意欲障害の原因部位を特定
画像はリリースより
認知症や脳血管障害などで生じる「意欲障害」を引き起こす脳内の部位を特定したと、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授らの共同研究グループが発表しました。
意欲障害とは、脳内の“やる気スイッチ”がオフになり、「やる気がわかない」という症状。うつ病でも似たような症状が生じますが、抗うつ薬で治療することが可能です。しかし、認知症や脳損傷による意欲障害は発生メカニズムが明らかになっていないことから、治療薬もなく、候補となる薬さえ挙げられないのが現状です。
研究グループは、脳の特定部位である「線条体」の損傷によって意欲障害が起こりやすいという臨床結果から、線条体から情報を送る神経「ドパミン受容体2型陽性中型有棘ニューロン(D2-MSM)」に注目。D2-MSMを除去できる遺伝子改変マウスを作り、意欲を評価する動物実験を行いました。
治療法の探索へ
意欲は、えさの回数が増えるたびに、レバーを押す回数が増えていくという行動実験で評価。初めは、1回レバーを押せば1個目のえさをもらえますが、回数が徐々に増え、14個目になると95回もレバーを押さなければいけません。正常なマウスで毎日、“やる気度”を調べた後、神経毒でD2-MSMの細胞のみを働かないようにしました。
その結果、D2-MSMが働かなくなったマウスは、やる気がどんどん低下。線条体の腹外側にあるわずか17%の細胞が働かなくなることによって、意欲障害が起こることを突き止めました。さらに、神経毒以外の方法でD2-MSMの機能を抑制した場合でも意欲の低下がみられ、線条体腹外側部のD2-MSMの働きが意欲行動に欠かせないことを見出しました。
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これまで、線条体の腹内側部が、覚せい剤のような、依存性薬物を欲しがる意欲の責任脳部位であることは知られていましたが、おいしいえさのような生理的欲求に対する意欲の責任脳部位はわかっていませんでした。しかし、今回の研究によって、その部位が線条体腹外側部であり、D2-MSMが意欲を制御していることが初めて示されたのです。研究グループでは、「損傷脳の意欲障害のモデル動物が樹立できたので、今後はこの動物を用いて、意欲障害を改善する薬剤を探索することができます」と手応えを感じています。(菊地 香織)
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