移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
◆顔に雪が飛び散って…
「冬の道は『転ばないように』と神経を使いながら駅に向かわなければなりません。駅に着く頃にはもう“ヘトヘト”なんです」
雪国に住んでいる片岡三奈さん(仮名・30代)は、電車内で常識外れの人に遭遇したそうだ。
「私は、電車を待つ行列の1列目に並んでいました。そこに10代くらいの女性が割り込んできて、本来私が座れるはずだった“端の席”に座ったんです」
アウターにはたくさんの雪がついており、脱ぐタイミングで片岡さんの顔には雪が飛び散った。
「せっかく身なりを整えてきたので、ウンザリしましたね。冬はみんなが厚着をしているので、着ぶくれ状態です。メイクが崩れていないか確認したくても、カバンをゴソゴソすると隣の人に肘がぶつかるので断念せざるを得ませんでした」
◆ただただ人を苛立たせる天才
降りる駅まで苛立ちながら、電車に揺られるしかなかった片岡さん。しかも、女性の香水のニオイがキツかったそうだ。
「20分ほど香水のニオイに耐えました。目的の駅に着いたのですが、その女性と降りる駅が一緒だったときは、『こいつもかよ』と内心思いました。満員電車なので、基本的に出口付近の人から降りるじゃないですか。でも……」
その女性は、我先にと出口に向かったのだとか。
「彼女の荷物は多かったので、周りの人にぶつかりながら降りていました。ただただ人を苛立たせる天才だなと思いました」
ぶつかられた人たちは、「なにこの子」と言わんばかりの顔をしていた。女性の行動は、最後まで迷惑でしかなかったという。
◆「なぜ“マタニティマーク”を隠さなければいけないの?」
「妊娠中の通勤時に経験したムカついた話です」
鈴木湊さん(仮名・20代)は、電車で1時間ほどかけて通勤していた。まだ妊娠初期でお腹が目立たない頃だったため、電車の中でつわりや貧血によって立っていることが辛いときが何度もあったという。
「“マタニティマーク”をカバンにつけて通勤していました。満員電車なので、座ることが難しい日も多かったですし、優先席に座るのも気が引けて座れませんでした」
それでも、マタニティマークを見て席を譲ってくれる親切な人もいたそうだ。
「その際は、お礼を伝えて座らせていただいたことも何度かあり、本当に助かりました」
しかし、中には“ありえない発言”をする人もいたそうで……。
「座席譲ってほしいアピールウケる」
「幸せアピールかよ」
と明らかに鈴木さんに対して言う声が聞こえてきたという。
「女性の2人組でしたね。そのときはムカつくというよりも、視線が痛くて怖かったので、すぐにマタニティマークを隠して車両も変えました。でも、後々思い返すと、マタニティマークをつけているのがそこまで恥ずかしいことなのか、他人を不愉快にさせてしまうものなのか、なぜ私がマタニティマークを隠さなければいけないの?って憤りを感じました」
◆暴言を吐かれたのは自分だけではない…
暴言を吐かれたのはその日だけではない。別の日には……。
「誰もそのマーク見てねえよ」
とすれ違いざまに睨まれながら言われたこともあったのだとか。
「友人にそのことを相談したんですが、友人を含めて同じような経験をした女性が何人もいることがわかりました。本当にびっくりしました」
鈴木さんは、なぜ妊婦がこのような思いをしなければならないのか、今でも不思議で不愉快だと話す。
「私は、電車を使うことをなるべく控えて車通勤に切り替えました。マタニティマークをつけることさえもやめました」
お腹が大きくなってからは、マタニティマークをつけていなくても親切に声をかけてくれる人もおり、暴言を吐かれるばかりではなかったという。ただし、今後、マタニティマークやヘルプマークをつけた人が、同じような思いをしてほしくないと、鈴木さんは切実に訴える。
「電車がもっと快適に利用できる場所になるとうれしいですね」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない言動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
―[乗り物で腹が立った話]―
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。