3年目で巡ってきた初アタッカーに“魅せた”平川「状況を考えると最大限」と納得の手応え【トヨタ予選の裏側】

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2024年09月14日 20:00  AUTOSPORT web

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初めてアタックを担当した平川亮
「予選はそれこそ『フタを開けてみないとわからない』ぐらいの状況でした。どちらかと言うとQ1(全18台の予選セッション)の方が失敗して『ちょっと落ちちゃったかな』ぐらいの感覚で。そちらの方が大きくて、逆にハイパーポールは攻めてまとめられたので、感触としては悪くなかったですね」

 タイトル防衛と連覇を期して。地元凱旋の富士スピードウェイで行われた2024年WEC世界耐久選手権第7戦の予選では、これが「参戦3年目にして初のアタック」という平川亮が、厳しい性能調整による下馬評をも覆しチーム代表・小林可夢偉の7号車とフロントロウ独占か、という白熱のポールポジション争いを繰り広げた。

■これまでとまったく違う、レースウイークの感覚

 昨季まで基本は3ラウンドごとに見直されてきたBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)は、今季より各ラウンドごとの調整に改められたが、ホームラウンドを迎えたTOYOTA GAZOO Racing勢には2戦連続の最低重量増加と最高出力の削減という厳しい措置が課され、その内実は車両重量が北米ラウンド(第6戦オースティン)より5kg増加の1070kgとなり、一方で出力の最高値は4kW(約5.4PS)少ない493kW(約670PS)とされた。

 約1.5kmと世界有数のホームストレート長を誇るここ富士では、250km/h以上の速度域で出力を増減させるパワーゲインの項目でこそ、前戦の4.6%から5.4%へと増加しているものの、その恩恵はストレートエンドのわずかな区間でしか享受できない(可夢偉によれば、それでも体感で「急に途中でパワーを感じる」ほどの違いはあるというが)。

 そんな前提条件のもと週末に臨んだTGR陣営は、この日本戦で初めて平川を8号車の予選アタッカーに抜擢。都合3回の枠が設けられるFPでも、積極的にニュータイヤの経験を積ませた。

「多分、フリー走行でニュータイヤを使ったのは初めてなんです、僕。この3年やってきて(笑)。なんか……いいっすね、気持ちがいいです」と、走行初日金曜の段階で語っていた平川だが、この週末に持ち込まれたミシュランの2種類のコンパウンドのうち、すべてのセッションでミディアムを装着。土曜午前のFP3は縁石損傷による赤旗終了で貴重な60分の走行枠が半減したものの、セッション開始直後にステアリングを握り、予選までに都合4セットのニュータイヤで習熟を積み重ねた。

「レースウイークの感覚、雰囲気が(これまでと)全然違って。もう予選のことしか考えていなくて。クルマだったり、セットアップ、ドライビングを含め、もう木曜日から予選でいかにタイムを出すかっていうことだけ。それしか考えてこなかった」と平川。

 ドライに恵まれた金曜から拮抗したタイム差で推移したハイパーカークラスは、TGR(ターン1)やコカ・コーラのアウト側をまたぐようにハミ出して走行するマシンが多数見受けられ、そのぶんだけコース上にはダストも多く、また気温や路面温度もセッションごとに上昇して行く(滑りやすくなる)方向に。

「気温が高いので、僕らも結構タイヤの落ちがヒドくて。他のメーカーと一緒に走っていても、結構みんなミスしていたりだとか、飛び出したりとかもしていて。それは多分、気温が上がるともっとその傾向が出てくると思う」

 予選に向け意気込みつつも冷静に周囲の状況を見極めていた平川は、グリップのピーク自体はほぼ1周のみしかない(その後は安定したペース推移になる)ミシュランへの熱入れに関しても、当然ながら確認を済ませていた。

「タイヤの温度とブレーキの温度が1番大事なので。自分のナチュラルな感覚で行くと、FP1では少し温まり過ぎたのでFP2では少し遅めにゆっくり走って、アタックに入る……みたいな。それを超えると多分コンマ2〜3秒は絶対遅いですね」

■「イチかバチか」でアタック周を変えた可夢偉

 前述のとおりFP3の半減で完璧なシミュレーションを経ないまま迎えた予選では、僚友7号車とともに計測4周目で以下のタイムを記録する。

7号車:22.131(S1)/27.769(S2)/39.523(S3)=1:29.423(可夢偉/P5)
8号車:22.066(S1)/27.791(S2)/39.656(S3)=1:29.513(平川/P8)

 このセッションでは「攻め過ぎたことによるミスが複数回あった」と明かした平川だが、チェッカーから8分後に始まるハイパーポールでは「路面が良くなるので、それに合わせてアジャストする」という方向でまとめ、最後は2号車キャデラックVシリーズ.Rに先行されるものの「もちろんポールは獲れれば最高でしたけど、今置かれた状況を考えると最大限は自分もやれたので」と、以下のとおり自身でも納得のアタックを敢行してみせた。

7号車(Lap3):22.063/27.715/39.287=1:29.065(可夢偉/P4)
8号車(Lap4):21.970/27.548/39.424=1:28.942(平川/P2)
(※参考:7号車の計測5周目は21.929(S1)/27.544(S2)を計時も更新ならず)

 一方、この週末に入ってからつねにセットアップに悩まされ、いわゆる「ハマっている」状況だと明かしていた7号車の可夢偉は、予選を前に8号車のセットアップをコピー。ぶっつけ本番の状況ながらハイパーポールではアタックを1周早める判断も見せ、最終的に2列目4番手を確保している。

「イチかバチかやってみて。良くもなく悪くもなく……奇跡のラップは出来なかったですけど」と予選後に振り返った可夢偉。

「予選の最初はブレーキも全部冷たい状態でタイヤも冷えてますが、ハイパーポールではブレーキの温度が伝わるからすぐにタイヤの温度が上がる。『ワンチャン、行けるかな』という希望を掛けていって、セクター1は少し落ちるけれど、セクター3でどれだけ取り返せるか。最終的には『どっちもどっち』の感じでしたね」

 その状況は平川も把握していたものの、走行前から「自分は予選Q1と同じタイミング(計測4周目)で行くと決めていました」と明かす。

「7号車は1周早かったですね。状況はライブで分かっていました。ラップタイムの情報も先に入ってきたので、それで(自分も)どれぐらい行けるかっていうのもなんとなく分かったので、その辺りは良かったのかな」と続けた平川。

「やはり富士はセクター1を速く走ろうとするとセクター3で遅くなったり、その逆もありつつ。それがハイパーポールでは7号車と8号車で……1周早く行った7号車がセクター1、2が遅く、セクター3が速くて。逆に僕らはセクター1、2が速くて最後はタレる……みたいな感じだったので。どっちもどっちだったのかなと思います」とチーム代表同様の見解を示す。

 これで週末の大きなタスクをひとつ完了した平川だが、明日の決勝は7号車ともども「予想よりも良いグリッド位置(可夢偉)」から6時間のスタートを切る。すでに平川も「スタートを切り抜けるのが1番の関門だと思います」と頭を切り換える。

「富士はスタートから1コーナーまでがものすごく長いですし、今回は僕らもあまり加速が良い方ではない。そのあたりのタイミングとか、スリップも(前がいなくて)使えないので。やはりみんなが狙ってくる1コーナーは結構、難しいと思います。でも、そこを切り抜けられれば良いレースはできると思っています」

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