スポンジバリアからタイヤバリアへ。年々アップデートされる安全性とサーキット側の試行錯誤

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2024年09月20日 17:00  AUTOSPORT web

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古いタイヤバリアに重ねるように、二重に配置されたタイヤバリア
 年々、安全基準が厳格になっている国内外のモータースポーツ。マシンの安全面だけでなく、コース施設の安全面もアップデートされている。

 今年も各サーキットで細かな変更点が見られたが、なかでも目を引いたのがモビリティリゾートもてぎ。8月24日・25日のもてぎ2&4レースの直前にデブリフェンスが1コーナーとヘアピンに設置された。その経緯についてサーキット側に聞くとともに、6月のスーパーフォーミュラ第4戦で大きな話題となったスポーツランドSUGOのスポンジバリア問題についても、続報をお伝えする。

⚫︎デブリフェンス設置はMotoGPの開催要件を満たすため
 まずはモビリティリゾートもてぎのデブリフェンス追加について、サーキットの担当者に聞いた。

「FIM(国際モーターサイクリズム連盟/二輪の国際統括団体)からの指摘事項の中に『MotoGP開催要件』というものがあります。毎年いろんな要求があって、それを改善することでMotoGPが開催できるというものになるのですが、今年に向けてはデブリフェンスの指摘が出ました」

「2023年のグランプリ開催中に“安全会議”が行われ、向こう側の担当者と話し合って、翌年に向けて変更が必要なところがあれば対応していくことになります」

 モビリティリゾートもてぎでは、ビクトリーコーナー立ち上がり部分の縁石が新しくなったが、これもFIM側から出てきた要望のひとつだったようだ。

 それに加えて、デブリフェンスの設置要望が強くあり、この6月〜8月にかけてFIA公認のデブリフェンス設置工事を進め、先日のもてぎ2&4レースが設置後初めてのビッグイベントとなった。

 このタイミングになったことについては、「あくまでMotoGP開催要件を満たすというのが一番大きかった」とのこと。10月の日本グランプリに間に合わせるスケジュールということで、FIA公認のデブリフェンス設置を8月中旬までに完了した。

 導入された経緯についてだが、もてぎでは昨年の2&4レースで谷本音虹郎が1コーナーでクラッシュし、約1週間後に亡くなるというショッキングな出来事があった。今回デブリフェンスが設置されたのが1コーナーとヘアピンということで、クラッシュした場所と重なることから『昨年起きたアクシデントの対策なのではないか』という憶測も飛び交ったが、もてぎ側によると関係はしていないという。

「実際にFIMがどう考えているのかは分からないですけど、デブリフェンス設置の話になった時に谷本選手の件があったからということではなく、とにかく『1コーナーとヘアピンにデブリフェンスを設置してほしい』と言われました」

 設置理由についてはFIM側に聞く必要があるところではあるが、さまざまな関係者の話に加えて、ここ数年の流れを踏まえての憶測になってしまうのだが、コースサイドで取材をするフォトグラファーを守るという目的が大きいようだ。

 実際に鈴鹿サーキットでのF1日本グランプリでも、昨年あたりからコースサイドの撮影可能エリアが変わり、スーパーGTやスーパーフォーミュラでは撮影OKな場所でもF1ではNGとなっている。

 いずれにしても、10月のMotoGP日本グランプリに向けた開催要件は全てクリアしたとのこと。「今年のグランプリ期間中に新たな課題が出てくるかもしれませんが2024年の開催要件に関しては、これでOKです」と語った。

⚫︎“スポンジバリア問題”で揺れたSUGO。スーパーGT第6戦に向けてタイヤバリア設置を進めるも「引き続き交渉中」

 コース設備というところで今年大きな話題となったのが、スポーツランドSUGOだ。今年6月のスーパーフォーミュラ第4戦開催直前になって、FIA(国際自動車連盟)側からウレタン素材で作られたスポンジバリア(=ウレタンバリア)使用不可の通達を受け、急きょ他のサーキットから借りてきたタイヤバリアを設置。開幕前夜に作業を終えてレース開催に漕ぎつけたが、決勝レースが悪天候でアクシデントも続出したことで、スポンジバリアを撤去したことに対する厳しい声がSNSでも上がっていた。

 SUGO側としてはグレード2のサーキットライセンス更新のなかで、スポンジバリアNGという指摘があり、急きょタイヤバリアに置き換える作業を実施してスーパーフォーミュラ開催に漕ぎつけた。

 その後、改めてFIAに対してウレタンバリアの必要性を主張し、JAF(日本自動車連盟)を通じてFIAに上申し、やり取りは現在も継続中とのこと。ただ「ウレタンバリアに関しては、まだ完全にはクリアになっていないです」とSUGOの担当者は語る

「つい最近返答があったのですけど、FIAからは『君たちの言っていることは分かる。ただ、懸念事項は残っているから今後も継続して検証する必要がある』という回答はいただきました。『“ハコ車”に関してはウレタンバリアを使って良いけど、フォーミュラカーに関してはOKが出せないので、通常(タイヤバリア設置)の対応をしてください』というものでした。ある程度の歩み寄りはありましたけど、こちらからの要望については継続検討という感じです」

 FIA側の見解としては、ウレタンバリアは下に車両が潜り込み、救出に時間がかかってしまうことを懸念事項として挙げている模様。特にSUGOはランオフエリアが狭いということもあり、ウレタンバリアNGを徹底させようとしているようだ。

 安全バリア等の施設面について、各サーキットのレイアウト等で求められるものは異なる模様。先述のもてぎ担当者に聞いた際も「FIAだとタイヤバリアをたくさん置くことを求めてきますし、2輪の場合はタイヤバリヤの厚みをある程取ってでもセーフティーゾーンを広げてほしいと言われます。ウレタンバリヤについても2輪と4輪で考え方などは異なってきますが、その狭間で各サーキットがいろいろ実施していて、大変なところはあると思います。ただ、もてぎに関してはセーフティーゾーンが比較的広いので、それで解決しているところは多いです」と話していた。

 その中で気になるのが9月21日・22日にSUGOで開催されるスーパーGT第6戦。このイベントではFIA F4が併載されるため、FIAが指摘するフォーミュラカー基準の対応をとらなければならない。6月に急きょタイヤバリアに置き換えた経験も踏まえて、9月の初旬ごろから作業を開始しているという。

 6月のスーパーフォーミュラ開催時はタイムリミットが迫っていたこともあり、他のサーキットからタイヤバリアを借りてきたが、当時話していた通り、SUGOは新しくタイヤバリアを購入。その本数は明かにはしなかったが、「あの後に強化しなければいけない箇所が出てきて、当初予定していた本数では足りなくなったので、多く買うことにしました」と、予定していたものよりも数を増やしたという。

 とはいえ、2輪レースの開催時にはウレタンバリアが必要となるため、その度に置き換え作業を実施しなければならない。「来年もカレンダーを決めていく中で、タイヤバリアとウレタンバリアの取り替え作業も加味したレーススケジュールを考えないといけないですね…‥」とSUGO担当者は頭を悩ませていた。

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