市原隼人、役者歴25年の“今の心境”は「手探りのような状態」「答えを求めれば求めるほど…」

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2024年06月16日 15:50  女子SPA!

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 俳優の市原隼人さんが、全国公開中の人気シリーズ最新作『おいしい給食 Road to イカメシ』で、給食マニアの教師・甘利田幸男役で帰って来ました。甘利田の強烈なキャラクターはそのままに、給食を通して食の大切さや人生へのメッセージなど、熱いドラマは劇場版第3弾でも炸裂しています。

 市原さんにとって給食マニアの教師は当たり役でもあり、ライフワーク的な存在にもなっている本シリーズですが、そこには俳優としての並々ならぬ想いが込められていました。本人に話を聞きました。

◆役者という職業の意味を教えてもらったシリーズ

――まずこのシリーズがシーズン3、そして今回の映画第3弾までたどり着いたことへの想いを聞かせてください。

市原:今でも夢の中にいるような感じです。原作がないところから始まり、演じている甘利田幸男という教師も、最初はつかみどころがなかったんです。衣装合わせを何度も行い、シーズン1から使っている眼鏡も甘利田が激しく動くので修理しながらでしたが、そろそろ危なくなってきました(笑)。すべてを尽くさせていただける現場です。

――一度撮影現場を拝見したことがありますが、みなさんでアイディアを出しながら仕事をされていました。

市原:使えるところだけ撮ればよいのではなく、あくまで挑戦させていただける作品であってほしいと、最初に綾部(真弥)監督にお伝えしました。これは、シーズン3までずっと続いています。それが多くのお客様のご支持をいただけて、続編の熱望をいただけることは、役者冥利に尽きます。改めて役者という職業は、お客様に喜んでいただいて初めて成立するということを学ばせていただいたシリーズでもあります。

――まさしく俳優の原点に立ち返るような作品ですね。

市原:そうですね。キャリアを重ねるとニッチなほうに行きがちです。まだ25年ほどしか芝居をしていないのですが、改めて王道のエンターテイメントを学んでいる気がしています。誰が観ても楽しめて知識・教養もあり、1980年代のわび・さび、古き良きものがふんだんに込められているんです。根底はコメディーですが、社会派であり、核心を着いたメッセージであふれている。それがお客様に届けば幸いです。

◆この作品、主人公には本当にたくさん救われた

――俳優のキャリアが25年「しか」と表現されるのは、とても謙虚ですね。今仕事に対してどういう想いで取り組まれているのですか?

市原:今は壁打ちのような状態です。正解がない世界ですので、答えを求めれば求めるほど、答えが逃げていくような世界でもある。とにかく毎日毎日、真っ暗な泥の中に手をつっこみ、なんとか夢をつかめないか、手探りのような状態。その中でも自分が信じられるものを持ち続けていたいんです。

歩いて泣いて走って笑って、誰でも出来ることを僕らはやっている。それでお金をいただくなんて……と、感じたこともありました。だからこそ、情熱を込めなくてはいけない。より作品に愛情を持ち、その根源を見つめて、本気で泣いて本気で笑って、本気で悔しがれる心を持つ。それはお客様のためであり、そのためにすべてを尽くさなければいけないと感じてからは、またガラッと役者という職業に対しての想いは変りましたね。

――ちょうど5年くらい前にこのシリーズが始まるわけですが、その想いはすべてこのシリーズに投影されているのではないでしょうか。

市原:そうなんです。『おいしい給食』という作品は、制作する人間すべての夢なんです。根底はコメディーですが、社会派であり、しっかりとしたメッセージがあり、僕はこの作品にも、自分が演じる甘利田幸男という男にも、本当にたくさん救われています。それをひとりでも多くのお客様にも感じていただいて、人生を楽しむ気持ちを忘れないでいただきたいです。

◆「いろいろなものが濁ってくるけれど…」

――生徒という形でたくさんの後進の俳優さんも出ているので、先生と生徒、先輩と後輩という似たような関係性で、自ら範を垂れている側面もあるかと思いますが、いかがでしょうか?

市原:何が正解かは分からないです。僕の気持ちとしては、ふがいないことも理不尽なこともたくさんある世界であり、この芝居をやっている25年間の中でも、たくさんいろいろな想いをして来ましたから。

いろいろなものが濁ってくるけれど、それをろ過することはもっと大変なこと。重複しますが、泥水の中に手をつっこみ、なんとしても夢を持ち上げて来るのだという想いを忘れずにと、結局は自分との戦いということなのですが。

この作品でも、甘利田先生はシンプルだけれど、世の中はシンプルじゃないというセリフが出て来るのですが、だからこそシンプルな想いを忘れずにいたいんです。それぞれの部署が集まり、違う会社が集まるなか、それぞれの理念がぶつかり合うものですが、どこかで存在意義というか、みんなが集まってひとつのものを作る存在意義を証明したいんです。

◆今でも役者という職業にあこがれている

――その夢とはなんでしょう。具体的に聞いてもいいでしょうか?

市原:僕は今でも役者という職業にあこがれているんです。役者になりたいけれど、わからない。自分自身がわからないのですから。そして、映画という業界にあこがれていたいんです。カッコいいじゃないですか。いろいろな技術スタッフがいて、みんな職人でプロで。これだけの職人が集まる世界って、夢だなっと思うんです。

――それはかつてあこがれていた世界を、いつまでも維持したいという願いのようなことでしょうか?

市原:そうです。デビュー作(岩井俊二監督作『リリイ・シュシュのすべて』)の時に思ったんです。監督やカメラマン、照明部、みんなかっこいいなと。みなさんのすごい背中を見て、子どもの頃にそう思いました。毎日スーパー銭湯に行って、ご飯をみんなで食べて、プロデューサーの家に泊りに行ったり、僕の母と監督がメールしていたり、愛にあふれていました。

そういう想いを持ち続けていたいし、みなさんがそういう技術を遺憾なく発揮できる現場、意見を言える現場であってほしいんです。その中で、それぞれの存在意義を大切にしていけたらいいなと。

それぞれがいろいろな技術を持ち寄り、意見を投じれる世界が僕は夢なのかなと思っています。今でも役者というもの、映画や舞台にあこがれていたい。いつまでもそういう世界であってほしいなと思うんです。

<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。
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