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あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「フジ・メディア・ホールディングス」について。
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フジテレビは1月27日、元ジャニーズの男性と同局社員の女性トラブルを巡る問題で記者会見を行った。フジテレビ社長(辞任を発表)、副会長(会見後に辞任の意向を発表)、ならびにフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)社長、会長(フジテレビ会長を兼務、辞任を発表)、新社長が出席した。会見は10時間超に及び、トイレ休憩は一度だけだった。
いくつの質問があるか事前に明確にしない記者ばかりで、質問ではなく自己主張を重ねたり、絶叫したりする記者も多かった。私はフジテレビに同情的な立場ではなかったが、さすがに60代、70代の男性たちに怒号を浴びせたり一方的な批判をしたりするのは、人権蹂躙(じゅうりん)と感じた人たちも多かっただろう。
しかも、厳しい質問を繰り出す質問者を意図的に先に当てていたように見えた。おそらく狡猾(こうかつ)なPR会社が会見を構想したのだろう。フジ同情論が起きた。
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ところで、私は企業のコンサルティングに従業しているが、一連の報道に違和感をいだいた。某人物がフジHDで異常な支配力をもっているとされる点だ。私は実態を知らないから固有名詞を書かない。騒いでいる記者たちは皆が自分で取材をしたのだろうか。
もちろん、代表ではなくても実質的に社内を支配している人はたくさんいる。代表取締役と相談役という立場であっても、代表にとってその相談役が以前の上司で恩義を感じている場合は言いなりになるかもしれない。
しかし非上場のオーナー企業ならともかく、上場企業は性悪説を前提に制度が組まれている。
重要なのは社外取締役(社外取)という「KY(空気を読まない)」な存在だ。株主が取締役を決める際は、取締役の半数を社外から選ぶのがふさわしいとされる。
社外取は代表の報酬を決めたり、ただしい経営が行われているかを冷たく管理したりしなければならない。人間関係に左右されることなく、KYっぷりを発揮して空気に水を差し続ける仕事だ。
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よく女性芸能人が企業の社外取になったことが好意的に伝えられるが、とんでもない。責任が重い仕事だ。失敗すれば株主から訴訟される。
昨年、小林製薬がサプリメントの健康被害問題を引き起こした。同社は財務的には盤石で、すぐの倒産は考えにくい。最新期の連結純利益は107億円も出ている。
立派な業績だが、それでも前期比で47%減っているのを問題視した投資ファンドは、約110億円の被害を被ったとして株主代表訴訟に踏み切る予定だ。
対象は取締役の7人とされ、4人の社外取を含んでいる。実際には単純な割り算ではないと思うが、110億円÷7≒16億円だよ。報酬より高いはず。
また社外取が機能していなければ、上場企業にふさわしくないと証券取引所が堂々と指摘すればいい。
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もちろん社外取がすべての責任を負うわけではない。ただ善管注意義務はある。特定の人物の意図によって正しい経営判断ができていない場合は、取締役会等で正当に異議を述べる必要があるだろう。あとで責任を追及されたときに、最大限の仕事をしていたかが問われる。
フジの問題を同社のみに留めておくのはもったいない。スキャンダルの話に矮小(わいしょう)化することなく、企業統治議論のはじまりとしたい。「きっかけはフジテレビ」だっけ?
写真/時事通信社