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Steam、Nintendo Switch、PlayStation5用ミステリーアドベンチャーゲーム、『都市伝説解体センター』が2月13日にリリースされた。本作が最初に大きな注目を集めたのは2023年11月、Nintendo UKによる海外版Switch用インディー作品を紹介する番組「Indie World Showcase 11.14.2023」でのことだ。
さらにその後、日本国内向けの「Indie World 2024.8.27」でも紹介され、あえて色数を減らしたドット絵のデザインや、独特の世界観、そして「都市伝説を解体する」というタイトルなどが、昨今の謎解き好きや都市伝説好きをはじめとする多くのゲーマーの琴線に触れた。
今回は本作のシニアプロデューサーである林真理氏(集英社ゲームズ)と、本作を開発した「墓場文庫」所属のグラフィッカー・デザイナーの「ハフハフ・おでーん」氏に、この個性的な作品の開発秘話をうかがう。
※この記事にはゲーム本編のネタバレが一部含まれます。
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■都市伝説を暴くのではなく、事件を解体するゲーム
――すでにご存知の方も多いと思いますが、そもそもこの『都市伝説解体センター』というのはどういうゲームなんでしょうか?
おでーん 都市伝説やオカルトをテーマにしたミステリーアドベンチャーです。ただ我々のチーム「墓場文庫」は、普段ゲームで遊ばない人や大作ゲームに疲れてしまった人でもきちんとクリアの充実感を味わえるようなアドベンチャーゲームを作るという方針でして、今作もドラマや連載漫画のミステリー作品のように、誰にでも楽しんでいただけるゲームになっていると思います。
――ボリューム的には?
おでーん 章刻みになっていて、人によりますが1章あたり2時間程度でクリアできるようなボリュームです。なので、本当にネットドラマを観る感覚でプレイしていただけるはずです。
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林 章ごとに異なる都市伝説がテーマになっていますが、それとは別にストーリー終盤に向けていろんな伏線が繋がっていって、大きな山場に向かって進んでいきます。
――本作のプロジェクトはどうやって生まれていったんですか。
林 元々、集英社ゲームズという会社ができる前に集英社に「新規事業部」という部署がありまして、そこで「ゲームクリエイターズCAMP」というインディーゲーム制作者たちを支援する取り組みを行っていました。その一環で「Google Play Indie Games Festival 2021」というgoogle社主催のインディーズゲームの公募展がありまして、そこで「集英社ゲームクリエイターズCAMP賞」という賞を出したんです。
その時に受賞されたのが、このおでーんさんがいらっしゃる「墓場文庫」さんでした。我々から賞をお渡ししたということもあり、「次の作品はぜひ僕らと一緒にやってみませんか」という雑談から本作の制作は始まりましたね。
おでーん 2021年の9月でしたね。
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――その時からすでにこういうゲームにしようという話はあった?
林 その時、墓場文庫さんが受賞したタイトルがミステリー作品で、すごく面白かったので、「次もミステリーものをやりませんか」という話はしました。「じゃあどんなミステリーにしていきましょうか」っていうのは、そこから約半年かけていろんな案を出し合っていきましたね。
――その中でテーマが「都市伝説」になったのはなぜですか?
林 いくつか出していただいた企画の中に都市伝説についての企画があって、僕自身プロデューサーとしてすごくいいなって思うものがあったんですよね。都市伝説に興味がある人たちが増えてきている流れもあるし、ミステリーとの相性もいいし、時代の波に乗りそうだなっていうのは感じました。
おでーん これまでの有名なミステリー作品で、例えばオカルトや伝承がテーマのものってたくさんあるし、その中で現代に一番フィットするのは何かを考えた時に、やっぱり都市伝説かなと思いました。ただその分、非常にチャレンジし甲斐のあるテーマだなとも思いましたね。
――本作が面白いのは都市伝説の真相を暴くというより、「解体する」というところです。
林 そうなんです。今回のストーリーは、都市伝説そのものを暴くのではなくて、都市伝説が絡んだ事件を通して、起きていることへの理解を深めて結論を出すものになっています。
例えば、「口裂け女」の正体にせまるのではなくて、口裂け女の伝説にからんだ事件が起きて、その事件の解決までを通して都市伝説を理解していくっていうことですね。
――つまり口裂け女の正体自体は出てこない?
林 そうですね。口裂け女とはこういうものだって僕らで決めつけることはしていません。僕らはそこに絡んだミステリー事件を解体していきます。
第1章だったら、「ベッドの下の男」というアメリカの都市伝説を題材にした事件が起こります。もちろんベッドの下から男が出てくるんですけど、その男が誰なのか暴くのではなくて、誰かがその都市伝説を利用して事件を仕組んでいて、それが誰なのか、なぜなのかが徐々に分かっていくようなシナリオになっています。
おでーん 集英社ゲームズさんから賞をいただいた前作は、本当にわかりやすく殺人事件が起きて解決するっていう話だったんですけど、都市伝説というのは非常に曖昧なもので、人によって言っていることが違ったり、SNSで形を変えて広がっていったりするので、基本形が何なのかが分かりにくい。だから、みんなが付けた尾ひれをちょっとずつ剥がしていったり、分類していったりするイメージで「解体」っていう言葉を付けたんです。
■もともとの出発点は「ゲームを連載できないか」
――今お話に出たSNSというのも大事なキーワードですよね。これまでのミステリー作品でも聞き込みが重要な作品は多数ありましたが、今回はSNSを駆使するパートが重要な役割を占めます。
おでーん それこそ最初は今ある調査パートだけでゲームを作ってたんですけども、現代の都市伝説というものを考えてみた時に、それらのもとになってる「ウワサ」っていうのはやっぱりSNSで流れるんですよね。昔の都市伝説は口伝で流行しましたけど。
それにSNSはリサーチにも使えて、探偵の調査に近いところもある。だったらゲーム内でSNSを表現したいよね、ということでイチからUIを作りました。
――ゲームとは関係なさそうな投稿もたくさん出てきます。「何でも政治が悪い」とか「マスコミのせいだ」とか言ってる人がいるのが結構リアルで。
林 そうなんですよ、SNSを再現するとなると無駄な投稿もたくさんある。それらを作るのはちょっと面白かったんですけど苦労もしましたね。本当に無駄なものがいっぱいあってもユーザーのプレイの邪魔だし、かといって全部を価値がある投稿にするのもなかなか難しくて、その物量と度合いは結構悩ましいところでした。
――章を追うごとにゲームの難易度は上がっていくんですか。
おでーん 基本的に我々が製作するゲームは、誰でもクリアできるように設計しているんです。なので最終的には誰でも必ず答えにたどり着けるようにはなっていると思います。
そういう意味でも、普段ゲームをやらない人、ゲームから離れてる人でも楽しめるし、価格も少し手頃な設定にしているので、久しぶりにゲームをやってみようかなっていう人でもエンディングまで行って達成感を感じていただけると思います。
――大作ゲームがどんどん映画みたいになっていく中で、むしろ逆を行くと言いますか。
林 今作では実現しなかったんですけど、もともとは「ゲームを連載できないか」っていう企画があったんです。1日1時間でプレイし終わるゲームを連載形式でやる。それは僕らの想定だと技術的に難しくて断念したんですけど、今作が1話1話ドラマ形式で進んでいくところにその名残はありますね。
――面白いアイデアですね。今回、13言語のローカライズがあって、最初の注目を集めたのも海外版Switchのインディーソフト紹介番組だったり、世界中のゲームイベントにも出展されていたりもしましたが、各国の反応はいかがですか?
林 現地メディアの方たちとお話ししてると、やはり国ごとにいろんな都市伝説ってあって、「次はぜひ台湾の都市伝説を入れてください」とか「韓国にはこういう都市伝説があるので入れてください」なんて話も結構いただいて。そこは面白かったですね。
収録しているのは日本の都市伝説が半分、ワールドワイドで有名な都市伝説が半分くらいなので、世界中の方々にも楽しめていただけると思います。
おでーん ローカライズについては集英社ゲームズさんと協議して13言語を翻訳しましょうという話になったんですけど、ちょっと無理をしたかなとは思いますね(笑)。右から左へ流れるアラビア語も入れたんですが、そうするとUIがすべて左右逆になりますし。
元の原稿を1か所を直したら、それ以外の12言語も修正しなきゃいけなかったり。謎解きなので、どちらの選択肢でも意味が通ったりするとよくないので、現地のチェックもかなりしていただいて、大変なところでした。
――また、発表当初から独特のドット絵が話題になりました。
おでーん そうですね。前作の『和階堂真の事件簿』というゲームもドット絵で作らせてもらっていて、ドット絵とミステリーの相性がいいと僕たちは思っていたんです。あえて全部を表現しきれないドット絵って、脳内で情報を想像して補完するミステリーと似てるんですよ。
なので今作でもドット絵を使おうということになったんですけど、前回以上にもっとキャラクターに寄ったものにしようということで、実は解像度的にはスーパーファミコンよりも粗い解像度でゲームを作っています。でもそれが今の時代での実写の同じような3D映像と並んだ時に逆にインパクトが出たんじゃないのかなと思ったりもします。
林 僕自身はドット絵と言っても、昔ながらのドット絵とはちょっと違うと思ってるんです。例えばYOASOBIのMVでアートアニメみたいなものが描かれますけど、ああいうものをドットで表現している感覚に近い。ゲームのドット絵というよりも、アニメを描く際にドット絵という表現方法を選択している感じですね。
そういう意味で、古くからあるドット絵の表現ではなくて、現代的な表現の中でドット絵で表現したら面白いんじゃないの?っていう提案ができていると思います。そこはすごく魅力的だと思うし、みなさんにウケるだろうなとは思っていました。
■集英社のゲーム会社だからできたこと
――主人公の「福来あざみ」は「念視」の能力を、あざみに指示を出す「廻屋渉」は「千里眼」の能力をそれぞれ持っていますが、そのあたりはマンガ的でもあるのかなと思いました。
林 それは結果的にマンガっぽくなったというほうが近いかもしれないですね。都市伝説がテーマだし、システム的にもそういう能力をゲームに落とし込むと面白いだろうなと。
ただ、集英社ゲームズにはもともと集英社でマンガ編集をしていた方もいらっしゃって、そういう元マンガ編集者からのアドバイスはいつも的確なものが多いので、結構ゲームに取り入れています。
――どういうアドバイスがあったんですか?
林 一番大きかったのはゲームの冒頭部分。マンガだと第1話の最初の20ページぐらいで、主人公はどういう人で、立ち位置がどこで、どこに向かっていくのかっていうのを読者に認識させる必要がありますよね。それをゲームでもちゃんとやった方がいいんじゃないかと言われて、立ち上げの部分は一度作り直しをしました。
『こち亀』や『呪術廻戦』の作家さんを担当していた、元ジャンプ編集部の方なんですけど。
――そういった、マンガ編集の技術も取り入れたゲーム会社って他にあまりないと思うんですけど、そういうところは「集英社ゲームズらしさ」なのでしょうか。
林 これには明確なビジョンがあって、まず、ゲームってもう技術的に素人ひとりでも作れるようになってきたわけです。ということは作家性とか作品性、オリジナリティみたいなものってすごく出やすくなってきてるんですね。
だから、ある1社で大勢でゲーム作りをやっていると、その会社の中で平均的に良しとされるものしか作れないけれど、個人や数人の開発チームだと、彼らのエゴを出して作れるようになってきた。
集英社ゲームズはそういった、開発チームがこのタイトルで表現したかったものへの情熱を大事にしてゲームを作っていきましょうということを常に考えています。僕らはマンガ編集をリスペクトしてるので、マンガ家の先生が情熱を形にしていくノウハウをゲームでもできたらなって思ってるんですよね。
そこに加えて、個人チームではできないようなこと、例えば今回のように世界に届けるために13言語のローカライズを行ったりというお手伝いもしようと。当然、面白いゲームは口コミだけで世界中に広がることもありますけど、それに巡り合えない製作者もたくさんいる。
日本のマンガってすでに世界中に広がっていますよね。マンガと同じように、日本のゲームが世界に広がっていけばいいなと思っています。まあ、大きいことは言ってますけど、まだ会社がスタートして3年目なので、本当よちよち歩きなんですが。
――おでーんさんは作り手としていかがですか? 個人でやるより集英社ゲームズと組んだ方がよかったですか?
おでーん そうですね。我々は4人でゲームを作ってるんですけど、4人いるとは言え、4人でできることって相当限られているし、作るもの自体すごく偏っていたりすごく狭かったり、あるいは過不足があったりします。
そういうところを客観的に見てもらえるという面でも助かりますし、何より個人ではできない大きなプロモーションをがっちりやっていただけるのはインディー開発者にとっては非常にありがたい環境。それこそ任天堂さんの「Indie World」で紹介されたこともそうですし、個人の開発チームではできなかったことがこの約2年半でたくさんありました。
――こうなってくるとメディア化も視野にありますか?
林 そうですね。アドベンチャーゲームってストーリーがあって、キャラクターがあってっていうことを考えると、マンガとかアニメに近いなって思うところがあります。ただ、マンガ発でアニメやゲームになることはあっても、ゲーム発でアニメやマンガになる例ってまだそんなにないですよね。そういうことは集英社ゲームズだからこそできるんじゃないかなと思っています。
現状で決まっているのは、読み切りマンガが「少年ジャンプ+」に掲載されることですね。そうなると次はアニメ化かドラマ化でしょうか。やりたい方はぜひ集英社ゲームズまでご連絡を、ですね(笑)。他にも今作は宣伝にも力を入れているので、詳しくは下記をご覧ください。
――最後に意地悪な質問をしますけど、こうやって尖ったクリエイターたちを集めていくと、先ほど話のあった「集英社ゲームズらしさ」は逆に損なわれたりはしないですか?
林 まだ未知数ですけど、「集英社ゲームズらしさ」は別にそんなに要らないんじゃないかなって思います。ジャンプには「面白ければ良い」みたいな価値観があると僕は思っていて、それがきっと「ジャンプらしさ」みたいなものに繋がっていると思っています。
なので、集英社ゲームズも同じように進んでいって、結果的に「集英社ゲームズらしさ」になれば良いなと思っています。
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■ハフハフ・おでーん
墓場文庫に所属するグラフィッカー・デザイナー。『和階堂真の事件簿』シリーズや『都市伝説解体センター』の開発を担当。実験的開発ユニット"スカシウマラボ"の一員でもある。
■林真理
集英社ゲームズのシニアプロデューサー。過去にはディレクター・プロジェクトマネージャー・アートディレクター・3DCGデザイナーなども経験。
集英社ゲームズ公式X【@ShueishaGamesJP】
トシカイくん(都市伝説解体センターマスコットキャラクター)公式X【@toshikaikun】
※2月13日から「少年ジャンプ+」にて完全オリジナルストーリー特別漫画『都市伝説解体センター 異聞:くねくね』を公開
※2月13日から3月9日まで『都市伝説解体センター』オリジナルしおりがもらえる全国書店コラボキャンペーン実施
詳細はこちら:https://hon-hikidashi.jp/event/53092/
※2月17日から3月2日まで「ヨドバシカメラマルチメディアAkiba『都市伝説解体センター』発売記念イベント」を開催
詳細はこちら:https://x.com/ShueishaGamesON/status/1889844186570170436
取材・文/酒井優考 ©Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES