『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』東畑 開人 KADOKAWA 「子どもが学校に行けなくなる」「パートナーが夜眠れなくなる」「友人から『もう死んでしまいたい』と連絡が来る」――そんなふうに、身近な人の具合が悪くなり、期せずして彼らのこころのケアを始めなくてはならないことが、人生には起こり得ます。「突然の雨に降られている方々に向けて、あるいは長雨の中で日々を過ごしておられる方々のために、心理学の授業をしてみよう」との思いからまとめられた一冊が、臨床心理士の東畑開人さんが著した『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』。相手の具合が悪いとき、病んでいるとき、非常事態のときに、どのように対処すればこころのケアができるのかが全五日の授業スタイルでわかりやすく語られています。
たとえば、私たちが身近な人にかける「頑張ったね」という一言。相手がそれなりに元気で調子がよいときにはきちんと伝わるものですが、調子が悪くなったときにはこころが特殊な動き方をしてしまい、相手を傷つけたり追い込んでしまったりすることがあります。ケアするほうとしては、まずはこのような具合の悪いとき(同書で言う「雨の日」)のこころを理解する必要があると東畑さんは記します。
そこで授業の一日目と二日目で展開されるのが、こころのケアとは何か、雨の日の心理学とは何かという理論的なところ。続く三日目と四日目は、どのようなケアをすればよいのかという具体的な技術が説明されます。なかでもケアする側にとって大切な力となるのが「きく技術」と「おせっかいの技術」とのこと。同書ではじゃんじゃんしゃべってもらう目的の「聞く」と、隠されている声を聴くための「聴く」を実践する際のポイントや、本人の孤独を減らすような「助かるおせっかい」の方法などについて解説されています。また、最後の授業となる五日目は少し視点を変えて、ケアする人が元気でいるためには何が必要かという点にも触れられています。
今まさにサポートが必要な家族や友人に寄り添っている人だけでなく、すべての人にとって有用な一冊です。なぜなら、東畑氏が「正常と異常はすべての人において同居している。オセロの盤面みたいに、僕らのこころにはその両方がそのときどきのバランスで共存しています」(同書より)と記すように、誰でもバランスを少し崩すだけで心を病んでしまう可能性があるからです。いつ予想外の雨が降っても大丈夫なように、同書を読んで備えておくとよいかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]
『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』
著者:東畑 開人
出版社:KADOKAWA
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