プロアスリートと子どもたちが紡ぐ、笑顔で結ばれる心の絆

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2024年09月13日 21:32  サッカーキング

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埼玉県立小児医療センターを訪れた宇賀神友弥と西川周作[写真]=大西徹
 残暑が続く8月27日、浦和レッズの西川周作と宇賀神友弥がトレーニングを終えて向かったのは、埼玉県立小児医療センターだった。二人は、同センター内にあるドナルド・マクドナルド・ハウスさいたま(さいたまハウス)や病棟を訪れ、入院中の子どもたちやその家族らと心温まる時間を過ごした。

 浦和レッズは、スポーツを通じて次世代に向けた豊かな社会づくりを目指している。選手たちは、ピッチ内での活躍だけでなく、地域に活力をもたらすさまざまな活動を通じて、社会に貢献する役割も担う。

 この日、両選手が見せた姿勢や語り掛けた言葉、そして埼玉県立小児医療センター全体に広がった優しい雰囲気は、浦和レッズが追求する「必要とされるクラブ」の一つの形を体現している。プロスポーツクラブが地域に根ざし、そこで育まれるつながりや喜びは、日々の生活においてかけがえのないものであることを、あらためて感じる時間になった。



 西川と宇賀神は、まず埼玉県立小児医療センターの岡明病院長と面会した。その後、同センター内にあるさいたまハウスに足を運んだ。この施設は、入院中の子どもたちとその家族が、経済的・精神的な負担を軽減しながら共に過ごせる場所だ。“第二のわが家”として、多くの人々に親しまれている。

 施設の運営には、200人近いボランティアスタッフが関わっており、安心して過ごせる環境が整えられている。選手たちも、この場所で感じる優しさに共感し、心のこもった交流が生まれた。



■子どもたちとの交流で見せた優しい表情

 見学を終えた西川と宇賀神は、子どもたちやその家族、そしてボランティアスタッフらと笑顔を交わしながら、交流の時間を共有した。二人は一人ひとりに丁寧に声を掛け、細やかな気遣いを見せた。

 その後、二人は埼玉県立小児医療センターの病棟へと移動した。明るい日差しが降り注ぐスペースで、入院中の子どもたちと向き合いながら、笑顔と共に優しい言葉を掛け続けた。メッセージカードやサイン入りのグッズを手渡すと、子どもたちの目は一層輝きを増した。その瞬間を見守る二人の表情は、ピッチでの厳しい戦いの表情とはまるで違い、子どもを見守る父親のような優しさにあふれていた。



 二人の優しさに、明るく笑顔を見せる子どももいれば、恥ずかしそうにしている子どももいた。それでも、どの子どもも二人の温かさに触れ、心の中で深く感動していたに違いない。この日、入院中の子どもたちのために用意された「ハートフルカート」と呼ばれる大きなカートには、日常生活で必要な品々に加えて、浦和レッズのグッズもたくさん積まれていた。

 多くの子どもたちは、自分のお気に入りのグッズを選んで、うれしそうに持ち帰っていった。その場で受け取れなかった子供たちには、西川と宇賀神が病室に足を運び、プレゼントを直接渡す姿も見られた。その行動は、二人の心からの思いやりと、子どもたちに対する特別な愛情がにじみ出ていた。



 交流を終えた西川は、次のように語った。
「自分が子どもたちにパワーを届けたいと思って訪れたのですが、逆に子どもたちの笑顔から大きなエネルギーをもらいました。皆さんが浦和レッズを応援してくれている思いを肌で感じましたし、自分ももっと頑張ろうという思いが強くなりました。ゴールキーパーをやっている子や、得点王になったことを誇らしげに話してくれた子もいましたし、人見知りのように見えていた子が、あいさつをするとニコッと笑ってくれたときは、本当にうれしかったです。また、ピッチで頑張っている姿を見せて、皆さんにパワーを届けたいと思います」



 一方、宇賀神も今回の訪問で心を打たれたと語る。
「スポーツ選手として、子どもたちに元気を届けられることは本当に幸せなことだと感じました。子どもたちが目をキラキラさせて僕たちを見つめてくれて、その目の輝きに僕自身も心を打たれました。大好きなサッカーができなくなってしまったけれど、次の夢は日本を代表する料理人になることだと教えてくれた子がいました。自分の夢をしっかりと持ち、それを堂々と伝えてくれたことに感動しました。ぜひ、その夢を実現してほしいと心から願っています」

■選手の思いから生まれた継続的な支援の輪

 浦和レッズと埼玉県立小児医療センターとの関係は、西川の強い思いをきっかけに始まった。コロナ禍の2020年6月、西川は「こんな時期だからこそ、ホームタウンの子どもたちのために何かできることはないか」とクラブスタッフに相談を持ちかけた。それを受けて、クラブはさいたま市と検討し、同センターへ子ども用マスクやハンドジェルを寄贈することを決定。西川のサイン入りグッズや動画メッセージも贈られ、入院中の子どもたちやその家族にとって、大きな励みとなった。

 同年9月、浦和レッズはさいたまハウスの運営委員に就任した。クラブ創設以来続けてきた社会貢献活動に加え、西川の提案をきっかけに始まったさいたまハウスでの取り組みが認められたのだ。その後も浦和レッズは、地域に根ざした社会貢献活動を強化し続けている。特に、ホームタウンの子どもたちやその家族を支えるためのさまざまな取り組みにも力を注ぎ、地域とのつながりを深めている。



 西川は、浦和レッズの選手としてだけではなく、個人としても長年にわたり、ホームタウンの子どもたちの未来を支援してきた。その姿勢は、次世代を担う選手たちにも自然と引き継がれていくものだ。また、スポーツ界全体でも、同じ志を持つ選手を大事に育んでいくことが大切だろう。選手たちの熱い思いを受け止め、それを具体的な活動への形にすることこそ、プロスポーツクラブが担う大きな役割であり、同時に重い責任でもある。

 今回の浦和レッズの活動のように、プロアスリートが子どもたちやその家族に寄り添い、笑顔と希望を届けることで、アスリート自身も新たな力を得て再び全力でグラウンドに向かう。このポジティブな循環が、思いがけないほど大きな影響を与えることになるだろう。

 今後の抱負について、西川は次のように語った。
「一度きりではなく、継続して訪問を重ねることが大切だと思っています。今回は僕が宇賀神選手にお願いしたところ、彼も快く応じてくれました。浦和レッズを長く支えてくれている選手がこうした活動に積極的に関わってくれることで、チームの若い選手たちにもいい影響を与えたのではないかと思います。これからも浦和レッズ全体として、ピッチ外での貢献に力を入れていきたいです」

 宇賀神もまた、クラブの活動をさらに広げていく意欲を示している。
「浦和レッズがこうした活動の先頭に立ち、回数を増やすことで、チーム内の他の選手だけでなく、他クラブやスポーツ界全体にも波及していけばいいと思います。今後もこの取り組みを加速させていきたいです」

 浦和レッズは、地域との深い絆を大切にしながら、これからの世代の子どもたちと共に新たな希望を紡ぎ出している。今回の訪問で見られた温かい交流は、選手たちが単なるプレーヤーではなく、地域社会の一員としてどれほどの愛情と責任を持って子どもたちの未来に向き合っているのかを、鮮やかに映し出していた。

 その姿勢はクラブの理念と強く結びついている。地域との絆を大切にしながら、次の世代へ継承していくことが重要だ。プロスポーツクラブやアスリートには、地域と共に歩み、子どもたちの未来に希望をもたらす力がある。

文=大西 徹

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