日本人の死因第1位のがん。海外でもがん患者は増加傾向にあり、がんに関するさまざまな研究が世界中で行われている。特に、食べ物とがんに関する研究が盛んで、がんになるリスクを下げる食材が最新研究でわかってきたという。がん専門医である帝京大学福岡医療技術学部教授の佐藤典宏先生に話を聞いた。
最新研究でわかった“抗がん効果”
「がんと食事に関する情報はインターネットや書店にたくさんあります。たとえば、にんじんジュースがいいとか、クエン酸を摂取するのがおすすめとか、アルカリ性の食べ物が効く、などです。特に、にんじんジュースはがんの食事療法として有名なゲルソン療法ですすめられているので、がんに効く食材として真っ先に思い浮かべる人もいるでしょう。
ただ、にんじんは糖質を多く含む野菜なので大量に食べるのはおすすめできませんし、ジュースだと健康にとって大事な食物繊維が取り除かれている場合が。『がんにはにんじんジュース』という考え方は古いと言っていいと思います」(佐藤先生、以下同)
これまでは食事の研究にお金を出す企業は少なく、研究費不足でがんと食事に関する研究はあまりされてこなかったという。だが、近年、アメリカやヨーロッパを中心に食事が関係している大腸がんが増えているため、食事の研究にも研究費がつくようになった。
「以前にはあまりなかった食事に関するデータが増え、さまざまな“抗がん作用”ともいうべき効果のある食材が科学的に認められてきたのです」
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たとえば、抗酸化作用のあるキャベツやブロッコリー、炎症を防ぐさばやいわしといった魚、がん細胞の成長を邪魔する働きがある大豆など。
「がん細胞を一気に消してくれる魔法のような食材はありませんが、がんに対していろいろな角度から効果を発揮する食材があるので、それらの食材をバランスよく毎日の献立に取り入れると、がんの予防に役立つことは間違いありません」
さらに、がんにかかった患者さんにもうれしい研究結果が。1000人以上のがん患者さんの食事内容を詳しく調べた結果、どんなものを食べたかでその後の生存率が変わってくることも判明したのだ。
がんを予防したい人にも、がんになっても長生きしたいと考えている人にも、おすすめの“抗がん食材”。具体的な食材名と効果を佐藤先生に教えてもらおう。
佐藤先生おすすめ“抗がん食材”10選
1 キャベツ
「キャベツなどのアブラナ科の野菜には、植物が有害なものから自分の身を守るためのファイトケミカルという成分が豊富に含まれます。その一種のスルフォラファンには強力な抗酸化作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑える働きがあります。
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季節を問わずに店頭に並んでいて安価なキャベツは最も身近な抗がん食材です。冬が旬の芽キャベツにも抗がん成分は含まれていますよ」
2 ブロッコリー
「ブロッコリーは強い抗酸化作用のあるアブラナ科の野菜。特にブロッコリーの新芽であるブロッコリースプラウトには多くのスルフォラファンが含まれていて、最強の抗がん食材だと言えます。
ブロッコリーはスーパーなどに小房にわけて冷凍されているものが売られているの
で、それを冷凍庫に常備しておくと便利です」
3 玉ねぎ
「玉ねぎをはじめとしたアリウム属の野菜には、ポリフェノールの一種で、強力な抗酸化作用を持つケルセチンという成分が豊富なため、抜群の抗がん作用があります。
ケルセチンはアスパラガスや緑茶などにも含まれていますが、加熱しても壊れにくいため、いろいろな料理に使うことができる玉ねぎがケルセチン摂取に最も適した食材だと言えます」
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4 にんにく
「アリウム属の野菜を代表するにんにくには、二硫化アリルという成分が含まれていて、その成分の抗酸化作用と抗炎症作用によって抗がん効果が期待できます。
大腸がんとにんにくの複数の研究をまとめた分析では、にんにくを多く摂取する人は大腸がんのリスクが25%減っていました」
5 大豆
「がん細胞は、新しい血管を作り出す血管新生という働きを活性化させて成長しますが、大豆イソフラボンの一種であるゲニステインという成分には、血管新生を邪魔してがんを防ぐ効果があります。
また、みそや納豆などの発酵大豆食品には善玉菌が多く含まれていて、腸内環境を整える働きもあります。腸内環境は全身のがんとも関係しているのでおすすめです」
6 きのこ
「きのこ類に含まれるβグルカンという成分は免疫力を高める働きがあり、がんなど、さまざまな病気の予防に効果的です。
なお、きのこ類の特定の成分を含むサプリメントが“がんに効く”という触れ込みで売られていますが、効果があるという科学的根拠は一切ないため、きのこそのものを食べるのをおすすめします」
7 脂ののった魚
「さば、いわしなどの脂ののった魚には、オメガ3脂肪酸が豊富です。オメガ3脂肪酸は、がんの原因や進行の要因になる炎症を抑える働きがあり、がんリスクの低下に効果的。
オメガ3脂肪酸はさばなどの青魚を中心に、まぐろのトロやホッケ、ぶりなど、脂ののった魚に多く含まれています。生魚はもちろんですが、さばやいわし、カラフトマスの缶詰にも多く含まれているので手軽に摂取可能です」
8 海藻
「昆布やわかめ、めかぶといった海藻類に含まれるフコイダン。コレステロールや血圧を下げるのに加え、がん細胞が増えるのを抑える抗腫瘍効果や、がんの成長に関わる血管新生を阻害する効果が。
また、抗がん剤や分子標的薬など、がんの治療薬の効果を高めるといううれしい報告も。がん治療中の人にもおすすめの抗がん食材です」
9 トマト
「トマトに含まれるリコピンという成分には強力な抗酸化作用があり、コレステロール値の改善など、生活習慣病の予防に役立ちます。海外の研究では血液中のリコピン濃度が高い人は、脳卒中のリスクが50%以上低下したとのこと。
さらにリコピンは、がん細胞が増殖するのを抑制したり、がん細胞の成長に必要な血管新生の阻害に働きかけたりして強力ながん予防効果を備えていると考えられています」
10 にんじん
「がんに効くイメージの強い、にんじん。βカロテンを多く含むにんじんは実際にさまざまながんのリスクを減らす作用が認められています。
なお、にんじんジュースががんに効くという情報が流布していますが、野菜の中では比較的糖質が多いため大量にとるのはおすすめできず、また、ジュースにすると大事な食物繊維が取り除かれてしまうため、調理して食べるのをおすすめします」
これらの“抗がん食材”を日々の献立に取り入れれば、確実にがんのリスクを下げることができる。どれも身近なスーパーマーケットで手に入るものばかり。ぜひ今日から意識したい。
佐藤典宏先生●がん専門医。九州大学医学部卒、帝京大学福岡医療技術学部教授。著書に、“抗がん食材”を使ったレシピ集『がんにも勝てる長生き常備菜』、『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)など。