謎の百貨店「ボンベルタ」が、イオンリテールの新業態「そよら」に遺したものとは?

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2024年09月20日 07:51  ITmedia ビジネスオンライン

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2018年秋のボンベルタ成田リニューアル以来、1階正面玄関付近に移設となったブランド化粧品フロア(撮影:淡川雄太)

 2024年2月28日、33年間の歴史にひっそりと幕を下ろした千葉県成田市の百貨店「ボンベルタ」。流通大手、イオングループが手掛けるものの、全国的知名度は皆無に等しく、千葉県民でも知る人ぞ知る存在だった。


【画像】ボンベルタの屋号を引き継いだ「ボンベルタストリート」。「AVENUE」「Selection Sensounico」「Cour Carre an」といった百貨店常連6ブランドが立ち並ぶ(撮影:淡川雄太)


 そんなボンベルタはいま、イオンリテールの新業態「そよら」の旗艦店として、新たな道を歩み始めている。


 元々そよらは半径2キロ圏内の足元商圏に特化した都市型SC(ショッピングセンター)として、2020年から展開するが、ボンベルタを業態転換した「そよら成田ニュータウン」は、従来のそよらにはない、広域商圏型といえる専門店を多数導入するなど、大型化が特徴となっている。


 密かに姿を消したボンベルタが、新業態「そよら」旗艦店に遺したものとは――。


●ファミリー層を取り込めなかった「ボンベルタ」


 ボンベルタ成田が「そよら」に転換するに至った要因として、成田ニュータウンという商環境の変化が挙げられる。


 成田市は東京都心部と直結する良好な交通アクセスや国家戦略特区認定による規制緩和を背景に一貫して人口増加傾向にある。成田ニュータウン(敷地面積487ヘクタール)に限れば、2010年に人口減少傾向に転じたもの、造成の契機となった成田国際空港関係者を中心にファミリー層(30〜40代)の流入も続いており、ニュータウンという単語と切っても切り離せない高齢化・老朽化・限界集落化というイメージとは一線を画す賑わいがみられている。


 成田市としても2029年3月運用開始予定の成田国際空港新滑走路や2030年以降のターミナル集約に先駆け、ボンベルタ周辺一帯で公共施設の集約を核とした「(仮称)赤坂センター地区複合施設整備事業」に取り組むなど、空港関係者による需要拡大を見据えた活性化の起爆剤を準備していた。


 ボンベルタの想定客層であった高齢層(50〜60代)は、成田市の人口動態を考慮しているとは言い難いものであり、持続可能な商業施設運営に「そよら」への転換という一手は不可欠だった。


●百貨店要素を取り込んだ「そよら」


 イオンリテールは2020年3月に大阪市福島区に都市型小商圏ショッピングセンター1号店「そよら海老江」を開業。同社の業態としては珍しい、一般公募による「そら、寄って、楽しんでって!」という呼びかけ由来の施設名を冠し、「通う」「集う」「つながる場」をキーワードとして訴求。今年8月現在は東名阪三大都市圏を中心に13店舗を展開する。


 ボンベルタを業態転換した「そよら成田ニュータウン」では、同月中に開業した「そよら福井開発」(5264平方メートル)と比べ約7倍(3万5730平方メートル)という店舗面積を生かし、従来のマルエツに代わる大型食品スーパー「イオンスタイル」を核に、ワールドの「NEXTDOOR」やオンワードの「Onward Green Store」といったボンベルタ最盛期の主力百貨店アパレルを購入可能な大型アウトレット、成田初となる「TSUTAYA BOOKSTORE」「GiGO」とったファミリー層を取り込める話題性の高い専門店を新たに導入した。


 加えて、1階正面玄関付近に化粧品フロアを2018年秋以来約6年ぶりに移設、銘菓を39ブランドに拡充。3階には「nishikawa」「UCHINO Bath & Relaxation」といった生活雑貨、4階にはボンベルタの屋号を引き継ぐ高級婦人衣料フロア「ボンベルタストリート」を展開するなど、従来の高齢層を意識したブランドを続投している。そよらのコンセプト「日常生活で一番便利な生活拠点」「お子さまを連れて一番快適に過ごせる身近な施設」を基盤にしつつ、ボンベルタの高質路線を深耕する施設となった。


 そよら成田ニュータウンが、小商圏型と異なる広域商圏型といえる専門店を多数導入した背景として、宇治知英・イオンリテール執行役員南関東カンパニー支社長によると「ボンベルタ時代にお客さまから支持されたところは基本残す」といったリーシングを志向したことが根底にあるという。


 そよらは前提として小商圏型、具体的には半径2キロ圏内の足元商圏に特化したデイリーユースの施設であるが、非常に好調な既存施設の実績を交渉の材料に「百貨店販路の商品をグループを生かして存続」「カウンセリング化粧品など百貨店でしか取り扱えないブランドを社内で協議」することで、百貨店アパレル系アウトレットの新規導入、百貨店業態以外に店舗展開しないブランドの存続が実現した。


 イオンスタイルでも従来比約1.4倍の売り場面積を生かし、全国の銘店をそろえた冷凍食品や対面方式の水産・総菜売り場を導入。ボンベルタ開業以来からのベーカリー「ドンク」といった専門店とのトータルコーディネートを意識した売り場づくりを図ることで、フロアによっては従来以上に百貨店要素を強めることとなった。


●大型化進む「そよら」の行方は?


 そよら成田ニュータウン最大の特徴といえるボンベルタの遺産「ボンベルタストリート」であるが、イオンリテールとしては施設の新装開業時点において、グループ他店舗への拡大は想定していないようだ。宇治氏によると「ボンベルタ時代のお客さまを蔑ろにするわけでなく、しっかり前のいいところを遺したい」という思想に由来するという。


 一方、ボンベルタ時代からの既存店はいずれも「狙い通り好調」であり、そよら旗艦店を称する新店舗と同等の大型店候補地も社内に複数あるなど、従来以上の役割を担っていくことは間違いない。


 イオンリテールは旧マイカル系ファッションビル「ビブレ」のショップ事業を引き継ぐかたちで、直営衣料雑貨装飾店を核とする「ビブレジーン」を全国のイオン系商業施設に展開しているという実績もあり、閉店が相次ぐ地方百貨店の受け皿として、高齢層を取り込める百貨店アパレルを集積した「ボンベルタストリート」に近い業態を広げていくといった策も決して突飛な話ではない。


 成田ニュータウンのシンボルは、「そよら」の将来に新たな道を示していくかもしれない。


 (著者:淡川雄太/都市商業研究所)



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