ファミマが“衣料品専門店”を初出店 コンビニの他業種進出で小売はどう変わる?

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2025年09月18日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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ファミマ、衣料品専門店をオープン

 9月1日、東京・浜松町に誕生した「ブルーフロント芝浦」。野村不動産による大型開発で、オフィスビルと商業施設が入居する。その商業施設内に、ファミリーマート(以下、ファミマ)の衣料品専門店がオープンした。


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 ファミマは近年衣料品の開発・販売に力を入れており、この店舗が初めての専門店となる。


 なぜ、ファミマは衣料品に注力するのか。本稿では、実際に現地を訪れ、考察した結果を紹介したい。


●ファミマの衣料品の「ショールーム」


 ブルーフロント芝浦は、オフィス・商業施設・ホテルが入る複合施設だ。浜松町駅から徒歩でアクセスでき、駅前から続くアーケードを抜けると、立派な建物が目に飛び込んでくる。


 ファミマの衣料品専門店が入居するのは、このビルの3階だ。オフィスフロアとの兼ね合いから、日曜と祝日は休業となっている。同じフロアには通常のファミマと、この衣料品専門店が並んで入居している。


 ファミマの衣料品専門店は広々とした空間が印象的で、店内には複数の棚が置かれている。靴下やシャツ、ハンカチなど、アイテムごとに棚が分けられており、売り場の密度は低い。その様子は、まるでファミマの衣料品を展示するショールームのようだ。


 もちろん、商品の購入は可能だ。売り場には無人レジがぽつんと置かれており、そこを通して決済する仕組みとなっている。


 これにより、無人での店舗展開が可能となり、コストを抑えながら衣料品を宣伝できるメリットがある。


●ファミマの衣料品専門店の背景にある、コンビニ市場の課題


 ファミマはなぜ、衣料品分野に注力するのだろうか。


 この背景には、「コンビニ市場の飽和」があると、筆者は考えている。全国のコンビニ店舗数は、2010年代後半にピークを迎えて以降、ほぼ横ばいだ。出店拡大で成長してきたコンビニ業界にとっては、成長にブレーキがかかった時期といえる。


 流通アナリストの中井彰人氏によると、このような飽和市場において、コンビニが次に狙うべきニーズは2つある。1つは商圏を細分化し、出店余地を生み出すこと。もう1つは新たな需要を取り込むことだ。


 「商圏を細分化し、出店余地を生み出すこと」の例としては、これまで流通の問題から出店が難しかった過疎地域や農村部などにも進出することが挙げられる。また、オフィスビル内に小型店舗を設けるといった形も考えられる。


 「新たな需要を取り込むこと」とは、これまでコンビニをあまり利用してこなかった層にも利用してもらうことだ。中井氏によれば、これまでの市場拡大は出店数の増加に依存してきた。しかし、出店余地が少なくなった現在は、新たな利用者を取り込むことで1店舗当たりの売り上げを伸ばす戦略が必要となる。


 ファミマの衣料品販売拡大は、この新たな需要取り込みの典型例といえるだろう。大手アパレルなどで衣料品を買っていた人々に対して、コンビニでもデザイン性や機能性に優れた衣料品が買えることを示し、アパレル市場でシェアを獲得しようとしているのである。


●進む「コンビニの他業種化」


 ファミマのアパレル専門店が示すように、最近のコンビニ業界は、特に「新規顧客の取り込み」に力を入れているように見える。


 それに伴って起こっているのが、「コンビニの他業種化」である。


 ファミマの衣料品販売への進出は、「コンビニのアパレル化」とも呼べるだろう。


 ファミマで最初にアパレル販売を本格化させた前社長・澤田貴司氏は、ユニクロを運営するファーストリテイリングで副社長を務めた人物だ。


 今回の衣料品専門店の展開は、従来はコンビニの一部だった取り組みが、「ユニクロ」や「しまむら」と競合する段階に入ったことを示している。昨年には、ファミマ店舗のイートインスペースを衣料品売り場に改装する計画も発表され、「アパレル化」が着実に進行している。


 他社も同様の動きを見せている。


 セブン-イレブンも、さまざまな取り組みを行っている。中でも目立つのが、食品分野での挑戦だ。店内調理のカレーパンやドーナツに加え、昨年からはスムージーの販売も始めた。現在は、店内調理のパンと紅茶の販売にも注力している。


 また、オンラインアプリ「7NOW」を活用した宅配ピザの開始も記憶に新しい。さまざまな食品がそろう様子は、「コンビニのフードコート化」と呼べるだろう。


 セブン-イレブンとは別業態の「SIPストア」という、スーパーとコンビニの中間のような店舗形態の展開も進めている。これは「コンビニのスーパー化」といえる取り組みだ。


 中井氏は、スーパーの市場を取り込むことで、40兆〜60兆円ともいわれる中食市場を獲得できる可能性があると述べており、コンビニの次なる一手としては極めて有力だ。


●“街”化するローソン


 「スーパー化」でまず思い浮かぶのはローソンだ。


 ローソンは「まちかど厨房」と銘打ち、多くの店舗に店内厨房を設けて、作りたての弁当や総菜を販売している。


 さらに、無印良品とコラボすることで、雑貨の販売にも注力している。ローソンなのに無印良品に来たと錯覚するほど、大きな無印良品のコーナーが設けられている店舗が多い。


 つまり、ローソンに行けば作りたての弁当が買えることに加え、無印良品の雑貨やアパレルも購入できる。これもまた「コンビニのスーパー化」の一例といえる。


 ローソンはこうした取り組みに加え、一部の店舗で「LAWSONマチの本屋さん」として、通常店舗に書店を併設する試みも進めている。さらに、クオール薬局などの調剤薬局を併設する店舗や、小型のUFOキャッチャーを置く店舗なども存在する。つまり、ローソンの「書店化」「薬局化」「ゲームセンター化」が着実に進んでいるのである。


 こうした流れが加速すれば、ローソンの中で総菜が買え、薬局や本屋もあり、ゲームも楽しめるようになる可能性もある。そうなれば、いよいよ「コンビニのショッピングモール化」だ。モールは一種の街だから、「コンビニの”街”化」といってもいいかもしれない。


 このように、既存の店舗形態が飽和したコンビニ市場において、各社が次なる一手を模索している。その結果、従来は自明とされてきた「業態」の枠が、軽々と越えられ始めている。


●業態の越境はますます進む?


 コンビニがさまざまな業態のシェアを取り込むことができたのは、「便利さ」を軸にした業態だからだ。


 一方で、筆者はこのような業態の垣根を超えた店舗展開が、今後さまざまな業界で広がっていくと考えている。


 社会学者のジクムント・バウマンは、現代社会が「リキッド・モダニティ」の時代だとした。「リキッド」とは「液体」のことであり、バウマンはグローバリズムや情報化が進むにつれ、これまでの共同体や秩序などが解体され、社会の流動性が高まると述べている。商業に当てはめて考えると、これまで自明のものとされていた業態意識がなくなり、さまざまな業界がシームレスにつながることを示している。


 こうした動きは、すでにコンビニ業界以外でも起こっている。例えば、イオングループが運営する「まいばすけっと」は、「コンビニ化」とも呼べる動きをみせている。


 まいばすけっとは関東近郊で爆発的に増えており、従来のスーパーよりは小さく、コンビニに近いサイズだ。一方で、扱う商品は生鮮食品などが多く、スーパーに近い。都内ではコンビニと変わらぬ頻度で目にするほどの店舗数で、その地位を脅かすまでになっている。


 また、西友を買収したことで有名になった「トライアル」は、「トライアルGO」というコンビニ型店舗の出店も広げていく予定である。


 あらゆる業態の境界線がなくなり、シームレスになりつつある現在。ファミマの衣料品専門店は、現代の商業のあり方を象徴する代表例といえるかもしれない。


(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)



このニュースに関するつぶやき

  • なぜイトーヨーカ堂がユニクロやワークマンに負けたのか、伊藤忠は理解していないのか?確かに、得意分野で勝負したい気持ちはわかるがコンビニで洋服を売るのはどうかと思う。
    • イイネ!1
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