スキー場の“倒産件数”は過去最多でも「なぜか好業績」のスノーリゾート会社の存在。稼ぐのは“冬だけ”じゃない

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2025年01月10日 09:20  日刊SPA!

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写真はイメージです
 ウィンタースポーツの季節が到来すると、株式市場では「雪が降れば儲かる企業」として注目を集める銘柄があります。なかでも代表的なのが、日本スキー場開発(以下、日本スキー)です。スキーやスノーボードの集客増がわかりやすく業績に結びつくため、多くの投資家から期待されてきました。
 現在、スキー場ビジネスを取り巻く環境が厳しいことは周知のとおりです。暖冬による雪不足や国内スキー人口の減少、そしてレジャーの多様化によって、多くのスキー場が閉鎖に追い込まれたり、施設が老朽化して“スラム化”の危機に瀕したりしているのです。帝国データバンクによると、2023年のスキー場の倒産件数は過去10年で最多の7件です。

 かつては1970年代後半から1990年代前半まで続いたスキーブームですが、その後の日本経済の不況と共に衰退を続け、閉鎖されたスキー場の跡地は荒れ果て、地域経済に悪影響を及ぼしているケースも珍しくありません。経営を続けるには、ゲレンデやリフトの設備更新、周辺施設の整備など、多額のコストを投じていく必要があります。

 その点、“雪が積もったときだけ”に頼るビジネスモデルではなく、通年型の経営戦略によって高い評価を得ていることこそが、同社の強みといえるのです。2024年12月26日には株価が年初来高値を更新し、その勢いは冬季シーズンのみならず、年間を通じた収益拡大への期待を示唆しています。

 そこで今回は「冬だけじゃない山岳リゾート」の実力にスポットライトを当てつつ、日本スキーがどのように“オールシーズン”で稼ぐ体制を築いてきたのかを探っていきたいと思います。インバウンド需要の取り込みや大規模投資によるリフト・施設リニューアル、そして次世代の顧客育成など、多彩な取り組みが軸となっています。華やかなウィンターシーズンのイメージの裏側で、雪不足や人口減少という厳しい現実にどう対応してきたのか。その戦略と今後の展望をひもといていきます。

◆ストック急上昇! “スノー”だけじゃない会社の実力

 日本スキー場開発の株価は2024年末にかけて順調に上昇し、12月26日に年初来高値を更新しました。その背景には、国内のスキー人口減少や雪不足が叫ばれるなかでも、好調な業績を続けている事実があります。2024年7月期の連結決算においては、売上高82億4500万円と前年同期比で約20%増加し、営業利益は50%増と大幅に伸びました。最終利益を含め、すべての利益段階で過去最高を更新しています。

 これほどまでの成長がウィンターシーズンだけで実現できるはずはありません。日本スキー場開発は、長野県の白馬や鹿島槍、竜王といった複数のスキー場を買収し、グループとしての「年間を通じた」山岳リゾート体験を提供できる体制を整えてきました。雪のない季節にも絶景やアクティビティを求めて訪れる人々の需要を取り込み、ゴンドラリフトのチケット収益を柱とした運営を行っているのです。

 ウィンターシーズン以外の“グリーンシーズン”での売上高は全体の約3割に達しているとも言われています。これが年間を通じての収益の底上げにつながり、安定経営を可能にしているのです。

◆「雪のシーズンが始まると株価が上がる」という先入観を超えて

 スキー場運営企業と聞くと、多くの投資家やアナリストは「雪のあるときだけ儲かる」というイメージを抱きがちです。たしかに以前は、降雪量が多いシーズンにいかに集客できるかが利益を左右していました。しかし日本スキーは、この“冬のみ”のビジネスモデルから脱却しようとしてきました。

 その象徴が、夏や秋にも絶景やアクティビティを提供する取り組みです。長野県の白馬エリアでは、山頂や中腹のテラスから見下ろす壮大な景観や、空に向かって大きくこぎ出すような巨大ブランコなどがSNSで話題を集めています。紅葉シーズンにはゴンドラ乗り場に長蛇の列ができ、1時間以上待つことも珍しくありません。これまではウィンタースポーツとは縁遠かったファミリー層やペット連れのお客さんが多数訪れるようになり、秋口でも活況を呈しているのです。

 こうした成功事例によって「雪次第」という先入観が払拭され、“通年で収益を伸ばせる企業”として評価されるようになっています。

◆なぜ日本スキー場開発がここまで注目を浴びているのか――年初来高値の要因

 日本スキー場開発の株価が年末にかけて高値を更新している理由として、いくつかのポイントが挙げられます。

1.観光需要の回復とインバウンド拡大
新型コロナの影響が落ち着き始め、海外からの観光客が再び増加しています。欧米やオセアニア地域からのスキー客が戻るだけでなく、アジアから訪れる旅行者も増えています。日本らしい雪山の景色と観光を同時に楽しめる点が高評価を得ているのです。

2.グリーンシーズンの集客強化が成功
ウィンター以外の時期に魅力的なアクティビティを用意し、リフトチケット売上を確保する戦略が功を奏しています。絶景テラスやアクティビティ施設によって、一年を通じて賑わいを生み出しているのです。

3.国際水準のホテル誘致と再開発構想
白馬村に保有していた土地を一部売却し、高級ホテルを誘致する動きや、大型ゴンドラリフトの導入など、地域全体を再開発しようという積極的な姿勢が投資家の期待感を高めています。

◆絶景とアクティビティで客を呼ぶ“オールシーズン”戦略

 日本スキー場開発の“オールシーズン”戦略を最もわかりやすく示しているのが、長野県・白馬エリアでのリゾート展開です。「白馬岩岳マウンテンリゾート」では、冬場には国内外からスキー・スノーボード愛好家が集まり、大いに賑わいます。特に売上の約6割を占めるゴンドラリフトチケットの収益性は経営を支える柱となっています。こうした“雪のない季節”でもフル活用できるオールシーズン戦略によって、観光客を呼び込むことに成功しているのです。

◆インバウンド需要を“いかに取り込むか”が勝負の鍵

 グローバルな観光需要が高まる中、インバウンドをどう取り込むかはスキー場運営においても重要なテーマです。日本スキー場開発の2024年7月期ウィンターシーズンの来場者数(主要7スキー場合計)は165万人と過去最高を更新し、そのうちの約35%がインバウンドです。これは新型コロナの影響が落ち着き始めたとはいえ、以前の水準を上回る数字です。

 一方で、課題として顕在化しているのが宿泊施設の不足です。白馬村には古くからのペンションが多く存在しますが、海外からの富裕層やラグジュアリー志向の客層に対応できるホテルの供給が追いついていない状況です。そこで日本スキー場開発は、2024年9月に子会社が保有する固定資産を売却して、その資金をもとにハイグレードなホテルの誘致を進める方針を示しました。譲渡益として約12億円を得ており、これを再開発の原資とすることで、宿泊施設や山麓エリアの魅力を一段と高めようとしているのです。

 豪華ホテルやリゾート施設が増えれば、インバウンドのさらなる需要取り込みが期待できます。同時に、地域経済の活性化にもつながるでしょう。特に白馬は、国際的にもスノーリゾートの知名度が高まりつつあるエリアです。こうした戦略的な誘致が加速すれば、ますます観光客が増え、業績拡大の好循環が生まれる可能性があります。

◆スキー人口減少時代にどう挑む? “次世代”顧客獲得への地道な種まき

 日本国内に目を向けると、長らく続くスキー人口の減少がスキー場経営にとって深刻な課題となってきました。若年層のウィンタースポーツ離れが顕著で、かつてのスキーブームを知る世代からすれば、ゲレンデの賑わいは大きく様変わりしています。

 このような状況を踏まえ、日本スキー場開発は「子ども向けプログラム」の充実に力を入れています。初心者に配慮した緩斜面の整備や、レッスンをしっかり受けられるスクールプログラムを用意することで、ファミリー層が子どもを連れて気軽に訪れやすい環境を作ろうとしているのです。

 こうした地道な取り組みは、今すぐには大きな数字に結びつかないかもしれませんが、将来的にウィンタースポーツ人口を底上げする重要な施策です。全国的にスキー場の閉鎖や統廃合が相次ぐなか、勝ち残るためには“次世代の顧客”を育てることが欠かせません。日本スキーが積み上げているノウハウは、今後の国内スキー市場を下支えする一つのモデルケースになることが期待されます。

◆新時代のリゾート戦略は地方をどう変えるのか

 冒頭にあげたとおり、2023年のスキー場の倒産件数は過去10年で最多の7件。日本スキー場開発はこの難局に対し、M&Aを積極的に推進してスキー場を買収・再生し、リニューアル投資を行うというアプローチをとってきました。例えば「白馬岩岳マウンテンリゾート」では、約21億円を投じてゴンドラリフトを刷新し、1時間あたりの輸送能力を1350人から最大2460人まで引き上げました。乗車時間も1分程度短縮されることで、利用者の快適度が格段に向上しています。こうした設備投資が利便性を高めることでさらなる集客が見込める要因となるでしょう。

 かつてスキー場は「雪が降らないと成り立たない」というビジネスモデルと考えられてきました。しかし日本スキー場開発の事例は、山岳リゾートが“四季を通じて”魅力ある観光資源になり得ることを証明しています。自然環境を最大限に生かしつつ、インバウンドや新たなファミリー層を呼び込み、地域の再開発にも挑戦しているのです。

 実際に、白馬エリアではラグジュアリーホテルの誘致に向けた動きや、山麓の施設整備など、グローバル水準のリゾート地へとアップデートするための大規模投資が続いています。またスキー人口が減っている日本では、ウィンタースポーツだけでゲレンデを支えていくのは難しくなりつつあります。だからこそ、“夏や秋でも集客できる”経営戦略が、今後ますます重要になってくるはずです。日本スキーが掲げる中期計画でも、「次世代の育成」や「訪日外国人需要の取り込み」を重点項目として位置づけており、長い目で見た持続的な成長を目指しています。

 かつてのスキーブームは過ぎ去り、逆境だからこそ、“通年型”リゾートの可能性を最大化する機運が高まっているのです。雪不足や人口減少の課題を乗り越え、世界をも魅了する山岳リゾートへと進化していけるのか。日本スキー場開発の今後の動向は地方経済を活性化する大きなヒントになるかもしれません。

<文/鈴木林太郎>

【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist

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