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締め込み姿の約1万人の男衆が宝木(しんぎ)を奪い合う裸祭り「西大寺会陽」(国重要無形民俗文化財)。15日午後10時の宝木投下が迫り、会場となる西大寺観音院(岡山市東区西大寺中)周辺では準備が着々と進む。「500年余り続く伝統の祭りに出てみたい」と参加を志願した入社1年目の記者(28)が、争奪戦の練習や体を清める「水垢離行(みずごりぎょう)」に参加した様子をリポートする。
まずは練習
「宝木獲得は運が9割。少しでも確率を高め、自信をつけるためです」
本番を前に西大寺地区で練習に励む川部裕司さん(40)=瀬戸内市=が力を込める。会陽では力を合わせて宝木獲得を目指すグループがいくつもあり、川部さんが所属する「林グループ」は何度も宝木を獲得した経験を持つ実力派。常連の技をこの目で見てみたいと、1月19日と26日の練習に参加させてもらった。
宝木に見立てた木の棒を奪い、メンバーが連係してパスしていく動作を何度も何度も繰り返す。記者も「宝木」を持たせてもらい、練習をスタート。奪われないように全力を振り絞るが、つかまれ、ねじられ、するりと抜かれて、みるみるうちに遠ざかる。締め込み姿だが汗がにじむ。翌日は決まって全身筋肉痛になった。
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グッズ購入
争奪戦に欠かせない締め込みは西大寺地区のスポーツ用品店や商店で取り扱っている。記者が向かったのは「モミジヤスポーツ西大寺本店」(岡山市東区西大寺中野)。毎年「会陽コーナー」を店内に設け、締め込みや足袋をはじめ、足袋が脱げないように巻くテーピング、サポーターを扱っている。
茂成潤社長(59)は観音院の世話役を20年以上務め、祭りを陰で支える。服装のルールや日程にも詳しい。
「使った締め込みを腹帯にすると安産祈願になると言われています」と教えてくれた。
締め込みには厚手の「本まわし」と、薄手で初心者向けの「さらし」があると教わった。記者は本まわしと足袋(計5840円)を購入した。
心身を清め
会陽参加を決めたのは、さらなる成長と飛躍を願うため。体づくりも大切だが、心も清めなければと今季の最強寒波に襲われた7日、観音院の「水垢離行」に参加した。
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この日の岡山市中心部の朝までの最低気温は氷点下4・7度(平年0度)。午前9時の観音院もいてつく寒さ。上半身裸で半ズボンだけをはき、境内の垢離(こり)取り場の水の中へ。
坪井綾広住職らと水に漬かりながら必死に経を唱えた。「開運招福」を願う約5分の水行だが、頭の中は「早く出たい」一色。体も「冷たい」ではなく「痛い」。そのうち感覚がなくなり、意識もうろうとなったところでやっと終わった。
水行は2日から会陽当日まで毎日行われており、誰でも参加できる。大学生八藤秀弥さん(21)=岡山市=は争奪戦には出ないものの、水垢離行には小学生から参加。「本番に臨む父の無事と家族の健康を祈っている」と話した。
水から上がると「やりきった」気持ちにあふれ、すがすがしさに包まれた。宝木に少し近づいた気がした。
いざ本番へ
記者は観音院のある岡山市東区出身。身近だったはずの会陽だが、これまで直接見たことがなかった。
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地元だがよく知らない―。同じような人は少なくないだろう。今回の参加には「地元の行事を自分で体験して魅力を発信したい」という思いも込めている。
「会陽が好き」。取材で出会った地域の人たちはこう口をそろえた。裸衆と支える人、立場は異なれど共通するのは500年余り続く伝統行事がこの先も続いてほしいという思いだ。記者も熱気を伝えられるよう、まさに体当たりで本番に臨みたい。
(まいどなニュース/山陽新聞)