“過保護な親”を持つ女性が全身に刺青を入れたワケ「今でも両親に会うときは長袖長ズボン」

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2024年09月13日 09:31  日刊SPA!

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美容師兼モデルとしても活動
 フリーランスの美容師をしながらグラビアモデルとしても活動するキヅキさんは、エキゾチックな顔立ちのなかでも涼しげな目元が特に強い印象を残す。下唇から牙のように伸びたピアスも彼女のシンボルだ。胸元に天使の刺青が顔を覗かせ、四肢も大きめの墨が覆っている。
 整った顔貌をしているが、本人は「昔は本当に自分の顔が好きじゃなかったんです」と振り返る。原因は、幼い頃の記憶によるところが大きいという。

◆高校卒業までをカナダで過ごす

「カナダで生まれ、高校卒業までを過ごしました。姉と私が生まれる前に両親がカナダに渡り、向こうで自営業をやっていたんです。カナダの田舎で暮らしていて、地元の学校にはさまざまな人種が通っていました。幼いころから、何となく『白人が美しい』という価値観が定着していて、モテるのも白人。アジア人である私は、見た目を人並み以上に気にしていたものの、自分の容姿にはあまり自信が持てませんでした。ようやく最近になって、SNSなどで写真をあげて『可愛い』『きれい』と言ってもらえて、少し自分の容姿が好きになれそう……という段階です(笑)」

 雑多な人種に揉まれ、“日本人”であるキヅキさんはこんな場面にも出くわした。

「小学生のときに、同級生から『お前の国って、パールハーバーやった国だろ?』って突然言われて。私、当時は真珠湾攻撃が何かも知らなかったので、ただ黙るしかなかったんですよね。私がいた地域では、結構大人になっても“国籍ジョーク”のようなものが横行していたように記憶しています」

◆「門限が5時」だからホームパーティーに参加できず…

 下位に位置していたというキヅキさんのスクールカーストが上がらないのは、人種や国籍以外にもこんな原因があった。

「両親が過保護で、門限が5時だったんですよね。もちろん、日本のように治安がいいわけではないので、今にして思えば両親の判断も理解できます。でも当時は、ホームパーティーに呼ばれても参加できず、そのうちどんどんクラスメイトのイベントから取り残されていくことに焦りを感じていました。住んでいた地域は娯楽施設がないうえに家がかなり広大なので、かなりの頻度でホームパーティが開催されていたんです。いわゆる“ノリが悪いやつ”みたいな位置づけでした。

 姉に相談すると、『卒業して仕事をするようになると、ホームパーティを含む流行なんて、どうでもよくなるよ』って言われて(笑)。今にして思えば、これも本当にその通りでしたけど。ただ、当時の私にとっては由々しき問題です。『どうして誘ってくれないの?』と同級生に聞いて、『だって親が過保護だから』と言われたとき、さすがに堪えましたね」

◆両親から逃げるため、日本の専門学校に進学

 心配性で、何事にも介入してくる両親のそうした姿勢が嫌で、かなりの反発心を抱いた学生時代。キヅキさんが高卒後に日本へ渡った根底には、束縛からの解放があったという。

「わりと幼い頃から美容師にはなろうと思っていたんです。でも、『日本の美容学校に通いたい』というのは両親から逃げるための半ば強引なこじつけでした(笑)。私が単身で日本へ行くと言ったとき、両親はかなり強硬な態度になって。結局、寮がある安全な専門学校に入学するなどの条件を落とし所にしました。昔から日本のファッション雑誌などに親しみがあったからか、日本での生活は楽しくて、結果的に現在に至るまで住み着いています(笑)」

ちなみに美容師を志した理由にも、両親が関係するという。

「実は私の両親はほとんど英語が話せないんです。何かの書類が届くと、姉と私が日本語訳をするというのが日常でした。そのためか、美容院へ行ってもうまく自分の希望を伝えられず、いつも不満そうにしていました。日本人の髪質と白人の髪質は違うので、同じようにカットしても仕上がりが結構異なってくるんですよね。日本人はやはり毛量が多く、密度も高いんです。日本の美容師資格を取って、両親の思い通りのヘアスタイルにしてあげたいと思ったのが原点ではあります」

◆両親に会うときは「長袖長ズボン」
 
 専門学校入学のために来た日本で、キヅキさんは自由を謳歌した。両親の庇護下ではできなかったことを次々やり、刺青にたどり着くまでそう時間はかからなかった。驚くべきことに、身体中を覆う刺青について現在も両親には打ち明けていないのだという。

「両親は髪を染めることやピアスですらも、かなり顔をしかめていました。もう成人しているのでこのあたりは『しょうがないな』と思っているでしょうけど。ただ、刺青はもってのほかです。現在、両親は日本にいますが、会うときはすべて長袖長ズボンです。カナダにいたときはそんなことなかったのに、急に寒がりになったと思っているでしょうね(笑)。個人的には、カナダ時代に友人の母親などでがっつり刺青が入っている人もいたので、そこまで抵抗はなかったし、むしろ『将来自分も入れるんだろうな』くらいに思っていました」

◆刺青の絵柄に深い意味があるわけではない

 意外なのは、刺青について統一のコンセプトがあるわけではないということだ。

「もちろん、彫師さんの作品を拝見して吟味のうえ依頼はします。ただ、彫っている絵柄そのものについては、深い意味があるわけではありません。意味のあるものを彫って、それが意味を持たなくなってしまったとき、悲しくなってしまうので。一生美容師をやろうと思っているので、右腕にはハサミを彫りましたが、本当にそのくらいですね」

 日本においては「親からもらった大切な身体に刺青を入れる」ことは一般に忌避される。だがキヅキさんはそうした考え方について承知したうえで、こんな考え方をもっている。

「たとえば宗教の教えなどで、身体を神社や神殿のように神聖なものに見立てて、『大切に扱いなさい』とするものがありますよね。ただ、大切にする方法は人それぞれでいいと私は考えています。私は大切の意味を『まっさらでいること』とは捉えず、たとえば神社や神殿にも絵画やステンドグラスをきれいに飾るように、装飾しながら大切にするというのもあり得るのではないかと思っているんです」

◆刺青を入れて困っていることは…

 現在、日本における公共施設では多くの場合、「刺青お断り」とされていることについて、「海外とは文化が異なるので当然」としつつ、こんな困り事をキヅキさんは明かす。

「身体を鍛えるのが趣味なので、トレーニングジムに『お断り』されてしまうのだけはちょっときついですね(笑)。だからベンチや可変ダンベルを自分で購入にして自宅でトレーニングをしています。可変ダンベル左右で40キロ、絶対そんな必要ないと思いつつ、買ってしまいました(笑)」

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 将来について、「お客様に求められる限り、美容師は続けていきたい」と語るキヅキさん。人種や国籍、文化の違いによって苦労しつつも、「無理に歩調を合わせる必要はない」と脱力することで、自分らしさを手繰り寄せた。容姿に悩んだ経験がキヅキさんの手に美容師としての職能と信念を宿した。その得がたい武器で、未来を切り拓く。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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