ニールス・ヴィティヒによると、彼がF1レースディレクターの職を突然退いたのは、決して合意にもとづいてのことではなかったということだ。
11月12日に公開されたFIA国際自動車連盟の短い声明には「ニールス・ヴィティヒが辞任した」とあったものの、ヴィティヒ自身はドイツのモータースポーツウェブサイト大手に短いコメントを寄せ、「私は辞任などしていない!」と明言した。
F1のシーズン終了までにまだ3つのグランプリが残っているなかで、ヴィティヒがその役職から外れたという事実は、彼のFIAからの離脱が慌ただしいものであったことをすでに示している。
もしも両者が袂を分かつことに合意していたのなら、ヴィティヒがシーズンを完走した後にレースディレクターの職をルイ・マルケスに引き継ぐ方がずっと理にかなっていただろう。そうすれば、過去2年間FIA F2とF3のレースディレクターを務めてきたマルケスに、この新しい役割に慣れる時間を与えることができる。
FIA会長のモハメド・ビン・スライエムが、ヴィティヒを早期に解任する準備をしていた兆候もあった。マルケスはアメリカ、メキシコ、ブラジルの南北アメリカで開催されたグランプリに呼ばれ、副レースディレクターとしてヴィティヒと緊密に協力していたからだ。以前ならマルケスは、ジュニアカテゴリーのレースがなく現場に行かないときは、ジュネーブにあるFIAのリモートレースコントロールに常駐し、ヴィティヒと現場のスチュワードが迅速かつ効率的に決定を下せるよう支援を行っていた。
UAE出身のFIA会長が、マルケスにレースディレクターとしてグランプリ運営に関するあらゆることについて“短期集中コース”を受けさせたかったのは、いまや明白だ。そしてブラジルの天候がビン・スライエム会長の計画を後押しし、マルケスはインテルラゴスで、迅速かつ効率的な変更が必要な場合に、F1がどのように運営されるべきかについて確かに短期教育を受けることになった。
マルケスの経歴とF2とF3での最近の記録を考慮すると、ドライバーとチームは、このレースディレクターの判断が過去数年間と同様に論理的で一貫性のあるものになるという確信のもと、シーズン最後の3回のグランプリに臨むことができるだろう。
しかし、ヴィティヒが解任される2年前の2022年シーズン中には、彼とレースディレクターを分担していたエドゥアルド・フレイタスが同じ職を解かれている。そのため、マルケスは3年足らずでF1の4人目のレースディレクターとなるわけだが、このことはFIAの構造に何か深刻な問題があることを明確に示している。
3年ほど前にビン・スライエムが会長に就任してからというもの、レースディレクターが頻繁に交代するという異例かつ不健全な状況以外にも、多数のトップ役員が連盟を去るなど組織内には安定性が欠如しており、商業権利保有者が事実上F1を意のままに運営することを許してしまっている。内部の政治がビン・スライエムの仕事の遂行を妨げているのは明らかだろう。