる。

これは特に新しい技術というわけではない。大気中から直接CO2を回収する技術なども開発されている中で、あえてアミン吸収法を選んだ理由を、GX推進課政策推進室の前田修二副課長兼室長は「回収するCO2の純度を上げるため」と説明する。 

回収したCO2の純度は99.5%以上。大気中のCO2濃度が約0.04%、排ガスが約12%であることから、いかに純度が高いかがわかる。

実は、CO2は食品添加物として利用されている。代表的なものに炭酸飲料があるほか、生鮮食品を包装する際、酸化防止のために使われることもあるという。純度99.5%以上は、食品添加物として利用できる基準をクリアするほど高いものだ。

回収されたCO2はタンクに貯蔵され、パイプラインによって気体のまま事業者に供給されている。この設備が完成して、CO2と熱の、産業での利用が本格的に始まった。 

大規模な園芸農業施設が清掃工場周辺に進出

最初にCO2を供給した相手は、化粧品や健康食品の原料成分を生産する企業である「アルビータ」。微細藻類のヘマトコッカス藻を培養し、アスタキサンチンという成分を抽出しているのだが、そのヘマトコッカス藻の培養がCO2を吸収することによって促進されているのだ。 

また、JA全農が2020年に清掃工場の隣接地に整備した大型園芸施設の「ゆめファーム全農SAGA」では、CO2と熱が利用されている。この施設はキュウリを栽培しており、栽培面積は86アールと国内有数の規模を誇る。

清掃工場から供給した熱でハウス内を温め、高純度のCO2を引き込むことで光合成が促進され、高い収量を実現。初年度の10アールあたりの収穫量は約55トンに達し、国内最多を記録した。

他にも、いちご、花卉、ハーブなどの栽培のほか、魚の養殖と植物の水耕栽培を組み合わせたアクアポニックスなどにも、清掃工場のCO2と熱が利用されている。

これらの成果を受けて、新たに進出する企業も出てきた。2025年7月から操業を開始した橋本農園は、ミニトマトを栽培する大規模な園芸施設だ。投資額は約10億円で、約5億円の国の補助を受けた。

栽培面積は約1.2ヘクタールと広大で、天井付近からミニトマトの蔓を垂直に吊り下げて栽培するハイワイヤー栽培が行われている。約90メートルに及ぶミニトマトの生産ラインが80列も並ぶ。

オランダのメーカーから導入した最先端のシステムによって、光や温度、CO2濃度など700項目の総合的に管理している。光合成を最大化させることで、10アールあたりの収穫量を佐賀県平均の約5倍となる30トンを目指す。 

施設内で使っている熱とCO2は、現状ではLPガスを燃焼させて得るものだ。清掃工場からの熱の供給は2026年度から、CO2の供給は2027年度以降から受ける予定で準備を進めている。橋本農園の橋本佳季社長は、光熱費を抑えられることが進出を決めた理由だと明かす。

「施設園芸でかかる主な費用は光熱費と人件費、減価償却費です。最も大きいのは光熱費で、弊社の場合はガス代です。ガス代も人件費も毎年上昇しているものの、農産物は他の商品のように上昇分を価格に転嫁して値上げすることは無理です。

それが、清掃工場由来の熱やCO2が既存のガス代よりも安価に供給されることで、最も大きな費用を減らすことができます。費用が抑えられるのなら、他の農場に比べて優位性が高い取り組みができると考えたことが、この場所に進出した一番の理由です」

CO2を地域資源に変えることで環境と経済が両立

CO2を地域資源として活用した佐賀市の取り組みは、国際的にも注目されている。毎年開催されている国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、これまでに4回取り組みが紹介された。

また、清掃工場で回収されたCO2は、カーボンニュートラルなCO2として国際認証の「ISCC PLUS認証」を取得した。ごみの6割が動植物由来で再生可能であることから、バイオマス由来のCO2として認められたのだ。清掃工場由来のCO2がISCC PLUS認証を取得するのは世界初である。

佐賀市はCO2の産業への活用に注目している企業や大学、金融機関などとともに一般社団法人バイオサーキュラーエコノミー協議会を組織して、GX推進課に事務局を置いている。前田副課長兼室長は、清掃工場のCO2を活用する仕組みを全国や世界に広げていきたいと話す。

「ごみ処理場の統合や新設をめぐる立地の課題は、佐賀市だけでなく、全国の自治体の課題でもあります。その解決策として焼却場の排ガスからCO2を回収して活用するシステムを確立できたので、このシステムを全国に広げていければと考えています。また、アジアの国々を中心に、経済成長に伴ってごみ処理が埋め立てから焼却に変わる地域も増えていますので、世界にも広げていきたいですね」

日本は工業用やドライアイス用のCO2を海外から大量に輸入している。その一方で、佐賀市の清掃工場にはCO2を1日10トン回収できる能力があり、橋本農園への供給開始後も使用する量は1日1トン程度なので、CO2を供給する余力はまだ十分にある。前田副課長兼室長は、新たに液化CO2を販売することや、さらなる企業誘致も含めて、経済効果もまだまだ拡大していく考えだ。

「私たち役所は利益を追求する必要はありません。利害関係者をマッチングするのが仕事です。誰かが我慢をして環境価値を創出すると、必ず持続可能性は崩壊します。そうならないように、当たり前にごみが出て、当たり前に処理されて、そこから取り出したCO2が当たり前に農業に使われる社会を作っていきたい。誰も損はしませんし、ストレスもかかりません。その担い手として役所が利害関係者の間に立てば、環境と経済は両立できると考えています」

迷惑施設を市民や企業に歓迎される施設に変え、地球温暖化の原因で嫌われ者のCO2を地域資源に変えた佐賀市の取り組みは、これからも広がっていきそうだ。

「調査情報デジタル」編集部

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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