井口昇総監督の紙芝居アニメ『世界の闇図鑑』(テレビ東京ほか)。6月25日は2話連続放送。第12話「海底に蠢く赤い目」、そして最終回の第13話「霧につつまれた樹木」と、それぞれ全く方向性が違いつつも、どちらも味わい深い「闇」を感じさせる物語だった。まずは第12話から紹介しよう。
とある浜辺。新婚のダニエルとアリソンは休暇を楽しんでいた。
アリソン「素敵ね! 連れてきてくれてありがとう」
ダニエル「どういたしまして。それじゃ慣れたスポットに潜ろうか……」
アリソンがふと目を離した隙に、ダニエルは忽然と姿を消した。
アリソン「ダニエル、どこなの? ダニエル!」
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崖の上の奇妙な建物から、謎の男が彼女を見下ろしていた。男は気絶したダニエルを抱えていた!
謎の男「ふふふふ、旅行者め。こんな辺鄙なところに来たお前が悪いのだぞ。
行方不明になったとしても誰も疑うまい!」
その施設で行われていた恐ろしいい実験。それは誰の目にも触れることなく、ひっそりと行われていた。
謎の男は謎の液体が入った注射を、ダニエルの身体に突き刺した!
謎の男 「よし、これでお前も仲間だ!」
ダニエル「うわー!」
その時、アリソンはダニエルの声を聞いた。声は崖の上の建物から聞こえている。
一方、目を覚ましたダニエルは謎の男を突き飛ばした!
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ダニエル「何をしたんだ!?」
謎の男 「大人しくしろ……お前にとっては喜ばしいことだ。
人間の知力と魚の泳力を併せ持ち、陸と海を問わず生命活動を行う。それが地球のためだ。
お前たち『ヒューマンフィッシュ』がその先駆けとなるのだ!」
男の背後から魚とも人間ともつかない、真っ赤な目をした怪物が次々に現れた。
ダニエルは窓を突き破り、一目散に研究所を飛び出した。
浜辺で途方に暮れているアリソンの前に辿り着くダニエル。
アリソン「ダニエル! どこに行ってたの!」
ダニエル「逃げよう、奴らが来……あああああ!」
アリソン「ダ、ダニエル!?」
ダニエルの体にみるみる鱗ができ始めた!
何匹ものヒューマンフィッシュが現れ、彼女に襲いかかった!
その様子を建物――研究所から見下ろしていた謎の男は、邪悪な笑い声を上げるのだった。
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人間をさらって「ヒューマンフィッシュ」を作る科学者。それはまさに悪魔の所業である――おしまい。
いわゆる「マッドサイエンティストもの」と呼ばれるお話である。「半魚人を作ることのどこか『地球のため』なのか?」「一人でちまちま全人類を半魚人にするつもりなのか?」とツッコミどころを挙げればキリがないが、まあ「頭がおかしかった」ってことでしょうな、「マッド」サイエンティストだけに……。
イラストは本田淳。どうかというくらい古臭い、昔の外国の挿絵のような絵柄が古臭いお話と見事にマッチしている。セピア調に統一しつつ、ヒューマンフィッシュの目だけが赤いカラーリングもナイス仕事だ!
往年の海外怪奇ドラマを彷彿とさせる第12話。だが続けて放送された第13話「霧につつまれた樹木」はビックリするほと方向性が異なる内容であった。こんな話である。
とある国のとある森。帰宅しているエミリーの行き先を霧が覆い始めた。
エミリー「どうしよう、道の先が見えないわ……」
ふと振り返ると、大きな樹の下に3人の青年が佇んでいた。
青年たち「困ってるのか? だったら引き返せばいいじゃないか」
エミリー「そうもいかないわ。おばあさんが待っているし、学校の宿題もあるし」
青年たち「でもあの霧の中には魔物が住んでいるよ。止めた方がいいよ」
エミリー「そんなこと言われても帰ります。怒られますから」
エミリーは少年たちを退け、先を急いだ。
見ているとすぐに分かるが、エミリーの外見、そして森の中にいるシチュエーションは「赤ずきんちゃん」ソックリ。視聴者がそう思うよう、露骨に似せて描かれているのだ。何故? どういうこと? 内容に戻ろう。
やがて濃い霧に包まれるエミリー。遠くから何かが接近して来る……
それはエミリーの祖母に似た影だった。
影「エミリー! エミリー!」
エミリーの頭に祖母との日々が思い浮かんだ。
何かあるとすぐ激怒し、孫を鞭打つ残忍な祖母。母親を亡くして以来エミリーをいじめている祖母。
そんな祖母そっくりの影が、怪物のように迫って来る!
エミリー「おばあさま、許して!」
泣き叫びながら逃げるエミリー。しかし今度はたくさんの影がエミリーを待ち伏せていた。
その影は親のいないエミリーを毎日のようにからかう、生徒や教師に似ていた。
エミリー「どうして霧の中にみんながいるの?」
愕然とするエミリーを、影が飲み込もうとしたその時!
青年たち「危ない!」
3人の青年たちが、霧の中からエミリーを引きずり出した。すんでのところで助かった彼女に、青年たちは語りかける。
青年たち「この霧の中では自分が恐れているものが影となって現れるんだ。そして魂を奪う。
僕たちは君の魂を救いに来たんだ。ほら、お母さんも待っているよ」
青年たちに連れられたエミリーが見たものは、優しく微笑む、死んだはずの母親の姿だった。
母親 「エミリー!」
エミリー「お母さん!」
涙を流して走り寄るエミリーを、母親は優しく抱き止めた。青年たちは2人に寄り添うと、
青年たち「よかった、これで君の魂は守れる……肉体はいただきますけどね……」
パキパキパキ、と奇妙な音とともに、エミリーの体は樹木へと変化していった。
霧が晴れた。そこにはエミリーと母親、そして青年たちの顔のような隆起がある、大きな木があった。
この地域では霧が晴れた直後にしか見えない、奇妙な樹木があるという。人面に似た幹の数は年々増えているらしい――おしまい
実はエミリーは辛く悲しい日々を過ごす薄幸な少女で、前半の赤ずきんソックリな演出はいわばミスディレクション。まさかそんな気の毒な子だったとは! と視聴者を驚かせる仕掛けだったわけだ。霧と青年たちの関係や、青年たちが「少女の魂を守りつつ肉体を奪う理由」は分からないものの、全体としては悲しくも美しいダーク・ファンタジー色の濃い内容となっている。最後の最後にこの路線で来ましたか! おまけに「森」が舞台なのは第1話と一緒。キレイに閉じている! お見事です!
UFO、UMA、怪現象。未来SF、秘境探検、古代文明。古きよき題材で「恐怖」「闇」を描いた『世界の闇図鑑』もこれで完結である。紙芝居の枠に収まらない様々な趣向も楽しく、童心に返ってハラハラしたり慄いたりと大満足。願わくばシーズン2、3とバンバン続けていただきたいです、井口総監督!
(文/JUP-ON STUDIO)
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