三重県の鈴鹿サーキットで行われている2024全日本スーパーフォーミュラ選手権の公式/ルーキーテスト2日目。この日はレギュラー参戦していないドライバーやルーキーの参加も増え始めていたが、その中で念願のスーパーフォーミュラを初ドライブする機会を得たのが小山美姫だ。セッション後のメディアミックスゾーンでは涙も見せた小山に、初走行の感想を聞いた。
■シートに座った瞬間に集中モードに変わった
当初はルーキードライバー限定の3日目に乗る予定だった小山だが、急きょ予定が変更となり2日目のセッションでKids com Team KCMGの8号車を担当することに。
午前のセッション3前に一度マシンに乗り込んでステアリングのスイッチ類を再確認。セッション開始直後に赤旗が出たため、ピットで準備を進め、再開後の10時13分にコースインした。
「テスト初日からピットビューイングなどでファンの方がたくさん声をかけてくれたので、乗る前の段階では感慨深かったというか『ついにこのマシンに乗り込める時が来たんだ!』という感謝と嬉しい気持ちがありました。(セッション前に)マシンに乗る時もフォトグラファーの皆さんがいてビックリして……あんなに囲まれたことがないので、逆に緊張しましたね(苦笑)」と小山。
「でも、シートに座ったら『テストが始まった!』という感じで、集中モードに入っていました」と、ピットアウトの瞬間は感傷に浸ることなく、走行のことに集中していたという。
改めて、SF23に初めて乗った感想を聞くと「速いですね」と小山。「正直、アクセルを踏んだ瞬間に『パワーがあるな』と思いましたけど、フォーミュラEに乗らせてもらって、パワーがあるクルマに対しての感覚がありました」。
「あとは、ちょっと速度を上げるだけで発生するダウンフォースが……今までにないものでした。それも(実際に)乗ってみて分かることでした。S字でも吸い付く感じがあって『ダウンフォースってこれなんだ』と思いました」
午前中のセッションでは一番最後にニュータイヤを装着する予定だったが、ジェームス・ヘドリーがコースオフを喫して赤旗が出され、そのままセッション終了となったため、ニュータイヤでのアタックは午後へ持ち越しに。午前はベストタイムはユーズドタイヤで記録した1分39秒867だった。
午前のセッション終了後に話を聞くと「まだ自分の運転についても詰めていっている最中で、午前中はニュータイヤを1セットも履いていないです。午後はもうちょっといけるかなと思っています」と小山。
「クルマも良いですし、チームの皆さんも凄く良くしてもらっています」と、午後のセッションに向けて自信をみせていた。
気になる午後のセッション4では、午前の赤旗終了で使えなかった分も含めてニュータイヤが3セット残っている状況。アタックラップでは徐々にタイムを上げていき、残り30分のところで1分38秒996をマークした。
そしてニュータイヤを装着した最後のアタックでは全セクターで自己ベストタイムを更新し、1分38秒078を叩き出した。
惜しくも1分37秒台には届かなかったが、トップから2.481秒差で今季FIA F2でレースをしたファン・マヌエル・コレアとは0.015秒差という結果を出した。
参考までに記しておくと、女性ドライバーのJujuは、昨年のこのテストで6セッション走行し、4セッション目で記録した1分38秒539がベストタイムだった。
■乗る前の覚悟と、テスト後の心境の変化。流れ落ちた涙
1日のテストを終えてメディアミックスゾーンに登場した小山は「セッションが終わった直後は『この機会をもらえて良かったな』と思えたと同時に、(1分)37秒台に届かなかったことが悔しくて……『ありがとう』と『悔しい』が入り混じった涙が出ました」とコメント。1分37秒台を出したかったという想いが強かったようだ。
「今日最初に乗ってみた感触だと『最終的に(1分)37秒台はいきたい』と思っていました。最後のアタックに入る前に(1分)38秒台に入れていたかったですけど、それまでにニュータイヤを履いたタイミングで赤旗が続いていました」
「コースアウトやクラッシュなく走り切ったところなども周りの皆さんがちゃんと見てくれていて『まだまだ先(タイム更新の可能性)はあるね』と言ってもらえました。評価は周りがすることなので、そう言ってもらえたことが良かったです」
「そもそも(テストに)乗れなければ、そんな経験や結果も生まれなかったこと。自分の人生の中で一番速いクルマに乗れて、この鈴鹿を走れました。今まで応援してくれた皆さんも日程合わせて来てくれたりしたので、皆さんの前で走れて良かったです」
彼女にとってはまさに夢が叶ったと表現しても良いような1日。「充実した1日になりましたか?」と聞くと、(筆者が目頭を熱くしていたらしく、それにつられたそうだが)小山が思わず感極まるシーンがあった。
「F4の時から取材してもらっている皆さんに囲んでもらって『この取材ってF4ではなくて、スーパーフォーミュラなんだな』と思っていたら……」
とめどなくあふれる涙を拭いながら、小山はこう続ける。
「正直、乗る前は『最初で最後かな』と自分でも覚悟して、みんなに(テストで乗ることを)報告していました。親も呼びましたし、なかには仕事を休んで見に来てくれていた人もいました。こうやってチャンスをもらえて走ることができて、本当に感謝しかないです」
「あとは今回の機会を作ってくれた人がたくさんいるので、そういう人に恥をかかせないような走りをしなきゃいけないなと思っていました」
もちろん、今回テストに参加したことで今後参戦の可能性が出てくるかどうかは難しいところではあるが、彼女自身のなかでは『次はもっとこうしてみたい』という想いが出ているのは確かなようだ。
「自分にとっては乗れることだけでも本当にありがたいことです。だけど、いざ乗ったら……レースに出たいし、もっと乗りたいです」
「いまが2秒落ちなので、ここから詰めていくのが大変だと思います。そういう過程を踏んでいきたいし、そこからのステップが本当の勝負だと思うので、そこをやってみたいなと思いました」
「今年はいろいろな人のおかげで本当に良い経験ができたので、これ以上のものはないです。本当に感謝しています」