なぜ今? セブン&アイ買収提案、外資大手クシュタールの狙いとは

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2024年09月11日 06:51  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

提供:ゲッティイメージズ

 セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)がカナダの小売大手アリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール)から買収提案を受けたというニュースは、日本のビジネス界に大きな波紋を広げている。


【画像】セブン&アイが報道を受けて出したプレスリリース


 この提案はなぜ“今”行われたのか、またその背後にはどのような戦略があるのか。理解するためには、両社の事業戦略と市場状況を詳しく見ていく必要がある。


●カナダの小売大手、クシュタールの狙い


 セブン&アイは、日本を代表するコンビニエンスストアチェーン「セブン-イレブン」を運営する企業で、国内外に膨大な店舗ネットワークを持つ。日本国内に約2万店舗を展開し、その店舗数と売上高は業界内で圧倒的な存在感を示している。さらに、セブン&アイはコンビニ事業に加え、スーパーや百貨店、金融サービスなど多岐にわたる事業を展開しており、その総合力が業界での競争優位性を強化している。


 一方、クシュタールはカナダを拠点に世界中でコンビニエンスストアを展開する多国籍企業で、特に北米やヨーロッパで積極的なM&A戦略を進め、その規模を急速に拡大してきた。クシュタールの主力ブランドである「サークルK」や「エクスプレス」は、セブン-イレブンと競合関係にある。


 このような中でクシュタールがセブン&アイに買収提案を行った背景には、セブン-イレブンの圧倒的なブランド力とグローバルな影響力を取り込み、さらなる市場支配力を強化しようとする戦略があると考えられる。


●セブンを買うと米国とタイも手に入る?


 クシュタールがセブン&アイを買収することで、特に注目すべきはタイと米国市場の獲得だ。セブン-イレブンは、日本国内だけでなく、タイや米国でも強力なブランド力を持ち、それぞれの市場で圧倒的な存在感を示している。


 タイでは全国に約1万3000店舗を展開しており、同国のコンビニエンスストア市場のリーダーとして君臨している。タイ市場を手に入れることは、東南アジア全域への影響力を強化する大きな一歩となる。


 さらに、米国市場においても、セブン-イレブンは約9000店舗を展開し、北米最大のコンビニチェーンの一つとして地位を確立している。クシュタールがこの市場を手に入れることで、北米における市場支配力が飛躍的に高まることが予想される。


 特に、米国市場での事業拡大は、クシュタールが北米全体での成長戦略を加速させるための重要な要素となるだろう。これにより、クシュタールはタイと米国という二大市場での優位性を確立し、グローバルな競争力を大幅に強化することが可能となる。


●国内コンビニ業界の再編とクシュタールの選択


 コンビニ業界にとって、アジア市場は依然として成長の余地が大きい。クシュタールにとってこの地域での存在感の向上は重要な課題である。セブン&アイの買収が実現すれば、アジア市場での競争優位性を飛躍的に高められるだろう。


 一方で、国内のコンビニ業界も足元で再編が進んでおり、これが今回の買収提案の背景にある可能性も否定できない。実際、セブン&アイ以外の主要コンビニチェーンであるローソンやファミリーマートは、すでに上場廃止を決定している。例えば、2020年には伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化し、2024年にはKDDIと三菱商事が共同でローソンをTOB(株式公開買い付け)で買収したことが記憶に新しい。


 ローソンやファミリーマートはいずれも商社系のコンビニブランドであり、上場廃止により特定の企業グループ内での独立性と安定性を保ち、外部からの敵対的買収リスクを大幅に軽減している。これにより、経営の自由度が高まり、株主の短期的な要求から解放され、より長期的な視点で成長戦略を描くことが可能となった。


 こうした状況下でクシュタールが日本市場への進出を考える際、同社にとって実質的な選択肢はセブン-イレブンしかなかった。ミニストップやポプラなど他の上場コンビニチェーンも存在するが、ミニストップの時価総額は500億円程度しかなく、ポプラの時価総額は26億円とさらに小さい。このため、クシュタールにセブン-イレブンの規模と影響力は、他の選択肢に比べて圧倒的に魅力的に映ったことだろう。


●関係省庁の対応は


 クシュタールによるセブン&アイの買収提案は、日本市場においても大きな影響を及ぼす可能性がある。SNSなどでは、クシュタールによる買収提案に対して、不安や懸念を抱く声も少なくない。


 特に、日本政府や規制当局の対応が今後の焦点となるだろう。日本政府は、外資による国内の重要企業の買収に対して一定の規制を設けており、特に経済安全保障や国民生活の安定という観点から、国内市場の安定性を維持するための措置を取ることがある。


 セブン&アイが外資に買収される場合、政府がどのように対応するかは、対内直接投資管理制度に基づいて慎重に判断されるだろう。クシュタールが買収を完了した場合、事後報告が求められる可能性が高く、その後、財務省や経産省などの関係省庁が問題を発見した場合、株式売却命令などの措置が取られることも考えられる。


 セブン&アイの経営陣はこの提案にどのように対応するのか。同社は日本国内で強固なブランド力を持ち、経営基盤も安定しているが、国内市場の成長が鈍化する中で、グローバルな展開を進める必要性が高まっている。企業価値の最大化のため、買収提案に応じる可能性はあると見て良いだろう。企業価値を最大化するための選択とその根拠について、株主や従業員、消費者に対して透明性のある説明を行うことが求められる。


●ダブルスタンダードと国際競争力


 興味深いのは、日本企業が海外企業を買収する際には、国際的な競争力の強化や成長市場への参入といった正当な理由が強調され、国内での反対意見は比較的少ない点である。


 例えば、日本製鉄がUSスチールの買収を検討する場合、これは国際的な地位を高めるための戦略として評価されるだろう。しかし、今回のように外国企業が日本の象徴的な企業を買収しようとすると、経済主権の侵害や国内産業の衰退を懸念する声が高まる。このダブルスタンダードは、国際的な視点を欠いた内向きな思考の表れとも言える。


 日本企業が海外で成功を収めることが奨励されるのであれば、同様に外国企業が日本市場に参入し、日本の企業や産業を活性化させる機会も歓迎すべきだろう。今回のセブン&アイに対するクシュタールの買収提案は、日本企業に対する国際的な評価が高まっている証拠でもある。これをポジティブに捉えることで、日本企業が国際市場で魅力的であることを示す機会とするべきだ。


 また、セブン&アイはこの買収提案に対して、単に受け入れるか拒否するかという選択肢だけでなく、他の戦略的なオプションも検討する必要がある。


 例えば、買収提案に対抗する形で、他の外資系企業や国内企業との提携、さらには自社によるM&Aを進めることで、企業価値を向上させる道も考えられる。特に、株主の動向を注視しながら、経営陣がどのようなアクションを取るかは、今後の会社の命運を大きく左右することになるだろう。


 買収提案を拒否するにしても、セブン&アイは株主に対してクシュタールに売却することで得られる値上がり益を放棄してもなお現状維持の判断が好ましかったと業績で応えていくことが求められる。


 つまり今回の買収提案は、成立するか否かにかかわらずセブン&アイにとって重要な局面であることに違いない。今後の展開に注目が集まる。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら



このニュースに関するつぶやき

  • 今の消費者ナメまくったクソセブンが変わるならいいけど、…海外コンビニはセブン以下なんだよね
    • イイネ!3
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