「夫が3年前に亡くなり、このまま独り暮らしを続けるのも心細い。かといって子どもの世話になるのも気が引けるので、高齢者も入れるシェアハウスで暮らすことにしたんです」
そう語るのは、“高齢者用のシェアハウス”に入居する都内在住の女性、Aさん(65歳)。
一般的に“シェアハウス”とは、一戸建てや集合住宅で自分専用の部屋を持ちつつ、キッチンやリビングなどは、ほかの住民と共有しながら生活する居住形態のこと。
比較的、初期費用や家賃を低く抑えられ、水道光熱費などもシェアすることで負担が軽減される。なによりも、住民同士の交流が生まれ、「独りではない」という安心感を得られるのがメリットだ。
「ここ数年、高齢者用のシェアハウスが増加しています。2年前の時点で全国に50軒ほどあったので、もっと増えているはず」
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と話すのは、高齢者住まいアドバイザー協会の満田将太さん。こう続ける。
「配偶者との離婚や死別、子どもの独立などを機にシェアハウスに入居される方が多いですね。
最近は、65歳を過ぎてもみなさん元気ですから、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)や老人ホームに入るには早いし、費用もかかる。
かといって独居を続けるのも不安という方に、比較的賃料も安く、入居審査も通りやすい高齢者向けシェアハウスのニーズが増えているようです」
実際に、独居の高齢者は増え続ける。11月12日に国立社会保障・人口問題研究所が公表した推計によると、全国で75歳以上の単独世帯は2050年には704万人と2020年の1.7倍に。都道府県別で見ても、2050年には山形(18.4%)を除く全都道府県で20%を上回る。
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75歳以上の約5人に1人が独り暮らしになることになる。
■外国人女性が自国料理を入居者に振る舞うことも
ひとくちに“シェアハウス”と言っても、その特徴はさまざまだ。
2021年オープンの「コモンフルール」(大阪府)は、60代以上の女性と外国人女性のためのシェアハウス。
現在、1階の3室には60代の女性が、2階の6室には、日本語学校の学生など台湾、韓国、インドネシアの女性が入居中だ。
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「1階、2階にはそれぞれキッチン、トイレ、バス(2階はシャワールーム)があり、階ごとに共用しています。
各部屋には家具を備え付けてあり、一般的なワンルームマンションより、バス・トイレ・キッチンなども広々としています」(管理事務局・松尾重信さん)
外国人女性が、自国料理を作って入居者にふるまったり、社会福祉協議会と共催し、1階のリビングスペースで地域のクリスマス会を開催したこともあるという。
「自立していることが入居条件ですが、入居後に介護が必要になった場合は、地域の訪問介護サービスを利用しながら生活できるうちは、居住が可能です」(松尾さん)
家賃は、60歳以上女性で48,000円(共益費:12,000円)、敷金は賃料の1カ月分で礼金はゼロ。
サ高住に入居した場合、入居一時金が10万〜20万円、月額利用料が食費や光熱費込みで約15万〜16万円かかる。これに比べると費用は安い。
2021年にオープンの「ノビシロハウス亀井野」(神奈川県)は、学生から高齢者まで、互いに支え合って暮らす“多世代型コミュニティ住宅”だ。
全8戸のワンルームアパートと、カフェやランドリーなどのコミュニティスペースや、地域医療を担うクリニックが入る別棟を渡り廊下で結んでいる。
「年齢や性別は不問ですが、すべての入居者には月に一度のお茶会への参加と、若者の入居者には、お茶会の主催と高齢者へのお声がけをしていただくことなどが入居条件です」(ノビシロハウス代表取締役・鮎川沙代さん)
2部屋のみ若者限定で、彼らの賃料(35,000円)は高齢者の賃料(70,000円)の半額に抑えられている。その分、高齢者への声がけや、月に一度、地域の医師も参加する“お茶会”のコーディネートをしてもらう。
「現在、70代女性3人、90代女性1人、90代男性1人、学生2人が入居されています。高齢者施設が合わなくて転居された方や、借りられるところが見つからず、こちらに入居を決めた方もいらっしゃいます」(鮎川さん)
入居審査は、高齢者一人ひとりの事情に寄り添って行う。
「年金収入等が少なくて保証会社の審査に通らない場合でも、当社で審査をして預貯金などの観点から支払能力があると判断すれば、ご入居いただけます」(鮎川さん)
むしろ重要なのは、コンセプトを理解してくれるか、という点だ。
「まず、月に1回のお茶会に体験参加していただき、お互いに合うかどうか判断します」(鮎川さん)
■最期まで家族のような関係で生活することができる
入居者が、要介護や認知症になった場合は、どうなるのか。
「うちには、入居される前から認知症の方もいらっしゃいます。
その方に関しては、たとえばデイサービスの曜日をみんなで共有して、ちがう日に出かけようとしていたら、入居者同士で声がけするなどして生活されています。
また、入居者や地域医療の看護師などでグループLINEをつくり、雑談や日々の困り事なども共有しています」(鮎川さん)
つまり、入居者同士のつながりや地域医療・介護の手も借りながら、最期まで家族のような関係の中で生活できるというわけだ。
「数年前に、ここで入居者の方をお看取りしました」
と話すのは、2015年にオープンした高齢者シェアハウス「むすびの家」(千葉県)のオーナーで住人でもある田中義章さん。
「助け合って暮らせる住宅をつくりたい」と70代で一念発起して建てた。キッチンやバス・トイレは各自室にあり、リビングは共用だ。
家賃は、45,000〜60,000円。現在は、田中さんご夫婦含め計8人が入居し、平均年齢は80歳を超える。
「毎朝、みんなで体操をして、午後には一緒にお茶を飲みます。また、定期的に車で買い物にも行きます。以前は、自家菜園などもしていましたが、みんな歳をとりました」(田中さん)
入居者みんなが高齢になるなかで、「どこまで支え合えるか」と、いう懸念はあるという。
シェアハウスで気がかりなのは、入居者同士のトラブルだ。
「1階に住む60代の女性から『2階の足音が気になる』という声もありましたが、入居者同士が親しくなるにつれ、それもなくなりました。『むしろ“孫の足音”のように感じて愛おしい』と、おっしゃっています」(前出・松尾さん)
一般的に多いのは、「掃除の仕方やゴミの出し方にまつわるトラブル」(前出・満田さん)だ。
「『Aさんの掃除はいいかげんだ』『Bさんはゴミの分別をちゃんとしていない』などと、細かい点でいさかいが起こることもあります。
そんなときは、管理人が間に入って、コミュニケーションをはかっているようです」(満田さん)
つまり、少々のトラブルがあっても、話し合って解決する“コミュ力”が問われるというわけだ。
「選び方のポイント」はあるのか。
「事前に交流会などに参加して、自分に合うか雰囲気を確かめておきましょう。また、要介護になっても住み続けられるかという点もチェックしておきたいですね」
入居のしやすさ、生活費などのお得さ、特に人のぬくもりが感じられるシェアハウス。“終の棲家”として選択肢に入れてみてはいかがだろうか?
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