「密室」が新しいメディアに 成長続けるデジタルサイネージの一角、エレベーター広告とはどんなビジネスなのか

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2024年09月17日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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エレベーターにどんな広告を出しているのか(提供:ゲッティイメージズ)

 「株式会社東京」(東京都新宿区)という企業をご存じだろうか。2017年設立のベンチャーであり、近年見かけることも多い、エレベーター広告を運用する企業だ。丸の内など都内の高層オフィスビルを中心に、同社のサービスを導入するエレベーターの台数は年々増えており、今後は中部・関西にも進出しながら全国展開を目指す方針だという。そもそもエレベーター広告はどのようなものであり、どの程度の効果があるのか。同社COOの大塚雅也氏にサービスの詳細と今後の展開について聞いた。


【画像】近未来感がすごい! エレベーター内に表示される広告(計4枚)


●出稿はBtoB企業がメイン 手持ちぶさたなエレベーター内をメディア化


 同社ではビルオーナー向けに「東京エレビGO」「エレシネマ」という2つのサービスを提供している。東京エレビGOはエレベーターホールに設置したモニターを使ったサービスである。一方のエレシネマは、エレベーター内に設置したプロジェクターを使い、扉の上部に投影する仕組みだ。都心の高層オフィスビルを中心に、現在は両サービス合わせて約3500台を設置している。


 映像として、具体的にどういった内容を放送するのだろうか。大塚氏は次のように話す。


 「6分の放送時間であれば、コンテンツ枠(2.5分)、広告枠(2.5分)、オーナー枠(1分)という形でいくつかに分けて放送します。運用は広告枠のスポンサー収入を基にしており、コンテンツ枠では最新のニュースや天気、観光地特集などを放送し、オーナー枠ではビルオーナーが放送したい内容を流しています」


 コンテンツ枠ではビジネス映像メディア「PIVOT」が制作した番組も流している。また、広告枠ではBtoB向けのコンテンツ配信が多いという。


 「オフィスビルへの設置がメインですので、広告枠はオフィスワーカー向けの広告が多い傾向にあります。出稿いただいているのは日系大手や外資などのBtoB企業で、サービス紹介ではなく企業イメージを印象付けるブランディング広告が目立ちます。特に丸の内は決裁権者も多いですから、そうした層に合わせた広告も多いですね」(大塚氏)


 エレベーター内は手持ちぶさたになりがちなものだ。扉に何か流れていれば何かと注目しがちなことから、広告としての効果は確かに大きいかもしれない。


●オーナー側のさまざまなメリット


 同社ではスポンサーからの広告料を原資に、設備の保守点検や番組制作者へのコンテンツ料に充てるビジネスモデルをとっている。基本的に広告料をビルオーナーが受け取ることはない。ビル側にとってメリットが大きいのは「オーナー枠」だと大塚氏は話す。


 「例えば、オーナー枠でビルのイベント情報を流せば集客効果を期待できます。誰も使っていなかったラウンジを紹介することで、施設の利用率を上げられたという効果もありました。その他、空きオフィスや駐輪場の情報を流すのも有効です」


 入居する企業の人たちが帰宅する夕方の時間帯に合わせて、1階の飲食店情報をオーナー枠で流すビルもあるという。テナント賃料が店舗の売り上げに比例する場合、こうした施策は効果を発揮するだろう。


 「ある食品メーカーは、オーナー枠で社訓を流しています。昔のように紙で掲示せず、メールやイントラネットで社員向けの情報を流す企業も増えていますが、見ていない社員も多いのではないでしょうか。一方、エレベーター内で流せば見る確率は高まるでしょうし、ペーパーレスとオフラインのいいとこどりが可能です」


 なお、設置費は東京社が負担するため無料。オーナー枠を活用すれば、ビル側は負担なくテナントの宣伝や社内情報の共有ができる。


●「視聴率」を高める工夫


 エレベーター広告事業を営む企業はいくつもあるが、同社によるとプロジェクターを使うのは東京社のみ。技術的にはどのような仕組みなのか。


 「東京エレビGOとエレシネマは4G回線を使って映像を流しています。設置に際して、ビル内にセンターなどを置く必要はありません。エレシネマはセンサーの感知によって、扉が閉まっている時だけ映像を流す仕組みになっています。スクリーンとなる扉の上部は白色にする必要こそありますが、ほとんどの時間は映像を流しているので、意匠性への影響も少ないです。最近は透明のフィルムを開発し、白色にしなくても映せるようになりました」(大塚氏)


 広告が効果を発揮するには、常に注目される必要がある。視聴率を上げるため、ソフト面でも工夫を凝らしていると大塚氏は話す。


 「ずっと同じものを流していると、乗客は映像を見なくなり、広告の効果は低下します。視聴率を上げるため、コンテンツ枠では毎日内容を変えています。ニュースでは朝・昼・夜と常に新しいコンテンツを流しており、ざっくり5時間ごとに内容が変化します」


●中国では主要メディア 今後はアプリとの連携も


 同社の社長を務める羅悠鴻氏によると、中国のエレベーター広告市場は日本より大きく、現地の様子からビジネスの着想を得たという。


 「中国ではエレベーター内のデジタルサイネージを手掛け、時価総額が2兆円を超える企業もあります。ケーブルテレビが多く、日本ほど地上波テレビの権威性が高くない中国において、エレベーター広告は主要な広告の一つなのです。


 日本国内に関していえば、デジタルサイネージ広告の市場規模が年々増加しており、2027年には約1400億円になる見込みです。中国での現状、そして日本国内の状況から、われわれのビジネスは将来性があると考えています」(大塚氏)


 かつてはエレベーター内の全媒体で同じコンテンツを流していたというが、現在はエリアごとに異なる映像を流している。今後は首都圏以外にも進出していくという。


 「これまで都内に注力してきましたが、今後は中部・関西に進出し、全国展開を進めながら2027年度までに1万台という目標を掲げています。テレビやラジオ、雑誌に新聞といったメディアに続き、新しいマスメディアになることが目標です。エレベーター広告を軸としつつ、アプリ広告との連携なども視野に入れながら、サービスの向上に努めていきます」(大塚氏)


 利用者が多いエレベーターといえば、タワーマンションも該当するが、住民の合意形成が難しいという問題があり、今後も主戦場はオフィスビルの予定だという。日本ではまだ成熟しきっていない市場でもあり、今後の成長に期待が集まる。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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