大阪・関西万博の見どころは、世界中の国々や地域、また日本が力を入れる文化や技術をアピールしたパビリオンやイベントなのは確かだ。だが、それに加えて万博会場は広大な実証実験の場「未来社会ショーケース」として、最先端のモビリティやロボットなどを来場者が実際に体験できる場にもなっている。
この記事では、万博会場やその外で見かけたモビリティやロボットを紹介していこう。
●広大な会場移動を支援する電動カート「e-SNEAKER」とEVバス「emmoved」
大阪・関西万博の中に入っていこう。ここからは4月のオープン前のメディアデーで見られた「空飛ぶクルマ」や、会場内で実証実験や体験が行われている、他のモビリティについて紹介していく。
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会場に入ってまず見かけるのが、電動カート型のパーソナルモビリティだ。東と西ゲートにて、ダイハツ工業の「e-SNEAKER」150台を高齢者や長距離の歩行が困難な方に対して優先的に貸し出している。速度は徒歩とほぼ同じ時速4キロで、場内の大半のエリアを歩車混合交通システムとして自由に移動できる。会場内では、12カ所用意された駐機場を利用可能だ。ミリ波による障害物検知機能を搭載し、障害物に近づくと自動的に減速する機能も備える。
万博会場は約159ha(ヘクタール)とかなり広く、歩ける範囲は関東で例えると新宿駅から東京都庁や新宿公園までの西新宿一帯、テーマパークに例えるとディズニーランドとディズニーシーを合わせた面積に相当する。足腰に不安のある高齢者にとっては、こういったモビリティがないと回るのは難しいだろう。若い人も、クッション性の高いランニングシューズなど長距離を歩く準備をした上で訪れることをおすすめする。
より多くの人を運ぶのが、万博会場内・外周バス「eMover」だ。こちらは会場の外周を1周するように運航するもので、価格は1回400円または1日乗り放題1000円だ。この中には、走行中のワイヤレス給電に対応したEVバスに加えて、数は少ないがレベル4相当の自動運転に対応したEVバスも混じって走行している。自動運転バスに乗車したい場合は、「リング西ターミナル」もしくは、「西ゲート北ターミナル」の係員を通して乗車予約できる。
レベル4相当の自動運転バスは、会場外でも走行している。万博へ車で向かう場合に必要な舞洲P&R駐車場を予約した場合、大阪メトロの「舞洲P&R駐車場〜夢洲第1交通ターミナル(万博会場西ゲート)」の自動運転バスに乗車できる。
この他にも、事前予約制の万博行きシャトルバスのうち、阪急高速バス「新大阪駅万博シャトルバス」、京阪バス「大阪駅(マルビル)万博シャトルバス」「京阪中之島駅万博シャトルバス」の一部でも自動運転バスに乗車できる。いずれもレベル4相当の自動運転は一部区間のみになるが、乗車したいならこれらの予約を狙うのも手だ。
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●「空飛ぶクルマ」が試験飛行、本命のJobyやSKYDRIVEは7月以降を予定
万博会場の西端には、「空飛ぶクルマ」の飛行を行う「モビリティエクスペリエンス」がある。ここには会場内ポートEXPO Vertiportがあり、会期中に4種類の機体が特定の期間に試験飛行を行う予定だ。
以下の動画は、SkyDriveが万博オープン前のメディアデーで公開した遠隔操作による、「SKYDRIVE(SD-05)」のポート内エキシビション飛行の模様だ。SkyDriveは7〜8月に万博と大阪港 中央突堤間の二地点間飛行または周回飛行を予定している。騒音は常識的な範囲に抑えられていた。輸送性能が異なるとはいえ、ヘリコプターは離島交通などで乗るものでも近くにいられないほどの爆音がするだけに大きな違いだ。
会期中に飛行する機体のうち、航空機の安全基準を審査する米FAAや日本の国土交通省の型式証明を取得し、航空機としての商業化を目指す機体は3モデルだ。
飛行を見られる期間は、ANAホールディングスとトヨタも出資する米Joby Aviationによる「Joby S4」は9月下旬から10月、日本の大手企業や日本政策投資銀行(DBJ)が出資しスズキが資本業務提携を行うSkyDriveの「SKYDRIVE(SD-05)」は7月中旬から8月下旬、丸紅による英Vertical Aerospace「VA1-100」は10月を予定している。住友商事と日本航空のJVであるSoracleは、米Archer Aviation「M001」の展示を検討している。
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7月までは、丸紅による米国ではウルトラライトプレーンと呼ばれる規制の少ないスカイレジャー向けの小型機、米LIFT Aircraft「HEXA」のポート内飛行を6月上旬、7月中旬に行う予定だが、4月26日に飛行中の一部破損があったため飛行を見合わせており、現在も再開時期は未定だ。
なお、飛行がない日程でも「空飛ぶクルマ ステーション」パビリオンで機体のフルスケールモックや映像を楽しめる。
空飛ぶクルマは、正確な表現をするとeVTOL(電動垂直離着陸機)やエアモビリティと呼ばれる航空機だ。特徴は電動化、垂直離着陸、安全性の確保、都市部で飛行しやすい静音性、操縦のしやすさや将来的な操縦者不要の自律運航の実現などだ。ビジネスモデルとしては空飛ぶタクシーや各種輸送、プライベート機としての期待を寄せられている。
なぜ日本でeVTOL機を「空飛ぶクルマ」と呼ぶのかだが、理由はいくつかある。認知度やビジネスの面では、2016年に米ウーバーが空のライドシェア「Uber AIR」と呼ぶエアタクシー事業の発表が大きかったといえる。
日本ではこの動きと前後して、トヨタグループがSkyDrive設立につながるCARTIVATOR(現Dream On)への関わりや支援を行った他、トヨタ自動車として「空飛ぶタクシー」を念頭に米Joby Aviationに出資し開発を進めている(Uver AIRも承継した)。
航空機の特徴という面では、都市部でも発着陸しやすい静音性や、将来的な自律飛行を視野に入れたより簡便な操縦方法など最新の車と共通する点が多い。
日本では、eVTOLの国や社会の受容を進める際に、シニア世代が1970年大阪万博の頃に未来技術として抱いた「未来の空飛ぶ車」のイメージが説明に適していたという背景もある。
「ドローン(マルチコプター)を大型化しただけ」という意見もある。もちろん求められる安全性能は大きく異なるが、ドローンの特徴でもある自動運転・自律運転を実現するための高度な制御や運用の自動化といった側面では正しい。例えば、SkyDriveは運搬・物流の大型ドローンも手掛けており、SKYDRIVE(SD-05)の開発で得られる技術やバリューエンジニアリングは空飛ぶクルマだけでなく、物流ドローンの社会実装や災害対策にもつながる。
一方で、Jovy S4やVA1-100など航続距離100キロ以上で都市近郊の移動を実現する機体は、効率よく長い距離を飛行するために電動制御に加えて、航空機のような固定翼、ヘリコプターのような可変ピッチのローター、上昇と推進を切り替える可変ティルトローターなどさまざまな技術を組み合わせた新しい航空機として設計されている。
2030年代の実用化を目指す第2世代では、バッテリー駆動に加えて燃料電池やガスタービンを備えた電動ハイブリッド車のような構造により航続距離500キロに近い都市間移動を目指している。この第2世代では、小型ビジネスジェット機「Honda Jet」で機体とエンジン両方の開発と認証ノウハウを持つホンダも「Honda eVTOL」の開発を発表している。
●万博会場モビリティ・ロボットの実験場、各所で触れる機体をチェック
ここからは、プレスデーの万博会場で見られたモビリティやロボットの一部を紹介していこう。会場内では東側の「ロボットエクスペリエンス」の施設でさまざまな機体を見られ、会場内を歩いているだけでも実証実験中のさまざまな機体を目にする。
●座ったまま体重移動するだけで移動できる、ホンダ「UNI-ONE」
ホンダ「UNI-ONE」は、座ったまま体重移動で全方位に移動できるハンズフリーパーソナルモビリティだ。万博の開催期間中は、会場西端にある「フューチャーライフヴィレッジ」の前で土日を含む週5日間、または会場東側の「ロボットエクスペリエンス」にて平日のうち2日間というスケジュールで乗車を体験できる。
実際の乗車感だが、着座してボタンを押すと高い目線のハイポジションモードへ切り替わり、身体の重心を動かすだけで思った方向へと走行できた。バイクなどで身体の重心移動に慣れている人なら、身体をさほど傾けなくても動かせる。今は足腰が丈夫な人も、将来歩行が難しくなったときはこういったコンパクトかつデザイン性の高いモビリティを使いたいと思わせてくれる。また、テーマパークなどのエンターテインメントにも活用できそうな印象を持った。
なお、UNI-ONEは移動用小型車の型式認定を取得しており、公道(歩道)の移動が可能だ。万博で試乗できるものは新型になるが、こちらも型式認定の取得を進めている。仕様上は時速6キロ、航続時間は3時間(航続距離10キロ相当)となる。現在は有償試験導入として、商業施設やオフィス、医療機関などで利用されているとのことだ。
●大屋根リングを走る! 三菱電機「自律走行ごみ箱ロボット」
約2キロの大屋根リングでは、日にもよるが巡回して来場者のごみを集める三菱電機の「自律走行ごみ箱ロボット」を見かけることがある。高精度3次元地図、準天頂衛星みちびきのセンチメータ級測位補強サービスCLAS、その他LiDARなど各種センサーを活用して動作しており、ごみを集めると自動的に所定の位置へと運ぶ仕組みだ。
これらは万博会場で見られたモビリティやロボットのごく一部だ。実用的なシステムだけでなく、エンターテインメントで活用されているものもある。
会期中には万博を実証実験場として、さらにさまざまなモビリティやロボットが追加され見かけることになるだろう。中には自然と会場に溶け込んでいるものもあるので、じっくり見て回ることをおすすめしたい。
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