【写真】“夫婦役”な雰囲気そのまま 松たか子&松村北斗、撮りおろしショット
■坂元裕二の脚本が特別な理由とは「気づいたら血だらけ…みたいな役が多いかも(笑)」(松)
お互いに好き合って結婚しながらも、いつしか気持ちがすれ違ってしまった中、夫が事故死。ひょんなきっかけからタイムトラベルする術を手に入れた妻が、亡くなったはずの若かりし姿の夫ともう一度恋に落ち、15年後に事故死してしまう彼を救おうとする姿を描く。夫と出会う日にタイムトラベルをする主人公・硯(すずり)カンナを、松。カンナの夫・駈(かける)を松村が演じた。
――松さんはこれまでもドラマ『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)などで坂元さんとタッグを組んできました。坂元作品のミューズのような存在でもある松さんですが、本作の脚本を読んでどのような印象を持ちましたか?
松:坂元さんの脚本に出会うのは4回目ですが、映画は初めてのことです。とても新鮮な気持ちで読みました。「面白い!」と思いつつ、タイムトラベルをする展開など「どうやって撮影するのかな?」と感じたりもして。ただそれは監督たちがなんとかしてくれるであろうことなので(笑)、過去や現在を行き来するということに目が行きがちだけど、私は自分のやるべきこととして、物語の部分も大事にしていこうかなと切り替えて臨みました。
――松村さんは、坂元さんの作品や書籍に影響を受けてきたそうです。
松村:最初にいただいた脚本は、撮影をするためのものよりもかなりボリュームがありました。撮影したら、おそらく4、5時間の映画になりそうな脚本でした。そこからどんどん洗練されていって、台本が進化していく過程を一緒に追っていく中で、坂元さんの凄さを改めて実感しました。僕が坂元さんを知ったきっかけは、松さんが出演されていた『カルテット』なんです。そこで「なんだこのドラマは。めっちゃ好きだ」と思って。今回最初にいただいたボリュームのある脚本も、絶対に取っておこうと思っています。
――坂元さんの脚本の特別さをどのように感じていますか。
松村:やはりセリフや言葉選びに、特別さを感じます。本作では、“柿ピー”のやり取りがとても好きで。駈がカンナに向かって「君は柿ピーの柿が好きで、僕はピーナッツが好き」と言うんですが、これは脚本を読みながらも「これこそ、坂元さんだ」と感じるようなドンピシャのセリフだなと感じていました。そういったセリフを言えたことは、感動的でもありました。
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■松村北斗、松たか子との夫婦役に「どうしたものか…」
――気持ちがすれ違っていく夫婦の関係性や、「この人が好きだ」と改めて感じていく過程など、お2人の紡ぐカンナと駈の心のやり取りから目が離せませんでした。お互いの初対面の印象や、共演した感想を教えてください。
松村:ご本人を目の前にしてこう言うのもなんですが、やはり最初は“松たか子”という存在の大きさに屈するんですね。
松:屈する!? 怖いこと言わないで(笑)。
松村:ましてや夫婦役をやるとなると、「これはどうしたものか…」と。正直、出たとこ勝負のような気持ちで現場に行きました。でも松さんの人柄が、そういった引っ掛かりのすべてを取り払い、ハードルの向こうに連れて行ってくれた気がしていています。「気さく」と表現すると言葉が足りない気がするんですが、お芝居をする前にまずは人柄の部分で「この人に付いて行ったら、どんな撮影期間も乗りこなしていくことができる」と思えました。
松:初対面はカメラテストだったと思いますが、その時から松村さんはたくさんお話をしてくださって。おそらく気を遣ってくれたんだと思いますが、疲れただろうなと思って(笑)。
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松:あはは! もっと透明感あふれる、ナイーブな感じだと思っていたのかな。でもお会いしてみると、ふわっとしているという感じではなく、思った以上にしっかりとした輪郭があるなと。
松村:ガタイがいいとか、肩幅が広いということではなく?
松:総合的にかな(笑)? 今回ご一緒するにあたって、相手役を演じるのが私で大丈夫なのかな!? と思っていたんです。「どうしよう」とばかり思っていたんですが、松村さんにお会いしてみると「安心感のある方だ」と感じることができました。
松村:駈ってどこか力が抜けていて、熱がこもる瞬間はどういった時なんだろうとなかなかつかみきれない部分もあって。そんな中で、松さんが「カンナがこういうテンションだから、駈は安心して話しているんだ」「カンナがこういう状況だから、駈に熱がこもっているんだ」と思えるように常に導いてくださったように感じています。カンナを演じるのが松さんじゃなかったら、僕は何をしていたんだろうと不安になるくらいです。
■塚原あゆ子監督に感謝「決して置き去りにされない」(松)「とても愛情深い方」(松村)
――坂元さんと『ラストマイル』や『グランメゾン・パリ』の塚原監督が共に作品に取り組んだのは、本作が初めてのことです。
松:坂元さんの脚本に対して「こうなんじゃないか」「こうできるかな」とチャレンジしていく塚原監督を見ているのは、「へえ! すごい!」と思うことばかりでとても面白かったですね。坂元さんも塚原監督とのタッグを楽しんで脚本を託したと思うので、お2人にとっても今回の出会いは刺激的なものだったのではないかと思います。塚原監督からは、「こうしたい」「ああしたい」というアイデアが止められないほどに次から次へと飛び出してきます。それでいて決して私たちを置き去りにすることはなく、一緒にいろいろなことに挑んでいける。とても居心地のいい現場でした。
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――倦怠期を迎え、不仲だったカンナと駈。タイムトラベルを経て、彼らの関係性が変化していきます。以前の夫婦に足りなかったものとは、どのようなものだと感じていますか。
松:おそらく2人は、変わっていないのではないかと思っています。どの次元の2人であっても、足りないものはあったはず。ただ相手に言葉を伝えたか、言わずじまいだったのかの違いで、次のページが変わっていったのかなと。きっとそんな簡単に人は変わらないし、もし「これが足りていたらその後の人生が変わったはずだ」というものがあるとしたら、知りたくないなとも思います。それがあったとしたら誰だってやり直しをしたくなってしまうし、せっかく今を生きているのに楽しくなくなってしまう。自分に「頑張れ」という意味も込めて、そんなふうに感じています。
松村:駈は、初めての瞬間を生きている人です。タイムリープしてきたカンナと出会い、彼女の話を「本当か?」と思いながらも、そのことによっておそらく駈の人生において一つ一つの積み重ねが変化していったのかなと。「これを嫌なこととしてとらえるのか、いいこととしてとらえるのか」と日々訪れる選択に対して、自分にとって何が大切なのかを確認する人生に変わっていったのかなという気がしています。
(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『ファーストキス 1ST KISS』は公開中。