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シャトレーゼの不祥事が相次いで発覚している。3月には下請法に違反したとして公正取引委員会が再発防止などを求める勧告を出した。下請け業者から仕入れるはずの商品を一部受け取らず、未払いのまま保管させたためだ。
5月には出入国在留管理庁が改善命令を出した。外国人労働者に対して会社都合で休業させたにもかかわらず、給与や手当を支払っていなかったという。同じ5月には、2年前に違法な時間外労働をさせたという労働基準法違反の疑いで、甲府労働基準監督署がシャトレーゼと社員2人を書類送検した。
むろん、こうした弱者への圧力は言語道断だが、不二家の閉店が続くなどスイーツ業界が苦戦しているにもかかわらず、シャトレーゼはこれまで店舗数を増やしてきた。国内外で1000店舗を超える一大チェーンを築き、逆風下で成長したシャトレーゼの強みを分析してみよう。
●この10年で大幅に成長したシャトレーゼ
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シャトレーゼは1954年に創業した和菓子店がルーツだ。当初は山梨・長野を中心にチェーン展開を図った。1960年代にアイスやシュークリームなどを発売し、その後フランチャイズによる洋菓子専門店を展開し始めた。問屋を介さずに工場から直送する店舗は1985年に開店した。コンビニと同じこの仕組みは、現在のシャトレーゼの主軸となっている。
2000年代から成長が著しくなり、コロナ禍でも勢いは止まらず、2025年3月期の連結売上は1613億円となった。店舗数もこの10年で激増し、国内では2015年度末の461から、この6月時点で870になった。
国内店舗は大半がフランチャイズであり、オーナーの多くは2〜3店舗を運営している。ロイヤリティはゼロで、工場からの卸売が本部の収入となる。海外では6月時点で7カ国に183店舗を展開する。
シャトレーゼが好調の一方、競合は苦戦してきた。例えば不二家は10年ほどで店舗数が100ほど減少している。減少幅は小さいように見えるが、従来の路面店から食品スーパーの中に出店する形への切り替えを進めており、路面店は半減した。
●「街の洋菓子店」が追いやられた原因とは?
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不二家だけでなく、街の洋菓子店は減少し続けている。NTTタウンページによると、タウンページデータベースへの洋菓子店の登録件数は、2013年の1万4206店舗から2022年には1万658店舗に減少した。スイーツ市場自体はコロナ禍からの回復と物価高で近年は数字上の見た目こそ上昇しているが、個人経営店や不二家の閉店が相次いでいるように、多くの路面店が苦戦を強いられている。
また、洋菓子店はもはや消費者にとってスイーツを買う主な場所ではなくなった。矢野経済研究所によると、2023年度におけるスイーツ市場のうち、専門店が占めるのは約6%に過ぎず、スーパーなどの量販店が約36%、コンビニが約19%を占める。
特にコンビニ業界ではローソンが2009年に「プレミアムロールケーキ」をヒットさせて以降、洋菓子を強化するようになり「コンビニスイーツ」というジャンルが生まれた。量販店やコンビニの台頭を前に、街の洋菓子店は淘汰されたと考えられる。都内にあるケーキ店主は次のように語る。
「消費者は専門店から、手軽に買えるスーパーやコンビニに流れていると思います。1個800円以上するケーキなど、高価格の商品や祝い用の商品で差別化した店舗は生き残っていますが、量販店と同じ品質のケーキ店は苦戦しています」
●価格だけではないシャトレーゼの強みとは?
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とはいえ、成長著しいシャトレーゼは高価格帯路線ではない。むしろ低価格を実現し、消費者をひきつけてきた。
同社が提供するケーキの多くは300〜500円程度であり、競合である不二家やコージーコーナーよりも低価格である。消費者からも「財布にやさしい」など価格面を評価する意見が多い。量販店やコンビニと同じ価格帯ながらも、専門店らしい品質のケーキを提供しており、コストパフォーマンスの高いスイーツ店と捉えられているようだ。
シャトレーゼは全国に14工場を構え、各店舗への配送網を整備している。また、工場近辺の契約農家から食材を仕入れて製造する体制を築き上げた。一部の仕入れや店舗への配送で問屋を介さないシステムを確立し、低コスト化を実現したのが大きな強みだ。しかし、過度に低コスト化を求める姿勢が冒頭で取り上げた法律違反をもたらしたことも否めないだろう。
シャトレーゼの好調には「立地」も関係している。個人店や不二家など街の洋菓子店の多くは、駅前や商店街に出店している。駐車場がない店舗も多い。このような立地はコンビニやスーパーも多い場所でもあり、競合の脅威にさらされやすい。
対するシャトレーゼは全国のロードサイドが中心であり、駐車場を併設している店舗が多い。ロードサイドは賃料が安い上に、「目的買い」の客が中心だ。駅前の、いわゆる衝動買い客は競合に流れる可能性もあるが、車でシャトレーゼに来る客は最初から「シャトレーゼに行きたい」と思いながら来店している。
●都心型店舗や海外では苦戦
ロードサイドを攻めてきたシャトレーゼは、2019年に都心型の新業態店として「YATSUDOKI」を開業した。都内では経堂や自由が丘駅付近の商店街に店を構える。
プレミアム店という位置付けで、シャトレーゼと同じく安い商品も提供しているが、ケーキは1個当たり500円以上のものも多い。こうした点もあってか、店舗展開はうまくいっていないようだ。
2024年時点で20店舗以上あったが、現在は10店舗台に減少している。街の洋菓子店が淘汰されたのと同じような理由で、苦戦していると思われる。
海外の店舗数もこの2年ほどでほとんど増えていない。期待できるのは、2022年に初の現地工場を設立し、2026年に同工場の9倍規模となる新工場を設置する予定のインドネシアだろうか。海外で日本と同じ仕組みを構築できるか、シャトレーゼの今後に注目したい。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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不祥事相次ぐシャトレーゼの今後(写真:ITmedia ビジネスオンライン)64
不祥事相次ぐシャトレーゼの今後(写真:ITmedia ビジネスオンライン)64