Apple、新しいiPod touchを発表 『Apple Arcade』普及のための布石か?

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2019年05月30日 07:21  リアルサウンド

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 AppleがMac以外の主力製品をラインナップするきっかけとなった製品が、久しぶりに新しくなる。もっとも、発表された新製品のアピールポイントを見ていくと、当初想定されていた利用法よりも“あの新サービス”に使われることを強く意識していることがわかる。


(参考:Appleの新サービスたちに勝算はあるのか? 競合多い『AppleTV+』などを改めて分析


■ゲームもできる音楽プレーヤー?
 Appleは28日、何の前触れもなく新しいiPod touchを発表した。前世代のiPod touchのリリースから実に4年ぶりである。周知のように、iPod touchはその前身となる携帯型音楽プレーヤーiPodにタッチスクリーンを実装したものである。この新製品の公式ページを見るとはじめに音楽が楽しめることが明記されているが、新製品のアピールポイントはむしろ音楽視聴以外の機能にあるようだ。


 同製品にはiPhone 7/7 Plusにも実装されているA10 Fusionチップが実装されているため、処理能力は前世代より最大で2倍、グラフィック能力は最大で3倍になった。こうした性能アップから恩恵を得るのは、音楽ではなくゲームだ。処理能力向上によりARゲームとARアプリにも対応している。なお、ディスプレイにはRetinaディスプレイを採用している。


 同製品は、Appleが3月に発表したゲームストリーミングサービスApple Arcadeにも対応している。上記のようなグラフィック性能を誇っているので、iPhoneと変わりなくこのサービスを利用できるだろう。


 同製品の価格は、Apple製品としてはお手頃な32GBモデルで¥21,800、128GBモデルで¥32,800、256GBモデルで¥43,800となっている。カラーはピンク、シルバー、スペースグレイ、ゴールド、ブルー、そして売上の一部が「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」に寄付される(PRODUCT)RED™が用意されている。


■もはやApple Arcade専用ゲーム機
 新しいiPod touchについて多数の海外メディアが報じているが、その多くが同製品を音楽プレーヤーとは見なしておらず携帯ゲーム機として評価している。テック系メディア『Techrader』は、A10 Fusionチップが実装された同製品をゲーム用に最適化されたものと評している。そのうえで、同製品の価格が実質的にApple Arcadeを利用するうえで支払うべき最低限のハードウェアへの投資額だろう、と述べている。


 テック系メディア『Digital Trends』は、同製品がARゲームに対応していることに着目している。言わば「iPhoneの下位互換」であるiPod touchに新しいチップを実装してARゲームにも対応させたのは、AppleがiPod touchという製品カテゴリーを同社が推進するAR普及戦略に参画させるためだろう、と同メディアは語っている。


 音楽メディア『LOUDWIRE』は、音楽ストリーミングサービスを利用するのであればiPhoneがあれば事足りるのに、果たしてユーザはさらに新しいiPod touchを購入するだろうか、と述べて新製品の需要について疑問を呈している。こうした疑問は、極めて的を射ている。確かにiPod touchという製品カテゴリーは、音楽プレーヤーとしてはもはや用なしかも知れない。しかしながら、新製品は携帯ゲーム機としての機能を強化したものである。それゆえ、音楽ファンの需要はないかも知れないが、ゲームファンのそれは見込めるのだ。


 同製品は、オフラインでもゲームプレイが可能というApple Arcadeの仕様と相性がよい。家庭のWi-Fi通信を使ってゲームをダウンロードしてしまえば、携帯通信網が使えない同製品であってもApple Arcadeのゲームがプレイできるというわけである。それゆえ、AndroidユーザがApple Arcadeを楽しむために同製品を買う、ということも想定できよう。


■ゲーム開発者を囲い込むApple
 以上の考察から、新しいiPod touchがApple Arcadeを普及させるための携帯ゲーム機という位置づけとなっているのは明らかであろう。そして、肝心のApple Arcade自体に関しては、Appleが並々ならぬ投資を行っていることがわかってきた。


 Apple製品専門ニュースメディア『9to5Mac』は13日、Appleがゲーム開発者に対してApple Arcadeにゲームを提供するように呼び掛けるメールを送信していたことを報じた。そのメールには、すでに「世界で最も革新的なゲーム開発者の何人か」と密接な協力関係を築いていると述べてうえで、未発表のゲームに取り組んでいてApple Arcadeでの配信に興味があるのならばぜひ話を聞かせてほしい、と訴えている。このメールの内容から未発表のゲームをApple Arcadeの独占コンテンツとして配信して、同サービスのブランド力を高めたいという同社の思惑が読み取れる。


 また、同メディアが先月公開した記事では、同社がApple Arcadeに投じた投資額が報じられた。その記事によると、同社はすでに100を超えるゲームにそれぞれ数百万ドル(約数億円)の投資を行っており、同サービスの立ち上げ予算は5億ドル(約550億円)を超えているというのだ。


 新しいiPod touchの仕様とApple Arcadeへの投資を考え合わせると、Appleが同サービスの成功を最優先事項としていることがうかがえる。来週には、同社主催の開発者会議WWDC19が開催される。このイベントにおいて、同サービスのさらなる詳細がわかるかも知れない。


(吉本幸記)


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