2017年F1開幕戦オーストラリアGP 逆転勝利を飾ったセバスチャン・ベッテル王者メルセデスAMGのマシンで、ポールポジションから好スタートを切ったルイス・ハミルトンを、なぜセバスチャン・ベッテルが逆転できたのか? これが2017年オーストラリアGPの最大の焦点である。
ベッテルがハミルトンをオーバーカット(ピットインのタイミングを遅らせてポジションを逆転すること)できた直接の原因は、18周目にピットアウトしたハミルトンが直後に、スタートからタイヤ交換しないで走り続けていたマックス・フェルスタッペンに引っかかったことである。
19周目にその時点でのファステストラップ 1分27秒551を叩き出し、トップを走るベッテルとのギャップを21.1秒に縮めたハミルトンだったが、20周目にフェルスタッペンに1秒以内まで接近するとラップタイムは約1秒ダウン。
タイヤ交換したばかりだが、ハミルトンのタイヤはソフトだったのに対して、スタートから走り続けているフェルスタッペンのタイヤはウルトラソフト。この2種類のコンパウンド差は1秒以上もあるため、たとえ新品のタイヤでもハミルトンがオーバーテイクするのは簡単ではなかった。
さらにハミルトンはピットアウト直後にタイヤの一番おいしい部分を使ってしまっていた。さらにレギュレーションが新しくなって、今年のマシンが前車の空力の影響を受けやすくなっていたことも、ハミルトンがフェルスタッペンをオーバーテイクできなかった要因となっていたのかもしれない。
しかし、これは真因ではない。なぜなら、17周目にピットインすれば、早かれ遅かれピットアウト直後にフェルスタッペンに引っかかることは全マシンのトラックポジションを映し出すモニターを見ていたメルセデスAMGのエンジニアたちにもわかっていたからである。
にもかかわらず、メルセデスAMGのレースストラテジストのジェームス・ヴァレスは、ハミルトンのレースエンジニアのピーター・ボニントンにピットインの指示を行うよう命令したのである。その理由をメルセデスAMGのトト・ウォルフ(エグゼクティブディレクター/ビジネス)はこう説明する。
「ルイスのウルトラソフトのグリップが限界に達していた。恐らく、第1スティントでベッテルの猛追をかわすためにタイヤをオーバーヒートさせてしまったんだろう」
17周目にピットインしたハミルトンに対して、ベッテルのピットインは23周目。だが、メルセデスAMGがフェラーリに比べて、単にタイヤに厳しいマシンとは言い切れないのは、ハミルトンのチームメートのバルテリ・ボッタスがベッテルよりも2周後の25周目にピットインしていることでもわかる。
では、なぜハミルトンだけが、第1スティントでタイヤをオーバーヒートさせてしまったのか。それはハミルトンとボッタスのペースを比較するとわかる。第1スティントでハミルトンとボッタスより平均して1周あたりコンマ7秒速いペースで走っていた。このペースがメルセデスAMGのウルトラソフトをオーバーヒートさせたと考えられる。
ハミルトンはオーバーヒートしないように、ボッタスと同じペースで走ることはできなかったのだろうか。もちろん、それは可能だが、そうすれば、「どのみちセバスチャンに抜かれていただろう」とハミルトンが語った通りの結果となるだろう。
では、ピットストップをもう少し、先に延ばすことはできなかったのか。ウォルフは言う。
「われわれが先に動かなければ、フェラーリにアンダーカットされていただろう。われわれにはほかに選択肢はなかった。つまり、今日の敗因は戦略ミスではなく、単にフェラーリのほうが速かっただけだ」
オーストラリアGPでのフェラーリの1勝は、メルセデスAMGのレースでのタイヤの使い方に課題があることを浮き彫りにした一戦となった。