隠れ名品がリニューアル!「お知らせライト」に見る「かゆいところに手が届く」キングジムらしさの秘密

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2024年09月10日 21:20  All About

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キングジムの「扉につけるお知らせライト」は、扉の開閉時に起こりがちなぶつかり事故を防止するための製品です。このような「無意識のストレス」を解決する製品作りは、どのようにして生まれたのでしょう。製品のリニューアルを機に、その秘密を伺いました。
キングジム「扉につけるお知らせライト(無線タイプ)」2万1890円(税込)。色は写真のライトグレーの他、緑もある。サイズは1台あたりW130×D44×H90mm、重さは約176g(電池別)。電源は単3形アルカリ乾電池6本×2台で約2年間動作可能

キングジムの製品は、よく「キングジムらしい」という言葉で表されます。

例えばデジタルメモ「ポメラ」は、ノートパソコンが普及している中で、テキスト入力に特化した折り畳みキーボードを搭載したマシンとして登場しました。その折り畳みキーボードのギミックと思い切って機能をシンプルにした潔さが大ヒットにつながったのです。

誰にでも便利というわけではないけれど、刺さる人には確実に刺さる、その感じが「キングジムらしい」なのでしょう。

ドアの向こうに人がいることを光と音で知らせてくれる「扉につけるお知らせライト」も、誰にでも便利という製品ではありませんが、これがあることで確実に助かる人がいる、そういう製品です。それを7年前に発売し、シリーズ展開するほどの隠れた人気商品となり、2024年にはリニューアル版まで登場しました。
このように、ドアノブの上あたりに背面のマグネットで装着する。ライトが点滅していたら扉の向こうに人がいるので注意。写真の無線タイプなら、音でのお知らせも可能

「7年前、開発のきっかけはとても単純なもので、弊社はオフィスの上下階への移動はエレベーターと階段で行うのですが、通路が狭いこともあって、フロアから階段に向かうドアを開けると、階段を降りてくる人とぶつかってしまう、ぶつかりそうになってしまうということが多々あったんです。

しっかり注意を促す貼り紙はしていたのですが、そんなの誰も見ていないんですよ。だからといって、どう注意すればいいのかも分からない。

そこで、当時の担当者が、勝手に注意をしてくれるもの、そもそもぶつかる前にドアの向こうに人が居ることを知らせてくれるものができないかと考え始めたのがきっかけなんです」と、キングジムの現在の「お知らせライト」シリーズ開発担当者の株式会社キングジム開発本部電子文具開発部の柴田充輝さん。

単なるセンサー付きのライトではない「お知らせライト」

これが初代のお知らせライト。最初は有線タイプのみの発売だった。非常口を意識したデザインで利用者の注意を促す狙い。口コミなどで評判を呼んだロングセラー

最初は、自社ビルで必要に駆られての開発だったわけです。ただ、この企画にビジネスとしても可能性があることにも気が付いたからこそ、製品としての開発が始まったそうです。

「同じような問題を抱えている会社は他にもあると思ったので、みなさんはどうやってこの問題を解決しているんだろうといろいろ調べたら、例えば何十万円もかけて、扉をくりぬいて、そこにガラス窓を付けて、カーブミラー的なものを付けて……といった対策をしているところが多かったんです。

ただ、階段の扉にそんなに予算をかけられる会社も多くはないでしょうから、もっと簡単で安く、そういった機能を後付けできる製品は作れないかということで最初に誕生したのが、初代の有線タイプの『お知らせライト』です」と柴田さん。

「お知らせライト」は、扉を開けようとしたとき、扉の向こうに人がいると、光でお知らせしてくれる製品です。それだけのシンプルな機能の製品ですが、これを実用的なツールとして完成させるには、さまざまなハードルがありました。

例えば、ドアのどの部分に取り付けるのが良いのか、ドアの前に人がいることを感知するセンサーの感度はどのくらいに設定するのか、ドアを開ける人がライトに気が付くデザインはどういうものか、などなど、クリアしなければならない要素は多く、開発も簡単なものではなかったそうです。

また、有線タイプでは取り付けられない扉もあるということで、翌年には無線タイプも発売されていますが、これも、ただ無線にするだけではなく、ペアリングが簡単に行えるようにするなどの配慮をして製品化されています。
画像左のキングジム「お知らせライト(シングルタイプ)」7260円(税込)は、近づいた人に注意喚起するシンプルなタイプ。画像右のキングジム「カドにつけるお知らせライト」9680円(税込)は、曲がり角に設置して、角の向こうから人が来ることをお知らせしてくれる

「センサーライト自体は、世の中にたくさんあります。でも、この製品の場合、ドアの向こうにいる人だけに反応してほしいし、通り過ぎたあとはオフになるようにしなければなりません。ドアの前を人が通り過ぎたあとでも、ずっとライトが点いていると、いつまでたってもドアが開けられませんから。

シンプルな製品ですが、開発にはかなり手間がかかっているんですよ」と柴田さん。

誰も気が付いていないけれど、誰もが持っている不満を見つける

リニューアルした無線タイプは、単2形アルカリ乾電池4本から単3形アルカリ乾電池6本へと変更された。その分、軽量化し、電池も入手しやすくなった。電池寿命は従来通りの約2年。電池蓋を閉じた状態でも、電源やアラーム音のオン、オフができる仕様が気が利いている

しかも、この製品、当然ながらあまり個人には売れないでしょうから、大ヒットが望めるようなものではありません。それが製品化できるあたりがキングジムというメーカーの面白いところですし、そういうところが「キングジムらしい」を生み出す要因なのでしょう。

「弊社の方針といいますか、一番の目標としているのが『独創的な商品を作ろう』ということなんです。

そのためには、他社の真似をしないことが重要です。なので、お客様がまだ見つけていない、潜在ニーズなどと言われたりもする、“誰も気が付いてはいないけど、みんながなんとなく不満に思っていることに気付いていこう”という方針があって。

『お知らせライト』シリーズも、扉の開閉時が危ないなんて誰もが分かっているけど、わざわざその解決にお金を出そうという発想がなかったから、それを安価に解決する商品があれば買う人が必ずいるというところで、うまく潜在ニーズを掘り起こせたと思っています」と柴田さん。

その他にはない便利さでロングセラーとなった「お知らせライト」ですが、長く愛用しているユーザーが多いからこそ気が付く改善点も生まれます。

「表面にシートが露出している関係で、2年、3年と非常階段の扉などに設置されていると劣化したり、耐久性に不安があるといった声を多く頂戴したんです。こういうのは、長く使っていただいているからこそのご意見ですね。あと、電池寿命がもう少し長いといいといった声もありました。

デザインも、元々はとにかく目立たせたかったこともあって、非常口のイメージで作っていたのですが、それだと病院などでは、ちょっと怖いイメージがあって使いにくいという声もありました」と柴田さん。そこで、今回の大々的なリニューアルが行われたそうです。

会社のあちこちで試作品のテストが行われている

有線タイプは、前の製品が片方だけに単3形アルカリ乾電池3本使用で電池寿命は約半年だったが、リニューアルしたモデルは、両方に単3形アルカリ乾電池を3本ずつ入れる仕様にして、電池寿命を約2年まで伸ばした

「電池も以前は無線タイプだとそれぞれに単2形アルカリ乾電池を4本使っていました。新商品はそれぞれに単3形アルカリ乾電池6本ですが、だいぶ軽くなりました。その上で電池寿命約2年というのはキープしています。

有線タイプは以前、片方に単3形アルカリ乾電池を3本入れる仕様だったのですが、今回は親機と子機それぞれに3本ずつ入れるようにしました。電池の本数は倍になったのですが電池寿命は半年だったのが約2年と4倍になっています。単2形アルカリ乾電池は重いだけでなく、最近は手に入りにくいというのもありました」と柴田さん。
キングジム製品は、「お知らせライト」以外にも、少し思い出すだけで、「ブギーボード」や「ビジュアルバータイマー」、「光る表示プレート」など、マグネットでくっつく仕様の製品が多い

また、「お知らせライト」はマグネットで扉にくっつけるのですが、軽量化した分、装着時の安定性も増したそうです。

キングジム製品には、マグネットでどこかにくっつけるというタイプの製品が多いのですが、これらの製品は、試作時に、会社のドアなどにいつの間にかくっつけられていて「耐久テスト中」といった付せんが貼られていたりすることも多いそうです。

こうして、社内で実際に試しながら製品が開発されているのですね。社内に貼り付けられた製品は、ちょっとずつ形の違うものが貼られていたりするので、「たぶん、新しい企画なんだな」と思って見ている社員が多いそうです。

製品を目立たせるのではなく“機能”を目立たせるリニューアル

写真下は、リニューアル版「扉につけるお知らせライト(無線タイプ)」の初期の試作品。フレームをなくす以前から、横からも光が漏れるように考えていたことが分かる

また、今回のリニューアルの大きなポイントであるデザインの面でも、「お知らせライト」とはどういう製品なのかを改めて問い直すリニューアルが行われていました。

「この製品の一番の目的は、扉を開け閉めする際の危険をお知らせすることなのですが、そのためには“常に目立つデザイン”にしなければなりませんでした。しかし、これまで実際に製品化して長く使われてきた中で、実際には、この機器が目立つのが重要なのではなくて、点滅したら注意ということを知らせるのが重要だということが分かりました。

そこで今回のリニューアルでは、フレームをなくして、光がいろいろな方向に伸びることで、光自体がより目立つようにするということをコンセプトにデザインを考えたんです」と柴田さん。
こちらは有線タイプの試作品。写真下の方が初期のデザイン

実際にさまざまな試作品を見せていただいたのですが、どれも横からも光が漏れるように作られていました。フレームがあると、前方向にしか光が届かないため、光が見える角度が制限されてしまいますが、新しいタイプはフレームがなくなったため、光が周囲にも届いて、より目立ちます。

最初の製品の発売当初は、こういう機器自体が珍しかったこともあって、機器自体を目立たせる必要がありました。そこから7年経って、機器自体は知られるようになったため、危険を知らせている光そのものを分かりやすく見せようという方向へと進化したわけです。

こういう細かい変化に気が付いて製品開発に生かすことが、キングジムの“かゆいところに手が届く”ような製品作りにつながるのでしょう。

「実は、今回のリニューアルのきっかけは、電池交換が結構面倒だったことなんです。有線タイプは電池寿命が半年程度だったので、かなり頻繁に電池交換が必要になります。いろいろな扉を開いては動作チェックして、さらには電池交換もして……という感じでした。

もっと電池が持てばいいのにと思っていたら、お客様も同じようなことを思っていて」と柴田さん。

自分が困っていることは、いろんな人が思っていることだということが分かると、会議でもそのアイデアが採用されるという社風が、製品開発のポイントになっているのだそうです。

柴田さんの住んでいるマンションでも「お知らせライト」を使っていて、会社ではなく一般住宅だと、やや目立ち過ぎているので、もう少しシンプルな色が欲しいという住人の声もあったといいます。そういう生活の中から出てくる声も、製品開発につながっているのです。

納富 廉邦プロフィール 

文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。
(文:納富 廉邦(ライター))
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