夜ドラ『バニラな毎日』より(C)NHK 現在放送中の蓮佛美沙子が主演を務めるNHK夜ドラ『バニラな毎日』(総合、月〜木 後10:45ほか)。制作に携わったNHK大阪放送局の熊野律時氏(制作統括)、一木正恵氏(演出チーフ)、影浦安希子氏(企画)が4日、取材に応じた。
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原作は賀十つばさ氏の同名小説。こだわりの洋菓子店の経営がうまくいかず、店を閉めることになった白井葵(蓮佛美沙子)。そこに現れたクセの強い料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)から持ちかけられたのは、「お菓子教室」。大阪の小さな洋菓子店の厨房で開かれるお菓子教室にやってくる、さまざまな生徒とのふれ合いを描く。五感を刺激するお菓子の魔法が、孤独な人たちの心の渇きを癒やすスイーツ・ヒューマンドラマとなっている。
今回のドラマを企画したのは、NHK入局4年目の影浦氏だ。NHK大阪放送局に配属され、報道系の部署で学んだ後、2年前にドラマ班に異動。影浦氏にとって2回目となる企画書で今回の『バニラな毎日』が採択された。
よく書店巡りをするという影浦氏は、「すごくおいしそうな素敵な装丁にひかれたというのが最初のきっかけ」と振り返る。そして「悩みだったり痛みを重すぎない塩梅で書かれていて、そういう登場人物たちと接する中で、主人公自身もほぐれていくっていうストーリーだったり、佐渡谷さんっていう強烈だけど芯が温かいおばちゃんに私自身がひかれたという部分が大きいです」と語った。
熊野氏は「企画の提出に、基本的には別に年齢は問わないんですけど、2回目で通るのはなかなか珍しい」とし、「企画のテーマが明確だったっていうことだと思いますし、影浦の“こういう物語があったらいいな”という気持ちがストレートに出ていて、それが推進力になったのかなと思います」と分析した。
当初は映像化の計画に実感がわかなかったという影浦氏だが、熊野氏や一木氏などメンバーが構成されるなかでドラマ化を実感していったと言う。その中で「原作の良さを一番大切にしつつ、映像化できるからこそ、表現できるものがある。映像化する価値をどう生かしていくかを、企画書を書く上でもすごく考えた」と回想した。
そうして完成したドラマにおいて、お菓子の表現は、同作の魅力の一つとなっている。演出チーフの一木氏は「作中のお菓子はすべて、一から作るというところを製菓指導の方にやってもらって、何がポイントで、何が映像的に映えるのかなどを学び尽くして収録に臨んでいた。どのカメラ、どのレンズを使うのかに関しても貪欲に、お菓子も、もう一人の主人公のつもりで、ビターな人間模様の対比としていかに美しく、いかに可愛らしく撮るのかを丁寧にやっていた」と工夫を明かす。
さらに、一木氏は「膨らんでくるとか、香りが漂ってくるとか、ぷくぷくと泡立ってくるとか、そういうプロセスそのものに非常に意味があって、その変化に登場人物が刺激を受けていって、話したくなってくるとか、癒されていくとか、気持ちが変わってくるなど心が動くことが重要なので、湧き上がる湯気とか膨らみとか気泡とか、そういったものを撮り逃さないって、注意しながらやってます」と演出としてのこだわりを披瀝。
影浦氏は作品に対する思いを聞かれ、「劇中の登場人物もそうなんですけど、1回、2回のお菓子教室で悩みとかが完全に解決されるわけではない。それは大前提の上で、相談できる人がいることに気付く。自分の理想とは違うけど、そんな自分を受け入れてみてもいいと思える。そういうことに気付くだけで救われる人もいるんじゃないかと思っていて、このドラマがその小さなきっかけになればいいなと思っている」と話した。