限定公開( 44 )

焼肉店が、かつてないペースで消えている。東京商工リサーチの調査によれば、2025年度の焼肉店倒産は57件と前年度比14.0%増で、2年連続の過去最多更新となった。
ところが同じ焼肉業界で「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションは真逆の決算を叩き出している。2026年6月期第3四半期までの累計は、売上高1121億円(前年同期比21.0%増)、営業利益91億円(同31.4%増)。通期では5期連続の最高益更新を見込んでいる。
業界全体が沈む中での「一人勝ち」は、なぜ起きているのか。決算情報とビジネスモデルを見ていこう。
●コロナ禍の優等生、焼肉店が淘汰されている
|
|
|
|
焼肉店はつい数年前まで外食業界の“勝ち組”だった。高い換気能力がコロナ禍で強みとなり、ゼロゼロ融資などの支援も重なって、2020年度の倒産はわずか12件。2022年度まで20件を下回る小康状態が続いた。
潮目が変わったのはコスト上昇だ。米国の干ばつに起因する牛肉減産と円安が重なり、2025年初には米国産バラ肉(冷凍)の国内卸値が1キロ1250〜1350円と前年を3割上回る水準まで高騰した。これにより、焼肉チェーン同士の価格競争が激化した。
●会計が読める食べ放題はインフレで重宝
焼肉きんぐの看板は100分制の食べ放題で、主力の「きんぐコース」は3718円だ。
物価高の時代、単品注文の焼肉店では会計額が読めない不安がつきまとうが、定額制なら家族の出費が事前に確定する。経済界では「景気が悪くなると食べ放題が流行る」という経験則があるが、インフレによる実質賃金の減少は、食べ放題というビジネスモデルにおいてむしろ追い風になる。
|
|
|
|
ただし、安さだけが売りではない。焼肉きんぐはビュッフェ形式ではなく、席で注文する方式を貫いている。そのため、客は席を立たずに会話を楽しめる。また、焼肉ポリスと呼ばれる従業員が網交換や焼き方指南で客席を巡回するほか、1皿の量をあえて少なくし、多品種を楽しめるようにしている。
このように、焼肉きんぐは食べ放題を「安く腹を満たせる」という価値だけではなく、エンタメ的な価値も提供することで、値上げ局面でも選ばれているようだ。
このモデルは立地の常識も塗り替えつつある。これまで郊外のロードサイドに出店する戦略を貫いてきた焼肉きんぐは、2022年以降は浅草や川口など首都圏の駅近にも進出するようになった。2025年6月には都心一等地である新宿西口大ガード店を出店するなど、観光客を含む都心の客層にも受け入れられつつあるようだ。
●食べ放題業態ゆえのリスクは?
ただし、食べ放題業態は原価率が高くなりやすい点には注意が必要だ。
|
|
|
|
物語コーポレーションの売上原価率は約35%と外食業界の平均より重く、利益を出すには多くの客を効率よく回すオペレーションが重要になる。この点について、同社の仕組み化は徹底している。
注文タッチパネルの導入はもちろん、仕入れた肉は提携工場に送り、幅・角度まで細かく決めて切り込みを入れることで、包丁を使う店内作業を削減するとともに、やわらかさやタレの染み込み具合を改善した。
席注文の食べ放題でネックとなる配膳作業も、いわゆる「特急レーン」や配膳ロボットで自動化した。仕入れも複数国からの買い付けで価格と品質を両立させているという。
●すし・ラーメンも! 焼肉一本足ではない
2025年6月期の連結売上高は1239億円(前期比15.7%増)と過去最高で、6期連続の増収増益となった。2026年6月期もその勢いは加速しているが、決算を見ると実像がもう少し詳しく見えてくる。
第3四半期累計で焼肉カテゴリーの直営売上高は512億円(前年同期比10.9%増)、国内店舗数は364店に達した。ただし月次売上高も直近で増加してきており、都市型価格の導入に伴う値上げと新規出店が早くも効果を上げていることがうかがえる。
また、全社ベースで3割の増益を達成できたのは、事業ポートフォリオの厚みゆえだ。
焼肉きんぐを運営する物語コーポレーションは「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」や「丸源ラーメン」も展開しており、これらの業態も好調に推移している。焼肉、すし、ラーメンの3業態が、同社の収益の柱となっている。
これは、牛肉高騰・人件費上昇という逆風を仕組み化で乗り切り、その仕組みで得られた学びを焼肉以外の業態にも展開しているからだ。これにより、焼肉きんぐで培った仕組み化の恩恵を、横展開することで効果を拡大している。
直近では肉と讃岐うどんを組み合わせた新業態「源次郎」を立ち上げるなど、新業態開発にも余念がない。
物語コーポレーションは2025年8月公表の「物語ビジョン2030」で、2030年6月期に連結売上高2200億円・経常利益率10%を掲げた。
原価率の高い食べ放題は、牛肉がもう一段高騰すれば最も逆風を受ける業態でもある。それでも、需要は出店を続けられる企業へと集まりやすい。焼肉きんぐの「仕組み」がどこまで通用するか、今後も注目したい。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。